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まあ聞いて下さいよ。ヌイグルミから急にチンポが出てきたらショックじゃないですか。ショック。怖い。びっくりする。 ふかふかの安心できる友達だと思ってたら急にチンポですわ。チンポ。 そら 「は?」 となります。 だがヌイグルミはもう止まらない。チンポを使って来る。 逃げ惑う少女。
2019-03-18 00:58:09男運が悪かった。おかしな男を引き寄せてしまう星の巡りのもとに生まれてきた。 ヌイグルチンポ事件はそういうことです。 悲劇から二十年の歳月が流れた。 少女は不幸な過去から立ち直り、逞しく成長し、ムキムキになり、長距離トラック運転手となり、結婚し、ヌイグルミではない子供もできた。
2019-03-18 01:02:04相変わらずおかしな男は寄って来るが。 先日は自分は転生勇者だと主張するおっさんが近づいてきたがトラックが轢いたらどこかへ消えた。もう結婚してるからね。昔のようじゃない。
2019-03-18 01:03:21子供はできたやつで、親が仕事で留守にするあいだは、昼は児童館で過ごし、家事もそこそこちゃんとやり、宿題もまあまあやる。プリントもためない。 成績はそこまでよくないがな。
2019-03-18 01:04:35ただまあ、鍵っ子にありがちなひとりあそびはする。 ひとりだからこそできる。さすがに同年代に見られたら恥ずかしいやつ。 何って。 「変形。プフォーッ」 と叫びながら両手の拳を頬の横にくっつけて丸くなって床にぴたっとくっつく。そうビーグルモード。
2019-03-18 01:06:15「ブォオオオオン」 排気音だ。設定としてはエンジン車だ。 あ、本当に変形はしない。家の中で変形したら部屋が壊れるし、だいたいナンバープレートだってついてないから。そういうのを気にする。できたやつだから。 名前は輪太郎。リンと呼ぼう。 「変形!」 立ち上がる。
2019-03-18 01:07:53ヒューマノイドモードだ。ポーズも決める。 いやーこれは恥ずかしい。高学年でこんなのやってるの見られたら死ぬ。 鍵っ子だからできるのだ。ひとりだからこそ。 「…ウィーン!」 「…」 目があう。誰かと。
2019-03-18 01:08:57「あ、失礼」 言い置いて、すっと衣装ダンスの中に誰かはひっこんだ。 リンは耳まで真赤になった。 「ウィ…ウィイイン…」 小声でつぶやきながら座る。
2019-03-18 01:10:07衣装ダンスの中からノックの音がする。 「よろしいか」 「…はい」 正座。 「許しなくお邪魔するつもりはなかったのだが」 「…はい」 「何回かノックしても返事がなく、もしや何かあったのかと」 「…はい」 「では失礼して」
2019-03-18 01:11:28ヌイグルミのクマが衣装ダンスを開けてあらためて入って来る。 「はじめまして」 かぶっていた羽根つき帽子をとって丁寧にお辞儀。 胴着に短ズボン、ブーツを履いて腰には二挺の古めかしい装飾付きの拳銃を吊るしている。 「自分はヌイグルミ王国銃士隊のフェルフェル・フェルドフェル」
2019-03-18 01:13:39「…はい」 「呼びにくければフェルと縮めていただいて結構」 「…はい」 「突然のことに驚きただろう…本来ならばこのようにヌイグルミと人間が会話するなどありえない…だが…君の母親に危機が迫っている」 「…?」 「邪悪なヌイグルミが君の母親を狙っているのだ」
2019-03-18 01:16:31リンはしばらく考えて携帯電話をとった。 「あの…うちの母ちゃん…ヌイグルミ…嫌いなんだけど」 「無理もない。君が生まれる前、ヌイグルミによるいまわしい事件に巻き込まれたのだ…だが…二度とは起こさせない…君の母親には知られないように処理する」 「じゃあ…警察に言う?」
