ストレイトロード:ルート140(42周目)
- Rista_Bakeya
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素人の料理において見た目の良し悪しはさほど大きな問題ではないが、食材は違う。特に茸は。「これはどう」「食用です」「こっちは」「すぐ捨ててください」毒の判別も鮮度の見極めもまず視覚を使う。昨日の取り違えがこたえたのか、今日の藍はいつになく慎重だ。「次は」「その前に手を拭きましょう」
2019-06-09 18:51:09人間が減れば他の生物の保護まで手が回らなくなる。動物園は統廃合を繰り返してどうにか生き残っているらしい。「昔ここでライオンを見たの」藍が古びた看板を見上げた。「寝転がってこっちを見てた。誘ってるみたいに。きっと油断させるためよ」営業を止めた施設は野鳥と野良猫の遊び場になっていた。
2019-06-10 19:11:15「先程からお怒りのようですが」藍の指摘が急に厳しくなったので、町長は困惑したらしい。秘書を通して助力を求められた。彼女が立腹に至った理由は明確だが、原因となった人物の前で使える言葉は限られる。ひとまず藍を宥めて済ませたら、面会後に文句を言われた。「不満があるなら直接言いなさいよ」
2019-06-11 18:51:03復興が進まないある町を訪れてから一月後、道路の再整備が始まったとの記事を読んだ。「瓦礫動かすの嫌がってた人の土地よね?」藍が写真を指した。その下には累月に及ぶ説得がようやく実ったとあるが、決定打となった出来事には一切触れていなかった。訪問以来、彼らは風が吹く度に何を思っただろう。
2019-06-12 19:07:28「この中にパパがいるらしいの」藍がラウンジから持ち出した新聞の山を調べていた。取材を受けた記事は連載で、掲載位置は毎回同じだという。藍が足元に放り出したものを拾い、めくってみると、見覚えある顔の写真が出てきた。「これでしょうか」即座に新聞を奪われた。偶然位置が違う日だったようだ。
2019-06-13 18:58:38解体作業用の重機の傍らに白い物が落ちていた。毛布かと思いきや、藍が近づくと正体が判明した。「まだ生きてるじゃない!」目も脚も衰えた老犬だった。倒壊した家の持ち主に問い合わせ、避難先から姿を消した犬がいると言われた。「ひとりで帰ってきたの?歩いて?」電話口の声と藍の疑問が重なった。
2019-06-14 18:48:23車を路肩に止めてから次の指示がない。藍は苛立った顔で端末をつついている。下手に声をかけると怒りが増しそうなので様子を見ていると、突然睨まれた。「わたしが困ってるの見てて楽しい?」割り込みはむしろ必要だったらしい。「ここの通信回線どうなってるの、全然つながらない」不満の種は混雑か。
2019-06-15 18:38:38特定の地域からあらゆる怪物を遠ざけることは可能か、と問われた。仮定の話と言うが軍人の発言では疑いたくなる。「永遠は無理ですけど」「一日でいい」「特定って広いところ?」私の懸念以上に藍が警戒している。位置情報をもたらす衛星の極秘打ち上げと白状させても、続けて詳細な用途を問い詰めた。
2019-06-16 19:36:00窓を全開にした実験室の中央に藍が横たわっている。周囲の会話や遠くの爆音に一切動じていないことが脳波から分かる。「風の声を聞いてるんだと」ウェンズが数値を書き留めながら言った。「その風を調べても情報なんか拾えないのに」耳で聴くのか、あるいは。裏付けが欲しい大人を笑うように風が吹く。
2019-06-17 22:53:11140文字で描く練習、2096。風の声。 提供: @Aster_planet 注釈: ウェンズは藍の能力を調査するチームの研究員。
2019-06-17 22:53:12荒れた物置部屋の正体がそれなりに広いダイニングキッチンだったとは。言葉も出ない私達に、唯一本来の姿を知る藍が掃除道具を押しつけていく。「ここまでほったらかしにしてくれて、大伯母様はきっと天国で泣いてるわ」元家主の孫達は視線で牽制を始めた。ここに不要品を放置したのは誰かの親なのだ。
2019-06-18 20:19:04「おじさんの前に何も映らない。壊れてる」後部座席に座る子供の一人がフロントガラスを指した。彼らが知る車は運転席に情報が表示されるのだろう。古い車種に拡張現実を加える外付け装置もあるが、そういえば藍は装備を指示しなかった。「景色見るとき邪魔だからつけなかったの」明確な理由があった。
2019-06-19 18:43:44有名な撮影スタジオが怪物の襲撃に遭った。報道によれば広大なセットを本物と誤認したらしい。建物の半分と発電機を失い編集の機材は全滅したが、スタッフは落ち込むどころか、破壊の爪痕を背景に実写映画の撮影を始めたという。「古いSFもののリメイクだそうです」「ドキュメンタリーじゃないのね」
2019-06-20 18:42:49