【身内用ログ】ほぼ日刊

日刊のやつ
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野性の野良 @__noranora

こんな可愛いやつだったっけ? そう思いながら、ヴァレイシュはティイの頭をぽんぽんと撫でてやる。 規格外のサーヴァント。出自は不明。魔力は上々。あの悪魔の血から製造されたホムンクルス。 「イシュ。オレ、なにしたらいい?」 「んー……そうだなあ…最初は訓練からだよなあ」 「なんの訓練?」

2019-03-13 21:53:41
野性の野良 @__noranora

「サーヴァントとしての、だよ。お前のステータス、ちょっと見るぞ」 「えー…、やだ、恥ずかしいじゃん」 「何言ってんだ。見せろよ、減るもんじゃないだろ」 筋力C、耐久C、敏捷B、魔力A、幸運A+、宝具B――それが、ティイの能力を数値化したものだった。 「…てかお前の宝具って何?」

2019-03-14 22:17:56
野性の野良 @__noranora

「宝具?…ごめん、わかんない」 「知らないのか?」 「ないわけじゃないよ、多分。ただ、どうしたらいいかわかんねェ、っていうか」 ヴァレイシュの目の前で、ぱちんとティイが両手を合わせる。その一瞬でティイの手の中に現れたのは、不思議な形をした銃だった。 「なんだこれ…銃火器?」

2019-03-15 21:17:08
野性の野良 @__noranora

「うーん、ちょっと違う、かな?」 手の中でそれを転がしながら、ティイは呟く。そして、無造作に銃口を覗き込もうとしたヴァレイシュの頭をぽかりと叩いた。 「バァカ。何やってんだよ、最悪死ぬぞ?」 「だいじょーぶだって。それよりこれ、どこから弾込めりゃいいんだよ。使い方わかるのか?」

2019-03-16 21:01:40
野性の野良 @__noranora

「うん、わかる…大丈夫だと、思うんだけど。でも、これって必要?」 「ん?」 「これからオレ、誰かと戦うの?サーヴァントだもんな?」 「あー……いや、今はまだそんな段階じゃねーな。何をするかも決まってねえよ」 「それじゃさ、それじゃ、」 おずおずと、ティイはヴァレイシュを見上げる。

2019-03-17 20:59:31
野性の野良 @__noranora

『それじゃね――』 ――唐突に、夢から覚める。 ぼろぼろと涙がこぼれた。なんて懐かしくて、遠くて、痛くて優しくて、残酷な夢。 だって、イシュはもういない。いないのだ。 目の前で、目の前で消えた。先生が、笑いながらイシュを消した。 僕から逃げられるなら、逃げるといいよ。そう言って。

2019-03-18 20:17:19
野性の野良 @__noranora

消えながらイシュが何かを操作して、逃げろ、と言って――伸ばした手は、届く前に消えた。ただの数式の羅列となって。 それから、ティイはここに来た。イシュが送り出してくれたのだろう。 だって、彼は望んでいたから。世界が救われることを。 こちらの世界の、自分に。助けを求めるために。

2019-03-18 20:17:19
野性の野良 @__noranora

だから、ティイはたった一人で、ここに来た。 「……目が……覚めたか、ティイ」 ひどく掠れて緊張した声に、ティイは顔を上げる。 「……イシュ……」 消えたはずの、イシュ。ううん、違う。こっちの世界のイシュで、別人なんだ。こっちの世界のオレは――いない。どこにいるんだろう。

2019-03-18 20:17:19
野性の野良 @__noranora

「…こっちの世界のお前は、ここにいるんだよ」 そう囁いて、憔悴した顔のイシュは自分の胸に手を当てる。それで、ティイにもわかった。 …目の前にいるイシュは、デミ・サーヴァントだ。サーヴァントと融合した人間――融合したサーヴァントは、こちらの世界の自分。 「イシュ」 「ああ。何があった?」

2019-03-18 20:17:20
野性の野良 @__noranora

「イシュ…」 ひし、としがみついてくるティイを抱き止めて頭を撫でてやりながら、ヴァレイシュは囁く。 ぐす、と一度だけ鼻を啜った後、ティイは顔を上げる。 「――あっちの世界は、もうオレ以外はいないんだ。…先生に……ガーラルドさんに憑りついた魔神柱のせいで、皆、…みんな…イシュも…」

