『異世界総力戦に日本国現る1』発売記念外伝まとめ

講談社レジェンドノベルスより刊行された拙著『異世界総力戦に日本国現る』の世界を知ってもらいたいため、投稿した外伝のまとめです。
20
河畑濤士 @KWHTTS

だが彼らの努力を以てしても、防衛は容易ではない。この異世界における日本列島の地理的状況は、彼らにとってあまりに不利であった。関東平野最東端の犬吠埼と、大半が魔族の勢力圏に収まった大陸は、わずか200海里(約370㎞)しか離れていない。【22】

2018-12-07 02:47:18
河畑濤士 @KWHTTS

敵航空基地を発った超音速翼竜騎兵が、政府機関と人口が集中する首都圏上空に進出するまでに要する時間は30分程度。これは飛び立つ敵騎を捕捉してから、要撃機を上げることが十分間に合う時間ではある。しかしながら余裕があるとも言い難かった。万が一、撃ち漏らした場合には後がない。【23】

2018-12-07 02:56:06
河畑濤士 @KWHTTS

つまり現在の日本は政府機関の集中する弱点を、相手の手の届くところに晒しているような状態であった。それを航空総隊司令部の人間はよく理解していたし、海自・海保や陸自、都道府県警察は魔族特殊部隊が大陸に最も近い関東地方に対して、再び隠密上陸を仕掛けてくる可能性を警戒していた。【24】

2018-12-07 03:03:53
河畑濤士 @KWHTTS

「詳しくは不明です」「城塞都市の航空監視は」「現在のところ敵騎は確認できておりません」……故に陸海空自衛隊関係者は情報幕僚アーネの報告を聞いたとき、ごくごく無意識の内に(再び敵が仕掛けてくるならば、それは大陸に近い関東・東北地方であろう)と思った。【25】

2018-12-07 03:15:22
河畑濤士 @KWHTTS

それを裏づけるようにその後、魔力波の発信量は大陸西端の沿岸部で増加していることを、正統王国軍情報部がキャッチ。さらに城塞都市からは郊外に設けられた魔王直轄軍第1航空艦隊前線基地から、魔力波が活発に発信されている旨の報告が届いた。日本政府は、この一報に緊張した。【26】

2018-12-07 03:19:38
河畑濤士 @KWHTTS

……実際のところ大陸西岸での通信量の増加は、魔王直轄軍の仕掛けた陽動作戦の一環である。だがしかし、まさか魔王直轄軍の狙いが政経の中心である首都圏ではなく、単艦西へ向かう『世宗大王』であるとは、自衛隊関係者は夢にも思わない。【27】

2018-12-07 03:24:53
河畑濤士 @KWHTTS

すわ、第2次犬吠埼沖航空戦か――陸海空自衛隊は再び大規模な航空戦に備え始めた。現在、首都圏の空の守りに就いているのは第7航空団第301・第302飛行隊(ともに茨城県小美玉市)のF-4EJ改戦闘機。【28】

2018-12-07 03:28:58
河畑濤士 @KWHTTS

そして米海軍第5空母航空団第27打撃戦闘飛行隊ロイヤルメイセス、第102飛行隊ダイアモンドバックス、第115飛行隊イーグルス、第195飛行隊ダムバスターズのF/A-18E/F戦闘機である。だがしかし、日米両軍ともに連日の戦闘で消耗が激しく、稼働率が落ちている。【29】

2018-12-07 03:34:04
河畑濤士 @KWHTTS

そのため第2次犬吠埼沖航空戦が生起した際には、先の航空戦と同様に第6航空団第303・第306飛行隊(ともに石川県小松市)の来援を頼むことになっていた。さらに今回は航空総隊司令部の粘り強い交渉により、米空軍第35戦闘航空団(青森県三沢市)のF-16C/D戦闘機の参戦が約束された。【30】

2018-12-07 03:38:48
河畑濤士 @KWHTTS

海上自衛隊と米第7艦隊の参加戦力はほぼ先の航空戦と同様だが、今回は対航空機戦というよりは、再び超高空を往く火竜に対抗するためBMD戦に備える格好である。しかしそれでも必要に応じて、SM-2をはじめとする艦対空誘導弾で友軍を援護する手筈になっていた。【31】

2018-12-07 03:43:45
河畑濤士 @KWHTTS

こうして陸海空自衛隊と在日米軍は再度の大規模航空戦に備え、列島東方の空を注視した。【32】

2018-12-07 03:45:40
河畑濤士 @KWHTTS

「城塞都市航空監視哨より魔力波通信。敵翼竜編隊、西進――規模は連隊(定数108騎)とのこと」その夜、航空総隊司令部にいよいよ敵襲の一報が舞いこんだ。1分1秒が惜しい要撃戦。司令部内は一挙に慌ただしくなった。「601SQのE-2C、602SQのE-767も同様に西進する目標を捉えています」【33】

2018-12-10 00:05:56
河畑濤士 @KWHTTS

「中部航空方面隊司令部(埼玉県狭山市)にCAP(戦闘空中哨戒)中の機を……」「内閣官房に航空攻撃事態を報せ」「官房経由だと遅くなる、消防庁担当者にも直接報せ」「VFA-115、コールサインTALONを要撃に上げます」「よろしくお願いします」【34】

