インポ紳士な宇宙忍者と屍体溶接技師なメス男子が一緒にオシゴトする話

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帽子男 @alkali_acid

だが巨大全裸肥満XY型種族は、さらに粘っこい笑いを広げ、胸部や腹部、脇部に生える体毛に似た紐状器官を伸ばしてきた。それらは何かを分泌し、周囲の空間を満たしてくる。 カトーは嗅覚に刺激を受ける。 帝国の遺跡船が真空を伝わる歌を吟じるように、この生物は真空を伝わる臭気を放つのだ。

2019-05-04 22:31:53
帽子男 @alkali_acid

それは明確にひとつの意思を押し付けて来ていた。 繁殖の意思を。無性生殖、有性生殖、大量複製などを問わず、繁殖への意思を押し付け、さらに喚起する臭気だ。 ウイルスなどと組み合わさればきわめて危険な力だった。 あるいは自然人であれば危険な発情/発狂状態に陥らせる。

2019-05-04 22:34:42
帽子男 @alkali_acid

ようやく帝国がなぜ遺跡船にネクロテックのみの通行を許可するのかを理解した。 全裸肥満XY型生物のような兵器は、機械と生体のどちらをも汚染しうる。ゆえに屍体のみが安全なのだ。

2019-05-04 22:35:48
帽子男 @alkali_acid

「デッドウェルダー。後退しろ」 エレクトレスは、外骨格の"翼"から空間跳躍刃を連発しながら紐状器官を切断し、そう連絡する。 「そちらは自然人に近い肉体だ。幸いむこうはXY型。繁殖可能な個体がいないが、臭気にさらされ続ければ情報主体が毀損する」 「ぁ…ぁあ…ぐ…んっ…」

2019-05-04 22:38:51
帽子男 @alkali_acid

忍者は技師のかんばしからざる反応に憂慮を濃くする。 「デッドウェルダー。後退しろ」 カトーは"尾"からチェーンスリケンを伸ばして、護衛対象と臭気を放つ紐状器官とのあいだを遮るように振るう。

2019-05-04 22:40:29
帽子男 @alkali_acid

「無駄だ。こちらはXY型のみ。お前が欲しがるXX型もXXY型もいない。卵巣も卵管も子宮も持っていないんでな…次はそっちがXX型を連れてくるんだな」 軽口をたたきながら、短距離空間跳躍、縮空法で位置を変え、敵本体にカラテミサイルを叩き込む。

2019-05-04 22:42:29
帽子男 @alkali_acid

全裸肥満XY型はだがなおニチャリと嗤いながら汚染攻撃と紐状器官による捕縛を試みてくる。不思議と威力攻撃を続ける屍体溶接物や戦闘外骨格には関心を示さず、技師だけを追い続ける。 「こっちに子宮はないと言っているだろうが!」 感情制御インプラントが故障し、忍者は気づけば怒鳴っていた。

2019-05-04 22:44:13
帽子男 @alkali_acid

それからぞくりとしてデッドウェルダーを振り返る。 「まさか…?」 中継ステーションで集めた情報が蘇る。 「くそ…そんなことが…」 帝国の支配種族が慎重に封印していた生物兵器。 それが万が一増殖でも始めれば。

2019-05-04 22:46:14
帽子男 @alkali_acid

カトーは歯噛みをする。感情制御インプラントの再起動はまだ成功していない。臭気の影響が強まって来る。 全裸肥満XY型兵器の目的、というか本能は明確だった。子宮を持つ個体を確保し繁殖を始めるあいだ、ほかの個体は臭気による発情/発狂で行動不能にするか、味方につける。

2019-05-04 22:48:26
帽子男 @alkali_acid

このままでは敵の思い通りになる。増殖した生物兵器が、帝国とともにはるか大昔に終わったはずの戦争の続きを辺境宙域はもちろん連邦宙域でも繰り広げようとするだろう。本能のままに。 インプラントは完全に沈黙。これも一種の人工知能。 汚染攻撃にさらされおかしくなるのは当然かもしれなかった。

