【身内用ログ】ほぼ日刊

日刊のやつ
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野性の野良 @__noranora

「僕が未来視で見た中で、知らない顔をベースに作ってみたんだ。どうかな」 「…感想を求められてもな」 呟いて、俺は『それ』を見上げる。大人一人楽に収まる培養層。透明な水が満たされた中で、銀色に近い髪の毛が揺れている。日焼けしていない褐色の肌は何処か不健康な色で、目はガラス球のよう。

2018-12-30 00:44:38
野性の野良 @__noranora

「人工サーヴァント。もういらないからさ。持っていってくれないかな?」 「――いらないって、お前」 硝子の中の瞳は、ヴァレイシュを見つめたまま揺るぎもしない。 「だからって殺すとヒューゴが怒るし。ちょうどいいじゃない、君の研究の役に立ててよ。英霊召喚とはどういうものなのか、っていうさ」

2018-12-30 21:17:50
野性の野良 @__noranora

「……それは」 英霊。サーヴァントと呼ばれるそれ。ヴァレイシュは彼らを呼び出す方法を研究していた。 誰でも知っているような、過去の英雄たち。彼らの力を借りることが出来れば、直に訪れるらしい、滅びの運命から逃れられるのではないか――と、考えていたのだ。 だが、そう上手くいくはずもない。

2018-12-31 21:09:41
野性の野良 @__noranora

なのに目の前にいる男は、そういう事をこともなげにやってのける。しかし肝心な部分は語らない。複雑な手順などいらないと彼は言うが。 「人為的に英霊のようなものが作れるのなら、こう考えることも出来るんじゃないかな。…生きている人間の器に、英霊を落とし込むことも可能なんじゃないか、って」

2019-01-01 13:50:03
野性の野良 @__noranora

「お前…正気か?」 眉を顰め、ヴァレイシュはガーラルドを非難する。 「そんなことしたら、器になった人間の魂が砕けちまうだろうが」 「問題ある?」 そう言う彼の目には、一点の曇りもない。そういう男、だ。 自分の好奇心を満たすためなら、超えてはいけない一線なんて鼻歌混じりに飛び越える。

2019-01-03 19:48:34
野性の野良 @__noranora

――たとえそれが身内でも。たとえそれが自分自身でも。 「だったら、砕けても構わない人間を連れてくればいい。犯罪者とか自殺志願者とか。ああそれと、報酬アリなら被験体を出してくれるところにも伝手はあるし」 「後ろめたさの欠片もねえな」 「やだな。僕達は魔術師だよ?君の方がおかしくない?」

2019-01-04 21:13:29
野性の野良 @__noranora

「……」 図星を刺され、ヴァレイシュは沈黙する。魔術回路は超一流、だが魔術師としては三流以下――それが、常に彼について回る評価だ。 非情になりきれないのだ。だからこそ、こういった人工の生命にも憐れみを覚えてしまう。彼らとて死ぬために生まれたわけではない、と手を止めてしまう。

2019-01-06 12:49:02
野性の野良 @__noranora

「そこがいいんだけどね、とはならないのがこの世界だからねえ。――諦めたら?」 「…諦められるかよ」 「救うほどの価値、あるかなあ?」 「お前が決めることじゃない。――俺が決めることでもない」 まあいいけどね、好きにしなよとガーラルドは嗤う。

2019-01-07 21:14:03
野性の野良 @__noranora

「とにかく、もうそれいらないから。君の好きにして?哀れむのなら契約でも結んであげなよ、そうすれば一時的な延命にはなるから」 そう言い残したきり、ガーラルドはもうヴァレイシュにさえ興味をなくして研究室を出ていく。舌打ちをしてその後ろ姿を睨んだあと、ヴァレイシュは背後へ向き直った。

2019-01-08 20:13:14
野性の野良 @__noranora

「――…、……」 それは、何かを訴えかけるように口から泡を吐く。 ヴァレイシュが分厚い培養層の側面へ手を伸ばすと、それも同じように、手を伸ばしてくる。冷たいガラス越しに、手が重なった。 「…お前……、生きたいか?」 硝子の瞳が、少しだけ潤んだように見えたのは目の錯覚だろう。

2019-01-08 20:13:14
野性の野良 @__noranora

「…生きるってわかるか?」 ふわりふわりと、視線が宙を彷徨う。ヴァレイシュが尋ねたことを理解しようとしている風でもなかったので、諦めて笑いながら培養層に背を向けた。 ――たん。 背を向けて、歩き出そうとした直後。微かな物音に足を止める。 たん。たん。 ともすれば消えてしまいそうな音は、

2019-01-09 20:26:13
野性の野良 @__noranora

たん。 ――背後の、培養層から。 「……お前」 まだ名前もないそれが、力の入らない手でアクリルの壁を叩いていた。勿論罅が入るでもなく、非力なホムンクルスに何かが出来るわけでもない。 ただそれは、無意識にヴァレイシュを呼んでいた。 ――それが、全ての始まりだった。

2019-01-09 20:26:13
野性の野良 @__noranora

「…そうか、わかった。まあ、俺が何とかしてやるから」 水槽の近くへ戻り、ヴァレイシュは笑いながら彼を見上げた。彼にはまだ、ヴァレイシュが笑う意味も、戻って来た意味も分からない。 自分が何をしたかもわからない。不思議そうに首を傾げたように見えても、それも意味のない単なる反射的な行為。

