【ドルフロSS】データルームを覗いたときにたまたまいるキャラでSSを書く

使われたもの UMP9 UMP45 M45 報告書を書いているカリーナ 少々のアルコール  やけくそ気味の勇気
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アグラ @Agura_DC

「どいてどいてー!」 夕刻、データルームに慌ただしい声が飛び込んできた。M45は反射的に身体を操作ステーションから遠ざけた。そしてそれは懸命な選択だった。 「とうちゃーく!」 M45が動くのとほぼ同時に戦術人形が操作ステーションに放り込まれた。遅れて二人の戦術人形が入室する、UMP9とUMP45。

2018-11-27 19:29:40
アグラ @Agura_DC

「M45? こんばんは~」「こ、こんばんは」 M45はこの姉妹を苦手に感じていた。それは自身でもうまく説明できないが、とにかくこの二人からは何か自分とは相容れない違うものを感じるのだ。 「帰還してすぐこちらに? ずいぶん慌ただしいですね」

2018-11-27 19:30:18
アグラ @Agura_DC

「まあね、ちょっと酷い死に方したものだから、早めに届けておいたほうがいいかと思ってね」 UMP9が言いながら、今しがた投げた死体に目をやる。操作ステーションはすでに起動していてUMP9の解体を始めていた。 「うっ……ひどい……」

2018-11-27 19:31:01
アグラ @Agura_DC

M45は死体の惨状に吐き気を覚えた。頭部は下顎を残して吹き飛んでおり、なんとか残っていた舌が血と脳漿でぬらぬらとてかっている。胴体に至っては大口径の弾を受けたらしく腹から胸にかけてスプーンで抉られたかのように消失していて、循環液と昼食だったらしきなにかがだらだらと溢れ落ちていた。

2018-11-27 19:32:50
アグラ @Agura_DC

「ひどいよね、ほんと。私ったら鉄血の盾持ちに頭かち割られて、もう死んでるのにそこにまだ後ろからバンバン打ち込んでくるんだもん。記録装置なくなっちゃうかと思ったけど、今回は運良く残ったみたい」 UMP9は自分の死体を前にしてあっけからんとその死に際を語った。

2018-11-27 19:33:19
アグラ @Agura_DC

「平気なんですか?」 M45は率直な疑問を口にした。自分なら、それがダミーリンクのものでも自分の死体が酷い死に方をしていたらそう平気の平左とはいかない。 「平気? なんで?」 「なんでって、自分が死んだんですよ」

2018-11-27 19:33:57
アグラ @Agura_DC

「私は死んでないよ、ほら」 UMP9は両手をひろげてみせた。確かに五体満足、目立った損傷はない。……彼女自身には。 「カリーナさん、これ今日の報告書です。置いておきますよー」 M45の後ろではUMP45がカリーナとごく普通に事務的なやり取りをしていた。

2018-11-27 19:34:46
アグラ @Agura_DC

UMP45はもちろんタイプライターを叩くカリーナも平素と変わりなく、M45は自分が酷く場違いな存在なよう思えた。 「ダミーが死ぬのってそんなに大変なこと?」 UMP9は首を傾げた。その目はまるで宇宙人でも見るかのような、理外の存在に向けられるものだった。

2018-11-27 19:35:47
アグラ @Agura_DC

「だって……死んだんですよ。人形が一人!」 M45とて自身のダミーが死ぬのはもう何度も見ている。だがそれは何回経験しても慣れることなどできない不快極まりない経験だった

2018-11-27 19:36:26
アグラ @Agura_DC

はらわたをぶちまけた私、首から上が吹き飛んだ私、穴あきチーズみたいになって全身から循環液をこぼす私、火炎瓶を受けて炭化した私、地雷を踏んで手足があべこべに曲がった私。 何度も何度も見てきた光景だ。見るたびに考える、いつか自分もこうなるんだと。

2018-11-27 19:37:03
アグラ @Agura_DC

「平気なんですか? 私は平気じゃないです」 M45の声は震えていた。いや、身体すらそうだ。恐怖で震えていた、隠しようがなかった。 「そうなんだ。私はもう平気になっちゃった」 どっちがいいんだろうね? UMP9は笑いながら続けた。

2018-11-27 19:37:50
アグラ @Agura_DC

「9、ご飯食べにいこー?」 UMP45が戻ってきた、よく見れば彼女は右足を引きずって歩いていた。 「UMP45さんも、平気なんですか?」

2018-11-27 19:38:43
アグラ @Agura_DC

「この足? それなら平気、すぐ直るから。それとも自分や姉妹の死体を見ることについて? それなら分からない。もう何も感じないから、平気なのか、辛いことなのかも、もうわからない」

2018-11-27 19:39:56
アグラ @Agura_DC

M45は言葉を失った。この二人は自分より何度も多く激戦区に送られ、任務をこなしてきた人形なのだ。一体どれだけの自分や姉妹の死を見てきたのだろう。 UMP9は何を言うでもなくUMP45に寄り添い肩をかしてデータルームから出ていった。今日の夕食の献立について話ながら自然に出ていった。

2018-11-27 19:41:48
アグラ @Agura_DC

あの二人にとっては、死体を運ぶのも肩をかすのも大差ないことなのだろう、M45はぼんやりと考えた。 「M45さん。片付けをお願いできますか?」 タイプライターから目を離さないまま、カリーナが呼びかけた。この人も、平気なのだろうか。訊くのはさすがに憚られた。

2018-11-27 19:44:09
アグラ @Agura_DC

返事をしてM45は操作ステーションから降ろされた二体の人形――UMP9、そしてM45の――残骸を両肩に担いだ。今日の夕食は食べられそうにない。M45は重い足取りでデータルームをあとにした。

2018-11-27 19:45:20