2019-03-19 21:14:43
野性の野良 @__noranora

「魔神柱?」 それが敵の名前か、とヴァレイシュは鋭い目をして呟く。 なのに、ティイの頭を撫で続ける手は、とても優しい。彼はイシュではないのに、それがわかっているのに、無性に泣きたくなってしまう。 「――ヴァレイシュさん、どう……?」 その時、不意に部屋の扉が開かれる。

2019-03-20 20:47:59
野性の野良 @__noranora

恐る恐る顔を出したのは、自分と同じ顔の少年。 ――オレの――オリジナルだ……。ティイはすぐに気付いて、ヴァレイシュの陰に隠れるように、さらに強くしがみ付く。 だから、自分の本体が少しだけ不満げな顔をしたことに気が付かなかった。 「ああ。もう大丈夫だ。少し休めばすぐに元に戻る」

2019-03-20 20:47:59
野性の野良 @__noranora

さら、と優しい手がティイの頬を撫でてからそっと離れる。 なんとなく居心地の悪いままティイはベッドの上に膝を抱えて座り、小さくなった。その頭の上に、ばさりとヴァレイシュが自分の着ていた白衣をかける。 「…わ」 「今はいい、霊基が修復されるまで、ここで休んで行け。な?」

2019-03-20 20:47:59
野性の野良 @__noranora

「……いいの?」 「良いも何も――」何かを言いかけて、ヴァレイシュは口を噤む。 それからひどく懐かしいものを見るような目をして、ティイの頭をわしわしと撫でた。 「った……なに、すんだよ」 「いんや。ただまあ、ちょっとな。おいティイ、行くぞ。暫くは一人で休ませてやらなきゃな」 「「え」」

2019-03-21 20:22:41
野性の野良 @__noranora

二人同時に返事をされて、ヴァレイシュは一瞬言葉を失う。 「あ、…あー、な。金髪の」 「バーカ。もっとまじめに考えろよ」 「はは、悪ぃな」 ぼりぼりと頭を掻きながら笑うヴァレイシュの顔が、少しだけ寂しそうな事に気が付く。二人同時に。 「あ…オレ、大丈夫、だから。だけど、少し休みたいな」

2019-03-22 20:22:27
野性の野良 @__noranora

「ん。休んどけ休んどけ。あとでゆっくり話、聞かせてもらうからな」 「うん…」 ヴァレイシュの言葉にこくりと頷くと、ゆっくりとティイは横になる。しかしヴァレイシュの白衣だけは、手放そうとしない。 「――オレ、先に行ってるね」 ティイがぽつりと呟き、個室を後にする。再び、二人きりになった。

2019-03-23 20:36:51
野性の野良 @__noranora

「イシュ」 白衣を自分の口元まで引き寄せながら、ティイはヴァレイシュを見上げる。 「…今の子が、オレのオリジナル…なんだよね」 自分は彼の側面、アルターエゴで――本物ではないのだと、痛感した。 彼がヴァレイシュに思いを寄せているのにも気づいた。 当人は気づいていないが。鈍いのは一緒だ。

2019-03-24 20:08:46
野性の野良 @__noranora

「可愛いよね」 「ん?…かわいい?か?そっかなー。何かにつけ突っかかってくるから、若いなとは思うけどさぁ」 「…うん。かわいいよ」 小さく笑いながら、ティイは目を閉じた。 「じゃ、ホントに少し休むね。おやすみ、イシュ」 「ああ。おやすみ、……ティイ」 少し躊躇うように、名前を呼ばれた。

2019-03-25 21:40:37
野性の野良 @__noranora

あ、これオレとイシュが初めて会った時と、同じだ。 ふわふわとそう思いながら、ティイはひと時の眠りにつく。 ――待ってて、イシュ。オレ、約束は守るから。 アンタが願った通り、オレが世界を救う。だってオレ、アンタの一番のサーヴァントなんだから。 だからもう少しだけ待ってて、イシュ。

2019-03-26 19:50:06
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