あんこう鍋 勇尾

夏目一加 @natumeitika

兄弟でダイエーに夕飯の買い出しに行く。「今日は何にしましょうか？」って弟が聞くと、兄は「寒いから鍋にしましょう」と答える。 弟はつい先日も鍋でしたが……って思うけど、兄が食べたいものを食べさせてあげたいので黙ってる。

夏目一加 @natumeitika

いつもは鍋に鱈かカワハギを入れるんだけど、今日は珍しく鮟鱇が売っていた。「兄様、鮟鱇が売ってますよ！」って弟が言うと、兄は表情を変えずに「２パック買いましょう」と言う。 でも、弟は兄が内心すごく喜んでいることを知っている。

夏目一加 @natumeitika

家に帰って二人で鮟鱇鍋の準備をする。兄がいつになく急かしてくるので、弟はそんな兄をかわいいなって思う。

夏目一加 @natumeitika

食卓の上にカセットコンロ置いて、鮟鱇鍋をセットする。鍋が煮えるまでの間、弟は兄に話しかけるんだけど、兄は鍋を見つめたままずっと上の空。 「兄様、勇作の話をぜんぜん聞いていませんね？ 「そうですね」 「勇作のこと好きですか？」 「そうですね」

夏目一加 @natumeitika

「勇作は兄様のことが大好きです」 「そうですね」 何を言っても「そうですね」しか返ってこないし、兄は何を聞かれたかも覚えていない。でも弟は幸せだなって思う。

夏目一加 @natumeitika

「そろそろよさそうですね」って、弟が鍋の蓋を開けると、兄が瞳をキラキラさせる。普段見れない顔を兄が見せてくれるから、弟にとっても鮟鱇鍋は特別だった。