【身内用ログ】ほぼ日刊

日刊のやつ
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野性の野良 @__noranora

恐る恐るコップを傾けて、流れた液体が唇に触れたのに驚いたらしい。目を見開いてヴァレイシュを見上げると、コップの縁からスポーツドリンクが零れてティイの膝を濡らす。 「…!?」 混乱して自分の膝とヴァレイシュの顔とを交互に見るティイに、ヴァレイシュは声をあげて笑う。 「気にすんな」

2019-01-22 20:21:28
野性の野良 @__noranora

手を伸ばして頭を撫でようとすると、びくんとティイは首を竦ませる。 「あん?怒りゃしねーよ、これから全部学んでけ」 もふ、と優しく頭を撫でてやると、ティイは目を輝かせながらヴァレイシュを見るようになる。 「とは言え着替えは必要だな。…んー、俺とはサイズが違い過ぎるか…どうすっかな」

2019-01-23 20:48:36
野性の野良 @__noranora

裸では色々な意味で不便だろう。外をうろつかせることはまだできないが…なにより、全裸でこの部屋をうろつかれても正直困る。自分まで全裸にならないといけないような気持ちになる。 「買うしかねぇか…通販便利だなぁ」 誰にともなく呟くと、ヴァレイシュは机の上から自分のタブレットを持ってくる。

2019-01-24 20:30:44
野性の野良 @__noranora

「お前、どんな服なら着るよ?」 ヴァレイシュはそう言いながらティイに画面を見せるが、ティイはふるふると首を振って、タブレットを自分から遠ざけようとする。 「おいおい、裸でいるつもりか?」 それにも、首を振って応える。そして、ヴァレイシュが着せてやった白衣の前をぎゅっと合わせた。

2019-01-27 10:20:30
野性の野良 @__noranora

「…それな、俺の」 それ一着しかないから困るんだと言ってもティイは白衣を手離そうとしない。 「おーい…えぇ…」 「……や、だ。これ…オレ、の」 「いきなり自我が芽生えたな!?」 初めての発言が所有権の主張かよすげーなと思いつつ、ヴァレイシュは天井を仰ぐ。まいったなこれ、という意味だ。

2019-01-27 18:55:36
野性の野良 @__noranora

「お前、喋れたの?」 「……少、しだけ」 こくりと頷いて、ティイは白衣をヴァレイシュに引っ張られないように、ずるずるとベッドの奥に移動した。まるで人間を警戒する野生の猫のような目で見られている。 「…マスター契約したわけでもねえのに…やっぱホムンクルスでも、素体があれば違うんかね」

2019-01-28 21:18:31
野性の野良 @__noranora

ちょちょい、とティイの目の前で指先を振りながらヴァレイシュは呟く。その指の動きに合わせて視線を揺らすティイは、まさしく猫と一緒だ。 そのうち耳と尻尾でも生えてくるんじゃないだろうか、と苦笑しながら、ヴァレイシュはティイに向き直る。 「えっとな。――まあ、まずは俺と契約してくれ」

2019-01-29 20:34:29
野性の野良 @__noranora

「…契約、わかる」 「わかるよな。話が早い。…いいか?」 こくり、と頷いたティイに安心したように笑いながら、ヴァレイシュはティイの頭を撫でようとして、警戒されたことに気が付いてその手を降ろした。 「お前は、まだ不安定な存在だ。…寿命も短い。契約することで、少しは楽になるはずなんだ」

2019-01-30 21:00:15
野性の野良 @__noranora

自分の手の甲に浮かんだ文様――≪令呪≫をティイに見せながら、ヴァレイシュは続ける。 「んで、どういうわけか俺にはマスター適正がある。お前が俺のサーヴァントになってくれれば、当面の問題は回避できるんだ。お前のメリットは知識を手に入れられること。これはここでの最高の武器になる」

2019-01-31 20:04:11
野性の野良 @__noranora

「…やだ」 「………うんうん。そうだよな、いきなりそんなこと言われても困るよな、ってお前ほんとなんなの!?」 声を上げたヴァレイシュの手に、ティイはがぷりと噛みつく。 「いったい!痛えって!マジで自我すごいな!?」 「…オレは、サーヴァントには、ならない、なれないって、言ってた」

2019-02-01 21:54:27
野性の野良 @__noranora

「…はあ?誰がお前にそんなこと――って、アイツか…」 そんな事をするような人物は、一人しか思いつかない。ましてあの研究室には彼とティイと自分、他のホムンクルスしかいないのだから、当然と言えば当然、なのだが。 「…あのな。なれないって、そう簡単に決めつけんな。人に言われたくらいで」

2019-02-02 16:56:20
野性の野良 @__noranora

「…だけど、オレ」 「あーもう!いいんだよ、あんな奴の言うことは!お前はもうウチの子なの!いいな!?」 「ひゃ」 急に伸びてきた手にわしゃわしゃと頭を撫でられ、避ける間もなかったティイは小さく悲鳴をあげた。 「アイツは、ああいう奴なんだよ。…性格、悪いんだ。わかるだろ?」

2019-02-03 20:49:46
野性の野良 @__noranora

「悪いの、わかる。…けど、悪く言うの、ダメ」 また噛みつかれそうになって、ヴァレイシュは慌てて手を離す。 「…オレの体、先生の血、流れてるから」 「……」 ホムンクルスの製造に血液を使うのって禁呪じゃなかったっけ、とヴァレイシュは黙り込む。自分のならいいとかってそんな問題じゃない。

