クルセイド・ワラキア #5 後編

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「仮にいたとしても、余の手にこのヌンチャク・オブ・デストラクションがあると解れば、二の足を踏むはずだ。それで数ヶ月、いや……仮に数週間でも、次の外敵の侵攻を引き延ばすことができれば、余はさらにネオワラキアの守りを確かなものとできる……!」 21

2019-02-13 22:30:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「公、素晴らしい放送でした」「暗黒メガコーポによりIRC-SNSが規制されている地域へも、ハッカー達が先ほどの映像をリレイするでしょう」「デジ・プラーグがその中継ハブになってくれるはずです」シュマズ社員とヴァンパイアニュービーの中から選りすぐられたエンジニア部隊が目を潤ませて言った。22

2019-02-13 22:34:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

無論、彼らも命懸けである。この配信中にも、2名のLAN直結エンジニアが外部からのハッキング攻撃を受け、外付けファイアウォールすらも破られて、ニューロンを焼き切られ死んだ。「そなたら、モータルの身でありながら実に勇敢であった。電子的な守りをさらに固めるよう、命じておこう」 23

2019-02-13 22:37:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブラドは厳かな笑みを浮かべた。かつて戦場でオスマン軍団を撃退した時も、彼は共にワラキアのために戦ったモータルを讃えた。ここにいるエンジニアたちもまた、剣や盾は持たずとも、己と同じ戦場に立ち、共に血を流す者たちなのだ。そうした気高い行いを見せる者に対し、ブラドは必ずや敬意を示す。24

2019-02-13 22:40:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殿、見事な宣告でありました」 参謀カシウスが入室し、ブラドの傍に片膝をついて控えた。カシウスもまた、ブラドの布告配信に強く心を打たれ、ブラドこそが己の主君に相応しいとの思いを新たにしていた。だがそれと同時に、ハイテックへと傾倒しすぎる己の主君に、微かな危うさを感じてもいた。 25

2019-02-13 22:41:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カシウスよ、直ちに次回配信の内容について会議を組め。週に一度では不足。暫くはこの勢いを維持せねばなるまい。ソニアなる我の強そうな女が、下の訓練場にいたな?あの者に、自らの言葉でネオワラキアの現状を語らせてはどうだ。そしてまずはスダチカワフ社との間に不可侵条約を結び、徐々に…」26

2019-02-13 22:45:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カシウスは敢えて、主君の言葉を遮った。「殿、見事な筋書きでございます。ですが、それよりも先にお耳に入れたい事が。「……申せ」ブラドが眉根を寄せる。「大型トレーラーに乗り込んだニンジャ部隊が南の防壁を突破。城下の森に逃げ込みました。ジャイアントバット=サンらが、これを追跡中です」27

2019-02-13 22:48:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カシウスは頭を下げ、苦々しい表情を作っていた。玉座の間の窓の外、南の彼方に、かすかな火の手が見えた。ダイヒョウシャの放った断末魔のカトンが林を焼き続けているのだ。「……カシウス、何故だ?」ブラドの声には、明らかな怒りと、隠しきれぬ驚き、そして落胆があった。 28

2019-02-13 22:50:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「城下の守りについては、お前を信頼し、任せていたというのに。何故、こうも容易く門を突破された?」リアルニンジャの凄まじいニンジャ存在感が、カシウスの両肩に重くのしかかった。周囲にいた配信クルーたちも、カラテ圧に押されて思わず身震いし、失禁しかけた。 29

2019-02-13 22:51:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「申し訳御座いません。今回もまた、ヴァンパイア・ニュービーの人間たちが現れたと考え、ジャイアントバット=サンのみで対処可能と判断してしまったが故です。重要な布告に向かう殿のお心を、そのような瑣末事で煩わせてはならぬと思い……。全ては私の失態……」カシウスが返した。 30

2019-02-13 22:53:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「敵の正体は割り出せたのか?暗黒メガコーポではあるまいな?」「はい、暗黒メガコーポの軍ではありません。報告によれば、その何名かはブカレストに以前から住み着いていた流れのニンジャでございます。他国で賞金稼ぎや押し込み強盗を働き、暗黒メガコーポに追われる身となったアウトロー共です」31

2019-02-13 22:55:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ご存知の通り、これら無害と判断されたニンジャは、いずれネオワラキアのために戦う兵となるやもしれぬという考えから、野放しにされてきたのですが………」「そ奴らが、徒党を組み、余の城に対して押し込み強盗をはたらこうとしている、と?」「聡明なる殿よ、おそらくは、そうでありましょう」 32