2019-05-04 22:51:17
帽子男 @alkali_acid

臭気がいっそう激しく発情/発狂を喚起し、デッドウェルダーはネクロテックのそばを離れて、自然増の著しい腰部を振りながら、紐状器官の方に泳いでいく。 エレクトレスは戦闘外骨格の武装を臨戦状態から切り替えながら、長らく味わっていなかった巨大な感情が襲って来るのに身構える。

2019-05-04 22:53:42
帽子男 @alkali_acid

劣情、欲望、憎悪、憤怒、焦燥。 いや、どれでもなかった。

2019-05-04 22:54:21
帽子男 @alkali_acid

「勃たない…」 虚無。 耐えがたいほどの。

2019-05-04 22:55:14
帽子男 @alkali_acid

どれほど発情/発狂をうながす臭気が濃くなっても一切回復しない機能に、限りないむなしさを抱きながら、宇宙忍者は武装を絶滅状態に切り替えると、縮空法で全裸肥満XY型兵器に突撃し、下腹部の紐状器官密生域の超至近距離で虎の子の叡智炎弾を炸裂させた。

2019-05-04 22:57:49
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ 「遺跡船の生物兵器については主組織が完全に崩壊し、少量の残存部もエレクトレスの使用した連邦製旧世代兵器による汚染のため回収不能となった」 閉鎖空間でドローンが淡々と、ただし言葉選びはやや非難がましく述べる。 「また船体の超光速推進能力は喪失し、ほぼ無価値な存在となった」

2019-05-04 23:01:42
帽子男 @alkali_acid

緊急空間跳躍によって遺跡船から離脱した請負人ふたりは、黙って依頼人の不平を聞いていた。 「船体の分析によって得られると予想しうる知見は、僅少であり、報酬については協定にある特記事項により減額する」 「後ほど抗議する」 「同じく」

2019-05-04 23:05:06
帽子男 @alkali_acid

エレクトレスとデッドウェルダーの反応に、ドローンは吟味するように光学センサーを動かし、まず技師の腰部をついで忍者の股間を走査した。 「抗議に備え、あらかじめ指摘しておく。デッドウェルダー。腰部皮下脂肪の著しい自然増による遂行能力の毀損があったと見られる」 「無関係だ」

2019-05-04 23:07:37
帽子男 @alkali_acid

小型機はしばらく静止してからまた言葉を続ける。 「エレクトレス。機能は重ね合わせではなく完全な喪失であり、心理面での影響から遂行能力の不足があったと見られる」 「善意で情報開示するが、こちらの感情制御インプラントは現在故障中であり、そちらの発言に対し不規則行動をとる可能性が高い」

2019-05-04 23:10:40
帽子男 @alkali_acid

拳をゆっくりと握りしめるカトーに、ドローンは光学センサーのシャッターをすばやく何度か開閉させてから、敏捷に輸送ダクトにもぐり、戻ってこなかった。

2019-05-04 23:11:36
帽子男 @alkali_acid

閉鎖空間を出たあと、二人はアルコール向精神薬の有料摂取施設へ泳ぎながら、しばし無言だったが、ややあって技師が暗号化回線で話しかけた。 「彗星印が取引を打診してきた」 「依頼人との協定違反では?」 「遺跡船内で得た知見や遺物は売却しない」 「何を取引する」 「遺跡船の航路」

2019-05-04 23:13:54
帽子男 @alkali_acid

「遺跡船の出発地点にかかわる情報だ」 「はるか外宇宙だ。遺跡船の超光速航法ならともかく跳躍航法では到達できない」 「彗星印はそう考えていない。いずれにせよ連中の支払いはよい」 「こちらと何の関係が」 「報酬は折半で分けよう」 技師は少女とも少年ともつかぬ面差しを、忍者に向ける。

2019-05-04 23:15:58
帽子男 @alkali_acid

「ただし」 「承知した。遺跡船の内部での記録は抹消する。腰部の自然増については単に…」 すばやく応じるカトーに、ネクロテックエンジニアは死んだ右腕を上げて制すると、感情制御インプラントでも埋め込んだのかと思う無表情で告げた。 「協定を守れ」

2019-05-04 23:18:05