走れ民生委員 第一話

民生委員アンソロ出ろー出ろー
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⎳ittchin @littchin

民生委員は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の楼座を除かなければならぬと決意した。民生委員には金持ちの考えがわからぬ。民生委員は、普通のおばちゃんである。昼ドラを見、おやつを食べて暮して来た。けれども真里亞に対しては、人一倍に敏感であった。

2011-05-06 22:56:13
⎳ittchin @littchin

きょう未明民生委員は家を出発し、野を越え山越え、十里はなれた此の楼座生息地にやって来た。民生委員には父も、母も無い。夫も無い。十六の、内気な家具と二人暮しだ。この家具は、右代宮の或る知的な大人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近なのである。

2011-05-06 23:05:18
⎳ittchin @littchin

民生委員は、それゆえ、花嫁の衣裳やら柿ピーやらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。

2011-05-06 23:06:37
⎳ittchin @littchin

民生委員には竹馬の友があった。サクタロンティウスである。今は楼座生息地帯で、真里亞の友達をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

2011-05-06 23:08:30
⎳ittchin @littchin

歩いているうちに民生委員は、この地帯の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、この地帯全体が、やけに寂しい。のんきな民生委員も、だんだん不安になって来た。

2011-05-06 23:10:20
⎳ittchin @littchin

路で逢った若い山羊をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の地帯に来たときは、夜でも山羊が歌をうたって、賑やかであった筈だが、と質問した。若い山羊は、首を振って答えなかった。しばらく歩いてロノウェに逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。

2011-05-06 23:12:32
⎳ittchin @littchin

RT @littlechinchin: ロノウェは答えなかった。民生委員は両手でロノウェのからだをゆすぶって質問を重ねた。ロノウェは、あたりをはばかる杉田声で、わずか答えた。 「楼座様は、山羊を殺します。」

2011-05-06 23:15:26
⎳ittchin @littchin

「なぜ殺すのだ。」 「真里亞様が言うことを聞かぬ、というのですが、真里亞様は幼いゆえ、悪心を持っては居りませぬ。」 「たくさんの人を殺したのか。」

2011-05-06 23:18:03
⎳ittchin @littchin

「はい、はじめは楼座様の姉婿さまを。それから、御自身の元カレを。それから、姉さまを。それから、姉さま夫婦の会社のお得意様を。それから、お館さまを。それから、うさぎの音楽隊を。」

2011-05-06 23:20:57
⎳ittchin @littchin

「おどろいた。右代宮さんは乱心か。」 「いいえ、乱心ではございませぬ。「・・・何も信じられないわよ」というのです。」

2011-05-06 23:23:31
⎳ittchin @littchin

「このごろは、会社の部下をも、お疑いになり、少しくリア充な暮しをしている者には、イケメンひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、殺されます。きょうは、六人殺されました。」

2011-05-06 23:25:06
⎳ittchin @littchin

聞いて、民生委員は激怒した。「呆れた女だ。生かして置けぬ。」

2011-05-06 23:31:06
⎳ittchin @littchin

民生委員は、単純な女であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ楼座邸にはいって行った。たちまちは、楼座のしもべのとなった黒服に捕縛された。調べられて、民生委員の懐中からはハッピーターンの粉が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは、楼座の前に引き出された。

2011-05-06 23:33:55
⎳ittchin @littchin

またメロスしゃしゃり出てきやがった

2011-05-06 23:37:28
⎳ittchin @littchin

「何をするつもりだったの?言いなさいッ!」暴君楼座は静かに、けれども威厳を以て問いつめた。その女の顔は蒼白で、眉間の<censored>は、刻み込まれたように深かった。 「真里亞ちゃんを暴君の手から救うのだ。」と民生委員は悪びれずに答えた。

2011-05-06 23:38:22
⎳ittchin @littchin

「あなたが?」楼座は、憫笑(びんしょう)した。「仕方の無い人ね。あなたには、私の孤独はわからないわ。」 「言うな!」と民生委員は、いきり立って反駁(はんばく)した。「子の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。あなたは、娘の愛をさえ疑って居られる。」

2011-05-06 23:41:11
⎳ittchin @littchin

「疑うのが、正当の心構えなのだと、私に教えてくれたのは、あなたたちよ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりなの。誰も信じられない。」暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「私だって、真里亞との平和を望んでいるのよ。」

2011-05-06 23:44:13
⎳ittchin @littchin

「なんの為の平和だ。自分の恋の為か。」こんどは民生委員が嘲笑した。「罪の無い山羊を殺して、何が平和だ。」 「黙りなさい!なんなのよアンタはぁっ!!」楼座は、さっと顔を挙げて報いた。

2011-05-06 23:47:13
⎳ittchin @littchin

「口では、なんとでも言えるでしょうよ!私には、人の腹綿の奥底が見え透いてならないの!あなただって、いまに、黄金の夢を見せられてから、泣いて詫びたって聞かないわよッ!」

2011-05-06 23:49:06
⎳ittchin @littchin

「ああ、右代宮さんは悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」

2011-05-06 23:50:26
⎳ittchin @littchin

と言いかけて、民生委員は足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹を、ニンゲンにしてやりたいのです。三日のうちに、私は六軒島で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」

2011-05-06 23:51:58
⎳ittchin @littchin

「馬鹿なッ!?」と暴君は、ナージャ声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うものね。逃がした小鳥が帰って来るというのッ!?」 「そうです。帰って来るのです。」民生委員は必死で言い張った。

2011-05-06 23:53:28
⎳ittchin @littchin

「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、

2011-05-06 23:54:14
⎳ittchin @littchin

この家にサクタロンティウスというライオンがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

2011-05-06 23:56:28
⎳ittchin @littchin

それを聞いて楼座は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うものね。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白いわ。そうして身代りのライオンを、三日目に殺してやるのも気味がいいわね。

2011-05-06 23:58:13