2019-02-13 22:57:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ですが、所詮は寄せ集めの強盗集団。場当たり的な行動にしか見えません。奴らは協調性に乏しく、カラテも練られておりません。狩るのは容易でしょう。ですが……胸騒ぎがするのです。今宵は暗黒メガコーポの侵攻に備え、国境地帯の守りをよりいっそう固め……」カシウスの言葉はそこで遮られた。 33

2019-02-13 23:00:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブラドの手がカシウスの顎を掴んでいたからだ。ブラドは、自責の念で重く垂れていた参謀の頭を、無理やりに、ぐいと上向かせた。「カシウス=サン、お前には失望した。ケイトー・ニンジャ=サンへの非礼。最新技術に対する迷信的恐怖。果ては、差し迫った瑣末な脅威の隠蔽と、その結果招いた事故」 34

2019-02-13 23:02:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……これらの理由は解っている。これまでにお前が築いた参謀としての地位を失いたくないが故であろう。お前のその態度はまるで、毎度方便を垂れて戦場から逃げ続けた、あの軟弱貴族どもと同じ……。そしてかつて、余が奴らに対していかなる行動をとったか、お前は知っていよう」 35

2019-02-13 23:04:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「殿!違います、私は!私はただ、殿のために……!」ALAS!カシウスは必死に抗弁しようとした。仮に、今自分が彼の側を離れたとしたら、誰が参謀役を務めあげられるというのか。だがこれを口にすれば、なおのこと己の地位を守りたいが故の行動と取られ、ブラドの怒りの炎に油を注ぐだけなのである!36

2019-02-13 23:07:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カシウスは覚悟を決め、何も言わず、主君の目を見た。開祖ブラドの目には、怒りと哀しみの色が入り混じっていた。「……だが、余はお前を処刑したくはない。これまでのネオワラキアの立ち上げに尽力したお前の働きぶりに対し、城主として、相応しい処遇を与えねばならぬ」「殿……!」 37

2019-02-13 23:08:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「追放を命ずる。カシウス=サン、直ちに余の国を去れ」 38

2019-02-13 23:09:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もういやだーッ!こんなはずじゃなかった!街に返してくれ!気が狂いそうだ!アイエエエエエ!アイエーエエエエエエ!」ドラクル城の地下牢では、腕に『吸血鬼』『夜の支配者』などの禍々しい刺青を彫ったスキンヘッド男が鉄格子を揺らし、狂おしげに頭を打ち付けていた。 40

2019-02-13 23:14:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これこそは、吸血鬼となるために赤竜騎士団の見習(スクワイア)として宣誓を行いながらも、カラテトレーニングの過酷さに根をあげ脱走を試みた、哀れなワナビーの末路であった。「檻は嫌だアアアアアーーーッ!奴らが来ちまうよオオオオォーーーッ!」 41

2019-02-13 23:16:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「新入り、うるせえぞ!」「眠れねえじゃねえか!」虜囚たちは彼を罵った。地下牢の独房は四十個ほどあり、その半分ほどに、彼と同様のワナビーが、もう半分には、メガコーポの兵士らが投獄されていたのだ。「だ、だって!またあいつらが出たら!アッ!出た!ヒイイイイ!ペ、ペストになっちまう!」42

2019-02-13 23:18:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

壁の穴からネズミが這い出し、ワナビーの足元を伝って、背中側に回った。ワナビーは恐怖に慄いた。「アイエーーエエエエエエ!ペストが感染る!」「ペストは中世の話だろ!いい加減にしろ!」「おいベラ!ベラドンナはどこいった!?」「お前の大好きなネズミが現れたんだぞ!?早く食ってくれ!」 43

2019-02-13 23:24:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

虜囚の叫び声が、黴くさい地下回廊に響き渡る。ベラドンナとは、ドラクル城で飼われている黒猫の名であった。ベラドンナはいつも、猫にしか通れないような細い空気穴や壁の穴を使って、自由気ままにこの城を徘徊している。そして一日に一度は、地下牢のあるこの回廊へと、餌を獲りにやってくるのだ。44

2019-02-13 23:25:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そういや、ベラ、今日は妙に遅いな……」と虜囚が言いかけた、その時。「ミヤーオーウー」突き当りの壁から、可愛らしい猫の鳴き声が聞こえた。そして闇に光る二つの目。左右に独房が並ぶ回廊の真ん中を、ベラは我が物顔で歩いてくる。「おッ、お出ましだぜ。彼女に感謝しろよ、新入り!」 45

2019-02-13 23:28:27