2019-03-18 01:19:18ふかふかした銃士はかぶりを振った。 「王法により、人間の国家と接触するのは厳に戒められている」 「…じゃあ…父ちゃんに言う?」 「…君の父親は…はたして、邪悪なヌイグルミの存在を信じるだろうか」 「だいじょうぶだよ。父ちゃんも変わってるし」 「ならば、そうしよう」 メッセージを送る。
2019-03-18 01:20:47「こっち来て」 ちょこちょことフェルはリンに近づく。 「動画撮るから」 「動画?」 「さっきの話もっかいして」 ヌイグルミはあらためて邪悪な敵の襲来を告げた。しかし横で聞いている少年をおもんばかって、過去の陰惨な事件の詳細は省いた。
2019-03-18 01:22:29「かつて事件を起こした邪悪なヌイグルミが再び犯行を繰り返そうとしているのです…人間の国家に頼ることはできませんが、銃士隊がやつを捕えるまでのあいだ、十分に身辺に気をつけていただきたい…以上」 「終わった?」 「終わった」 「じゃあ送るね」
2019-03-18 01:24:33とりあえず緊急連絡を終えると、フェルはリンに会釈をした。 「お手数をかけ恐縮だ」 「ううん。あ、麦茶飲む?」 「普通のヌイグルミは人間の飲み物を口にできない…が、自分は大丈夫だ」 「そうなんだ。ホームパイは?」 「ホームパイとは?」 「食べ物」 「人間の食べ物か」
2019-03-18 01:26:41少年とヌイグルミは向き合ってペットボトルの麦茶とF屋のホームパイを分け合った。 「…これはなかなかおいしい」 「うん…はい」 「かしこまらなくていい。自分はいわば居候の立場だ。君に滞在の許しを得ねばならない身分だ」 「はい」
2019-03-18 01:28:06銃士は帽子を脇に置いて、短い足を投げだして座りながら、同じく短い手をぱたぱたと動かした。 「ただ、いくつかのお願いがある」 「はい」 「君ぐらいの歳ならば、もう大丈夫だろうと思うが、念のため言っておくと、自分を含めヌイグルミを抱きしめてはいけない」 「え?」 「王法が戒めている」
2019-03-18 01:29:50クマの人形はうつむいた。 「ちゃんとした訳があるのだ。かつてヌイグルミ王国の住民は人間の子供に抱きしめてもらうことができた…無上の喜びだったと言ってもいい…だが…あるおぞましい事件のあと、国王陛下は臣民すべてに過ちのもととなる行為を禁じた」 「は…はい…?」
2019-03-18 01:31:37「幸い君は男子のようだ。自分も人間の国を訪れるにあたって勉強したが、人間の男子はそこまでヌイグルミが好きではないし、抱きしめたりもしない。そうだろう?」 「はい」 リンがあっさり答えると、フェルはちょっと肩を落とした。 「まあ、なら、よかった」
2019-03-18 01:33:11勉強机の上に置いてある車のおもちゃに気づく。 「君は、乗り物が好きなのか」 「はい」 「男子はヌイグルミよりああいうものがいいんだな…ひょっとして、さっきやっていたのは…乗り物の」 「…うっ」 「すまない。繊細な問題だったな」
2019-03-18 01:34:33少年は正座しなおす。 「あの…本気じゃないから…あれは」 「そうだったのか」 「本気で変形しようとしてないから」 「承知した」 「部屋が壊れちゃうし、ナンバープレートもないし」 「なるほど」 ヌイグルミは真剣に見つめ返す。 沈黙が降りる。
2019-03-18 01:36:15「本当に抱きしめたりしないね?」 「しません」 「よかった。少し家の周りを見回らせてくれないか。邪悪なヌイグルミが、君を狙う可能性もないとは言えない。向こうは悪辣なやつで、君の母親をわが物とするために、人質をとろうとするかもしれない」 「どうぞ」 「ありがとう」
2019-03-18 01:38:13