2019-02-04 21:21:13
野性の野良 @__noranora

だから普通のホムンクルスとは様子が違うのだ。 いわば特上のホムンクルス。素材が良すぎる。最悪に最高すぎる。 「先生ってなぁ…あー……」 だのに、いらなくなれば捨てる、という感覚が理解できない。 こんなもの、外に出したらあっという間にばらばらに解体されてしまうだろう。その血のせいで。

2019-02-05 20:59:39
野性の野良 @__noranora

そしてガーラルドの血が流れているにも拘らず、まだこんなに不安定だ。 外側だけ作って、目的は達したと満足したのか。――いや、そもそもホムンクルスに情緒など不要だ。正しいのは、ガーラルドの方なのだろう。 「なあ、どうしても俺と契約するの嫌か?」 でも、そんなのは間違っている。

2019-02-06 20:58:51
野性の野良 @__noranora

ヒトではない。 だが、出来損ないでもない。 そして、成長できる生き物だ。 「お前がいつか自由になるために、俺と契約してくれないか?」 「自由…?」 不思議そうに、ティイは首を傾げる。自由、という言葉を知らないのだろう。 「自由」 繰り返して、ティイはヴァレイシュの目をまっすぐ覗き込む。

2019-02-07 21:01:40
野性の野良 @__noranora

「自由って、なに」 視線を逸らさないまま、ティイはヴァレイシュに重ねて問う。 「……あー…、自由、ってのはな」 何故か視線を逸らすことが出来ずに、しかしヴァレイシュは言葉を濁す。 よくよく考えれば、自分も「自由とは何か」をティイにわかるように説明することは出来ないのだ。

2019-02-07 21:20:24
野性の野良 @__noranora

「いや、悪い。やっぱ俺にもよくわかんねぇ」 「なにそれ」 ぷう、と頬を膨らませるティイを見て、本当にこいつホムンクルスか、と思わずにはいられない。その頬に向かって思わず伸ばした手は、容赦なくぺちりと叩き落とされた。 「…だからぁ、んじゃあ…そうだな……俺と家族になるのはどうだ?」

2019-02-08 21:43:06
野性の野良 @__noranora

「家族って?」 「ん。まあそう来るとは思いました」 苦笑いしながら、ヴァレイシュはベッドの上にばふんと寝転ぶ。飛び上がってベッドの隅に避難したティイを見て、楽しそうに笑った。 「一緒にいようぜ、ってことだよ。…お前、俺のこと嫌いか?」 「…ううん。嫌いじゃない、…と、思う」

2019-02-09 20:18:25
野性の野良 @__noranora

「嫌いとか好きとか、わかるか?」 「…嫌い、はわかる。あの場所、…嫌い」 わかるのか、と感心したヴァレイシュの髪を、ティイはくいと引っ張る。 「……ここは嫌いじゃ、ない。…嫌いの反対は、好き?」 「――ああ。合ってるな」 「じゃあ、ここも、先生も、アンタも、…オレ、好き」

2019-02-09 20:18:25
野性の野良 @__noranora

「…そうかそうか。ま、悪いことじゃねーな」 快か不快かで、好き嫌いを判断しているのだろう。今はそれでいい、とヴァレイシュは一人で納得する。 「なあ?……お前、魔力供給なしであとどれくらい動ける?」 調整次第でホムンクルスの寿命は変わる。場合によっては数ヶ月しかもたないこともある。

2019-02-10 22:00:30
野性の野良 @__noranora

「1時間」 「はぁ!?」 だが、ティイの返答はヴァレイシュの想像をはるかに超えていた。 「1時間って。1時間って、お前」 絶句するヴァレイシュをよそに、ふるふるとティイは首を振る。 「……あそこ出たら、もうすぐにでも機能停止するよって、先生言ってた」 「ばっ…だからってお前…っ」

2019-02-11 20:29:59
野性の野良 @__noranora

ホムンクルスからしてみれば機能停止は機能停止に過ぎない。それが普通、なのだ。だからこんなにもあっさりと、ヴァレイシュに理解できないことを口にする。 「……っ、ああ、もう!」 がしがしと自分の頭を掻き、ヴァレイシュはティイの両肩を掴む。 「いいか、契約するぞ、契約!お前が嫌でもな!」

2019-02-12 20:36:28
野性の野良 @__noranora

「なん…」 「なんでもだ!…拾ったばかりの犬猫が目の前で死んでみろ。後味悪いったらねーぞ」 苦い顔をして、ヴァレイシュはティイを諭す。 「…オレ、そういうの、わからないし。犬猫じゃないし」 「俺がわかるんだよ。黙って契約されろ、いいから」 「よくない」 「俺もよくねーんだよ!」

2019-02-12 20:36:28
野性の野良 @__noranora

「…なんで、オレに契約して欲しいの?」 「そりゃあ――」 ぐ、とヴァレイシュは言葉に詰まる。 自分の研究のために、彼を自分のサーヴァントにしたい。根底にはそれがあるからだ。実のところ、ガーラルドとやっていることは大差ない。 ホムンクルスにして、サーヴァント…、正確には疑似サーヴァント。

2019-02-13 20:06:38