創作:死なせ屋

グラスホッパー読んでたら書いてみたくなったやつ。今んところパクりっぽいけど以降は全然違う感じになるよ。
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紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

「なぜ私が」 小太りでパンツ一丁の男が呟く。間抜けな格好なのは彼が風呂上がりだから。それなのに身体中から脂汗を垂らしているのは、俺が彼に銃を突きつけているからだ。 「何故、かはどうでもいい。ともかくお前は死ぬ」 「死ななければ俺がこの銃で殺す」

2019-06-07 19:37:40
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

「そんな、無茶苦茶な話があるか」 彼の声は震えている。 「あるんだ。あるから今俺はお前に銃を突きつけている」 「お前ら、私が誰なのかわかっているんだろうな」 彼は与党の古株で、テレビや新聞で顔を見たことがあった。 「わかってる」 だからなんだ、とは口に出さなかった。

2019-06-07 19:46:09
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

「こんなことをして、ただで済むと」 「はいはいわかったすから」 俺の背後から声がした。足音が近づいてくる。 「書き終わったか?」 細身で、カーキの作業服に身を包んだ青年。 「ばっちりすよ」 短く柔らかに揺れる金髪と、室内灯の光を反射し輝くピアス。 彼は遊佐という。

2019-06-07 19:53:22
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

「遺書は完璧っすよ。無駄に尊大で、いばり散らして、でも家族は愛してて、そんでもってよーく読んでも中身はない」 「完璧だ」 後ろ手で頭を掻きながら、遊佐が男に近づく。 「吊ったら1発で完璧に死ねるように、寸法とるから。じっとしてて」 男の顔が青くなる。

2019-06-07 19:57:55
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

遊佐が男にメジャーを当ててうんうん呟き、また部屋の奥に行って15分ほど経った。 「準備できたっすよ」 遊佐が呼んでいる。 「さあ、一緒に来い」 スーツに着替えた男が、こくりと頷き、部屋の奥に向かう。 俺は銃を構えたまま、それに続く。

2019-06-07 20:01:46
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

椅子と、天井からぶら下がったロープ。 遊佐が男を手招きし、男は無言で椅子の上に立つ。 「本当に、私が死ねば家族には手を出さんのだな」 この15分、俺は根気強く男に訴えた。自殺しなければ、お前の娘は偶然頭のおかしい男に襲われ切り刻まれるし、孫娘は誘拐されてどこぞの愛好家の玩具になると。

2019-06-07 20:06:18
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

男は憤慨したが、その度に俺は同じような話をした。そうすると次第に家族だけは見逃してくれと懇願するようになった。非常にスムーズな交渉だった。ここまですんなりと説得に応じる奴は少ない。このホテルで愛人と会う予定だった割に、家族愛は本物なんだな、と思った。

2019-06-07 20:08:46
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

「言われた通りにするから、どうか娘は、いや孫だけは」 「大丈夫だから。安心しろ」 「僕ら、約束は守るから」 椅子の上に立ってから、5分もこの調子で、いい加減飽きてきた。 早く切り上げたくなった俺は、締めに入る。 「家族のこと以外に、言い残すことはあるか。それを言ったらもう死ね」

2019-06-07 20:11:25
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

「ミヤコ、あの子に、すまないと」 「ミヤコ?」 遊佐が聞き返す。 「今日、来るはずだった女だ」 男の愛人のことだ。 「楽しめずに、残念だったな」 「そういうのじゃないんだ。信じないだろうが、とにかく、彼女にすまないと」 「分かった」 俺が目配せをして、遊佐が椅子を蹴った。

2019-06-07 20:18:03
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

遊佐の設計通り、男は首の骨が折れて、苦しむ間も無く死んだ。仕事も済んだのでさっさと部屋を出る。鍵は部屋の中に。扉の前には、清掃中の立て札を置いた。遊佐が用意したものだった。

2019-06-07 20:21:32
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

大西さんは、殺し屋だった。銃で1発、が彼のやり方だったけど俺が変えさせた。それじゃあ、この業界では埋もれますよと言ったら、こんな仕事に業界があってたまるかよって言ってたっけ。何か変わったことをすれば、売れっ子の殺し屋になれると思って始めたのが、この仕事だ。自殺させる殺し屋。

2019-06-07 20:25:40
紅月れいじ/らげまん @5_purupuru

後ろ暗い金持ちは、相手の死ではなく、自死を望むものなのだ。という、俺の予想は大当たりで、俺たちはすぐに売れっ子になった。一件こなせば、一年はほどほどに遊んで暮らせる程度には儲かった。

2019-06-07 20:28:22