「うわ、食べるつもりだ、この人ら」「待て、手を着けんな。誰が送ったものかもわからねえんだぞ」さすが年長者、鶴の一声。身を乗り出していた鼓太郎と美笛が、ぴたりと動きを止める。「大丈夫だと思うわよ」しかし、反論は意外にも、レシートを見ていた琴乃から出た。「ほらこれ。裏、見て」
2018-11-20 13:13:01言われるがまま覗いた小さな紙面には、申し訳なさが滲み出る字で、こう書かれていた。 『お客さまからのご要望により、こちらにメッセージを記入させていただきます。 肥えろ。SP 以上です』 「スイートPさん…」最も関係の深い美笛が、頭を抱える。「なんか…済みません…着払いで…」
2018-11-20 13:13:01「み、美笛ちゃん、の、せいじゃ、ないから」「でも…」「割り勘だ。それでいいな?」「あ、ああ。たいした、額じゃ、ない、から。みんなで、割れば、千円、切る」「ありがとうございます…」「じゃ、いっただっきまーす!」「あっ待て鳴子、てめ!」「もう撮ったし。早いもん勝ちー」「美味い」
2018-11-20 13:13:02てんでに食べ始められるピザを見ながら、立ち尽くす。「律」流れに乗れない主役を促したのは、やはり笙悟だった。「怨念、しっかり受け止めてやれ」「…わかっ、た」メビウスを壊した責任、部長として、果たすべきだろう。「美味いな」「そうだろう」何故か維弦がドヤ顔をするほど、ピザは美味かった。
2018-11-20 13:13:02一般的にカマンベールチーズが上等なものであればあるほど、皮が固くて蝋燭は立たないんじゃないかと気付き、蝋燭を立てるためにあらかじめ箸でわざわざ穴を開ける式島を想像してしまったが、一般的にカマンベールチーズには蝋燭を立てない
2018-11-20 13:46:24橘も式島にそっと摺り寄って「今日は君の誕生日だから、好きなことしていいんだよ…?」と甘く囁いたら、ごくりと唾を呑んだ式島から、よもや「味噌汁にカマンベールチーズを入れたい」と言われるとは思っとらんでしょ
2018-11-20 13:58:57「ね、式島。どうしたい? 何でも言っていいんだよ」 「お、お前、の、」 「うん」 「お前の、作る、味噌汁に、カマンベールチーズを、入れたい」 「僕の作る味噌汁にカマンベールチーズを」
2018-11-20 14:01:41「美味いと、聞いては、いたんだが、お前に、悪いと、思って、とても、試せ、なくて」 「僕の不在時にでもこっそり入れて食べてみればよかったのでは」 「お、お、お前に、迷惑は、かけない。椀に、取って、その一杯、だけに、するから!」 「そこまでされたら逆に僕も味が気になってくるんだけど」
2018-11-20 14:11:32もう今年の誕生日は二人でカマンベールチーズ入りの味噌汁を啜りながら「あっ意外に美味しい」「そ、そう、か!」(我がことのように喜んでる…)みたいに過ごす橘と式島でいいじゃない カマンベールチーズに包まれろ
2018-11-20 14:22:45壁の薄い安アパートでブッチョとやることやってた結果、隣の住人から壁を蹴られて「うるせーホモ!」と罵られたことのある笙悟ちゃん、それからは常に声を抑えて、迷惑にならないようにしているのに、面白がってブッチョが訪ねてきただけで壁を蹴ってくるようになった先方に閉口していたところ、
2018-11-20 16:20:12ブッチョが突然の大音量デスボで「うるせーノンケ!」と壁を蹴り返し、以降は嫌がらせされなくなったどころか、顔を合わせると怯えて避けられるようになったので、(あの声、俺じゃねえんだけどなあ…)と思いつつ惚れ直してる
2018-11-20 16:20:13隣の住人は、訪ねてくるほっそりしたキレイめの男がネコだと勝手に思ってるし、キレて怒鳴り返してきたのは、普段の態度こそおどおどしてるが実は結構ガタイのいい部屋の主だと思っているが、何もかも逆なんだよなあ
2018-11-20 17:26:32笙悟ちゃんは当然ながらしばらくは実家暮らしっぽいが、ゆくゆくは安アパートを借りて独り暮らしを始めてほしいし、部屋は散らかりまくってほしいし、晩酌には第三のビールを飲んでてほしいし、給料日前はもやしで喰い繋いでほしいし、ブッチョから「まず酒をやめろ」と尤もなツッコミを食らってほしい
2018-11-20 17:51:48節約してるつもりで数を買うからこういうことになるんだろ、と呆れつつ給料日前になると、いいお値段の肉を持って遊びに来てくれるブッチョ 猫の額みたいなキッチンで精の付く料理を作ってくれるよ ビールも買ってきてくれるよ 笙悟ちゃんが付けた精はその夜に吸い取るのでお代は要らないよ
2018-11-20 17:55:42翌日はごろんとしてる笙悟ちゃんを横目に部屋を掃除してくれるよ 何もかもさせて悪いなって言うと「まあ俺が死んだら墓の面倒は笙悟に見てもらう訳だから」と真顔でぶち込んでくるので笙悟ちゃんも真顔だよ 冗談だって笑って再び掃除機をかけ始めるけど、本当に冗談かどうかは誰にもわからないんだよ
2018-11-20 18:04:04