2019-01-10 21:03:34
野性の野良 @__noranora

「…そこから出てこれたら、まず名前を聞かなきゃな。名前。あるんだろ?お前にも」 ガーラルドがベースにしたとか言う、未来の誰かの名前をそのまま付けるのでもいいのかもしれないが――いや、それも本人に決めさせよう。今はまっさらな状態だが、ヴァレイシュと契約すれば知識は手に入るはずだ。

2019-01-11 20:54:44
野性の野良 @__noranora

「……?」 と思っている間に、彼は指先で何かを書き始める。 「おい、…っ、ちょっと待て、それ……」 名前、書いてるのか。ヴァレイシュは驚愕する。 「……ティイ、か。良い名前だな。ティイ」 彼が書いた名前を読み上げると、水槽の中で、こぽりと彼が笑った気がした。

2019-01-12 21:33:41
野性の野良 @__noranora

「あー、俺の声も、聞こえるんだよな?」 俺は、ヴァレイシュ。よろしくな、ティイ。 笑いながら、再びガラス越しに手のひらを合わせる。――心はもう決まっていた。彼を、ここから出してみせると。せめて、普通の人間として接してやろうと。定められた寿命しか持っていないのだとしても――くそくらえだ。

2019-01-13 18:57:11
野性の野良 @__noranora

「……まずは体力つけろよ。早くそこから出て来い、話はそれからだ」 こくこくと、ティイは頷く。実のところどうすれば出られるのか、ヴァレイシュには知る由もなかったが――ガーラルドに聞くのも業腹だし、まあ何とかなるだろ。そんな軽い考えで、ヴァレイシュは彼と深く関わることを決めた。

2019-01-14 19:28:57
野性の野良 @__noranora

「――」 そして、それから数日経ったある日の夜。 どうにも胸騒ぎがして、ヴァレイシュはベッドから起き上がった。自分の直感に従い、ヴァレイシュはティイのいる研究室へと直行する。 実はあの日から一度も会っていない。忙しかったから、なんて言い訳が通じる相手ではないだろう。待たせてしまった。

2019-01-15 19:24:34
野性の野良 @__noranora

「――ティイ!」 研究所の扉を開ける。案の定、室内は培養層の異常を示す警告灯で真っ赤に染まっていた。警報が鳴るほどの事態ではないが、レッドはそれだけで心臓に悪い。 「ティイ!」 もう一度叫ぶと、奥の方からけほけほと小さな咳が聞こえた。ヴァレイシュは慌ててそちらに向かう。

2019-01-16 20:20:12
野性の野良 @__noranora

足元にまで水が来ている。やはり、培養層が割れたのか。 ティイの生命維持は。呼吸はできているのか。割れたガラスで怪我などしていないか――高速で思考を巡らせながら、ヴァレイシュは白衣をばさりと脱ぎ捨てる。 「ティイ!」 部屋の奥でしんなりと濡れたティイの姿を見つけ、すぐに白衣をかぶせる。

2019-01-17 20:30:38
野性の野良 @__noranora

「おい、どうした?なにがあった?大丈夫か?怪我は?息出来てるか?」 矢継ぎ早に質問を浴びせるも、きょとんとした顔のティイに我に返る。 「あ……、ああ、すまん、わかんないよな」 ティイを立ち上がらせ、ひとまずここを出ようと辺りを見回すと、きゅ、とティイがヴァレイシュの服を掴んだ。

2019-01-18 20:47:09
野性の野良 @__noranora

「――、…ああ。しっかり捕まってろよ」 一瞬躊躇した後、ヴァレイシュはティイの体を抱き上げる。予想通りに軽い。これからはしっかり食わせてやらなければならないだろう。 「見つかる前に、俺の部屋まで行くぞ。顔伏せてろ」 ヴァレイシュに言われ、ティイは素直に自分の顔を隠した。

2019-01-19 23:14:31
野性の野良 @__noranora

「い、しゅ」 小さな、本当に小さな囁き声。――だから、急いでこの場から立ち去ろうとしているヴァレイシュには聞こえなかった。 最も聞こえていたとしても、この先何かが変わるようなことは――あまりない、と言えるだろうが。

2019-01-20 20:35:02
野性の野良 @__noranora

「狭くて悪いな。暫くはここで我慢してくれ」 自室に戻ったヴァレイシュは、まずティイをベッドの上に座らせる。きょろきょろと辺りを見回したティイは、ベッドの上で丸まったままになっていた毛布を引き寄せる。ふんふんと匂いを嗅いだ後、それに包まってちんまりと座り直した。 「汗臭いだろ?」

2019-01-21 20:40:32
野性の野良 @__noranora

寝起きだったからな、とヴァレイシュは苦笑しながら冷蔵庫からスポーツドリンクのペットボトルを取り出して、中身をコップに注ぐ。 「飲めるか?」 ティイの隣に座り、ヴァレイシュはコップを差し出した。不思議そうな顔で、ティイはコップを両手で捧げ持った。 そっと、コップの端に唇をつける。

2019-01-21 20:40:33
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