2018-12-10 00:16:43
河畑濤士 @KWHTTS

「航空攻撃情報。航空攻撃情報。当地域に航空攻撃の可能性があります。屋内に避難し、……」節電のため灯火が消え果て、夜闇に包まれた街に人々の不快感を誘うサイレンが鳴り響く。千葉県、茨城県の各市町村を皮切りに、首都圏全域にJアラートで航空攻撃情報が伝達された。【35】

2018-12-10 00:22:34
河畑濤士 @KWHTTS

「屋内に避難して、テレビ、ラジオを付けろって言われてもな……」Jアラートに叩き起こされて途方に暮れる人々を守るため、夜空に次々と銀翼が上がる。百里基地(茨城県小美玉市)上空では、空中哨戒にあたっていたF-4EJ改戦闘機と、緊急発進した機が合流し、戦闘態勢を整えた。【36】

2018-12-10 00:31:37
河畑濤士 @KWHTTS

さらに在日米軍厚木基地(神奈川県綾瀬市)より、第115打撃戦闘飛行隊イーグルスのF/A-18Eが緊急発進。爆音とともに東京湾上空を横切ると、人魔闘争の最前線となる千葉県上空に姿を現した。敵の第1撃を防ぎとめる任務は、ファントムとスーパーホーネット、この新旧艦載機コンビに託された。【37】

2018-12-10 00:41:35
河畑濤士 @KWHTTS

一方、正統王国城塞都市上空を通過し、犬吠埼東方沖へ進出せんとする魔王直轄軍第1航空艦隊の作戦騎の内訳は、まず制空任務騎が1個連隊約100騎。その上空と南北の位置には、敵噴進弾を捜索するための早期警戒役の翼竜騎兵数十騎が配されている。【38】

2018-12-10 00:48:01
河畑濤士 @KWHTTS

数的優位は魔王直轄軍第1航空艦隊の側にある。だがしかし、先の航空戦のキルレシオを鑑みれば、彼らは積極的に攻撃する気にはなれなかった。また彼らの任はあくまで陽動。各大隊・中隊長は自部隊と敵部隊の間合いを見極め、慎重な指揮を執る。【39】

2018-12-10 00:54:18
河畑濤士 @KWHTTS

「【誘導魔弾】、撃(て)ぇ!」「タロン01、FOX3!」まず彼我の間で中距離戦が勃発した。白光を曳きながら奔る魔弾36発と、F/A-18Eが放ったアムラームミサイルが交錯する。だが双方が放った攻撃は、無為に終わった。原因は人魔ともに攻撃に対して消極的であったからにほかならない。【40】

2018-12-10 00:59:54
河畑濤士 @KWHTTS

「翼竜騎兵とは十分に距離を取り、もっぱら視界外戦闘で片をつけるべし。数的劣位での視界内戦闘は不利」――それが召喚直後の第301飛行隊と翼竜騎兵との交戦から得られた戦訓であった。そしてこのとき、自衛隊機と米軍機はそれを忠実に守った。【41】

2018-12-10 01:04:48
河畑濤士 @KWHTTS

一方の翼竜騎兵たちも前述の通り、損害を最小限に留めるために乱戦を挑むつもりはなかった。攻撃ではなく、敵噴進弾の迎撃と回避を優先する。こうして両者ともに約100㎞以上離れた位置で視界外戦闘を開始し、その距離を詰めることはついぞなかった。【42】

2018-12-10 01:08:28
河畑濤士 @KWHTTS

結果、戦術的な戦果は双方得られない。だがしかし、第1航空艦隊の側は大陸西岸上空に居座ることで、自衛隊機・在日米軍機を犬吠埼東方沖に拘束するという戦略的な目標を達成していた。この間、本命の攻撃隊は航空基地を出撃後から超低空飛行で大きく迂回し、大陸南西の海域へ進出していた。【43】

2018-12-10 01:12:11
河畑濤士 @KWHTTS

その頃。闇夜の中、韓国海軍ミサイル駆逐艦『世宗大王』は順調な航海を続けていた。横須賀出港以来、彼女が他の船影とすれ違うことは、ほとんどなかった。犬吠埼沖航空戦以来、民間船舶は翼竜騎兵を恐れて旧太平洋側航路の使用を最低限に抑えている。【44】

2018-12-13 00:26:35
河畑濤士 @KWHTTS

航空自衛隊と在日米軍の努力により、日本列島周辺の航空優勢は保たれている。だがしかし、それでも超音速翼竜騎兵の散発的な襲撃を、完全に防ぎきれるとは言い切れない。それは『世宗大王』艦長をはじめとする、韓国海軍士官たちもよく理解していた。だが彼らには、一種の驕りがあった。【45】

2018-12-13 00:36:23
河畑濤士 @KWHTTS

それはやはり高度に武装化された艦艇に乗っている、という自意識から来るものであった。実際、出港前には海自関係者から、単艦での行動は危険である旨を警告されていたが、それに対して彼らは形ばかりの謝意を示し、そして半ば無視するように彼らは航海に乗り出したのだった。【46】

2018-12-13 00:41:27