デス・フロム・アバブ・UCA #2

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エッ！違いますよ……」店員は目を逸らそうとする。「それです！ごまかされませんよ」「エット……！」店員はしどろもどろに視線を動かし、注文パネルの表示に気づいた。「こ……これッスよ」「え？賞金首？」「エット……」店員は身を屈め、囁いた。「コイツ、めちゃくちゃヤバイニンジャでした」24

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「殺人ですからね」コトブキは頷いた。「このソーダクリークでですか？」「いや、この店ッスよ」店員は囁き声をより低めた。「他所から来たニンジャでした。すぐにニンジャだとわかったッス」「その場にいたんですか？」「ハイ……奥に隠れましたけどね」店員はイタマエの顔を窺い、話し始める。　25

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「入店時から、見るからにヤバイ雰囲気でしたよ。ヤバイ様子で、この場の人間全員に、訊いてまわってました。その……オイランドロイドと一緒に旅している奴を見なかったか、って。オレンジの髪のオイランドロイドを連れて、バイクで旅をしてるって」「まあ！」コトブキは驚き、イクラを食べた。　26

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「それは恐らくわたしですよね」「続けろ」マスラダが店員を促す。「それでまあ、普通じゃない勢いだったんで、この町のチンピラがちょっかい出したんです。ソイツら、ここじゃ皆知ってるワルで、ウチのあの席に溜まって……俺のこと呼びつけてワザと紛らわしい注文したり、他の客にケンカ売ったり」27

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「その人達が……そのニンジャに？」「そうです。絡んだんです。人探しの質問に対して、こう、肩に手を回して、お前ヘロヘロじゃねえか、ニンジャ気取りか？つッて……そしたら、ボン！ですよ！腕の付け根から、ボン！って。カラテチョップか何かでした。超ヤバかった。チンピラは四人。一瞬で……」28

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チョンマゲの膝がガチガチとぶつかった。「ヤバ過ぎますよ。殺人を躊躇しなさ過ぎるし、命知らず過ぎる。この町だって、当然UCAの保護下ッスよ？ニンジャだからって……」「写真が信用ならない」マスラダはモンタージュを指で突いた。「仮面をしていなかったか」「仮面……？エット……」　29

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店員は思い巡らすように天井を見上げたが、曖昧な表情になった。「エット……いや、フードを被って……よく見えなかったし……何しろチョップが……こ、この店が血の海で……」NRS症状のフラッシュバックだ。「もういい。ソイツがおれ達の事を探していたんだな」「オイランドロイド連れの旅人……」 30

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「ケガ、してるのかと思ったんだよ」椅子を引っ張って、近くの常連客らしき男が寄ってきた。「貴方も決定的な現場に？」「そ、そうだ。決定的だ。血をポタポタ垂らしてよ」「血……？」「そうだ、血だ……」店員が男を見た。「真っ黒のエメツが刺さってた」「エメツだ……そうだろ……胸だ！」　31

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「そうだ……血、血が、変なんだよ、ポタポタ落ちてよ、0と1に、アイエ、アイ、アイエ……」「嫌だ……殺さないでくれ」相互にNRSを循環させ始める！コトブキは反射的に店員の頬を張って正気づかせた。常連客はいきなり嘔吐した。「オゴーッ！」　32

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「大変です！」コトブキが背中をさする。「どうした！」「うわあ汚ねえ！」店内に騒ぎが広まり始める。「全く何やってンだ！」イタマエが走ってきて、客を引きずっていった。チョンマゲ店員はイタマエに殴られ、モップがけを始めた。コトブキは慌て、マスラダはイクラ・スシを平らげた。　33

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落ち着かないまま店を出た彼らを、出口で待ち構えていた者がいた。「俺、ツイてる！」アベ一休のTシャツを着た少年が彼らを指差した。「騒ぎがあるから、まさかと思ったらだぜ！」「……ザック＝サン！？」「アンタ達には世話になったよな！」「どうしたのですか？何故ここに？」　34

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「え？そりゃ、決まってンだろ、バスに無賃乗車」ザックは広場に停車しているバスを指差した。「簡単だった。荷物入れにうまく忍び込んでさ」「何故とは手段の話ではなくて……」「プリンスジョージで "うまくやる" んじゃなかったか」マスラダが訊ねた。ザックは答えに詰まった。　35

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「関係ねえし。アンタ達には」ザックは後ずさった。「やっぱ、落ち着かねえしさ。川向こうにネザーキョウがあって、俺、繊細だからそういうアレがトラウマになっちゃってるしね。新しい暮らしをパーッとやるにはさァ、もっと暖かいところがいいよ」「そうか」マスラダはコトブキを促し、歩き出す。36

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コトブキは心配そうにザックを振り返った。ザックは彼らを追いかけ、追い越し、後ろ向きに行く手を遮りながら話し続けた。「だからさ、アンタ達はこのままバンクーバーに行くんだろ？こんなところじゃねえよな？目的地？その、俺……アイエッ」転んで尻餅をつく。コトブキは手を差し伸べた。　37

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「この少年はお腹をすかせています」コトブキはマスラダを見た。マスラダが答えるのを待たず、「テイクアウト・スシを買ってきます！」コトブキはスシ・バーに走り戻っていった。ザックは笑顔でコトブキの後ろ姿を眺めた。「ヘヘッ……」「アイツに感謝しろ」マスラダがザックをじっと見た。　38

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「そりゃ、感謝するよ」ザックは気圧された。「アンタにも感謝してるし。恩人だよ、アンタ」「……」「すごいカラテだった。アンタ、ニンジャだろ？」「……」「俺もニンジャになれたらなあ！どうすりゃニンジャになれる？」「……死ねば、なれるかもな」「死ぬのは嫌だよ！」　39

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ザックは納得しない様子で、「絶対、秘密のコツとかあるんだろ。教えてくれよ……とにかく、せっかくクソ生活とオサラバしたのに、ここじゃダメだ。バンクーバーまで一緒に連れて行ってくれれば、後はうまくやるからさ！」「行き先が同じです……」コトブキが戻ってきて、マスラダを見た。「よね」40

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◆◆◆ 41

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「GRRRRRR！」「GRRRRRR！」二匹の獣がバタつきながら上になり、下になるたび、降り積もったモミジが巻き上がり、赤とオレンジの色彩を散らした。やがて飛び散るのは血や肉片になっていった。「GROWL！」頸動脈を歪んだ牙が引きちぎると、黒帯が弾け跳び、カラテウルフが絶命した。　42

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「GRRRR……RRR……」血塗れのコヨーテはいつしか四つん這いの人間になり、そのままうつ伏せに倒れた。男は……フィルギアはモミジを手で掻き寄せ、朦朧と微笑んだ。「柔らかいな。暖かい」目を閉じた彼の白い顔にも、色鮮やかなモミジが降り積もった。　43

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……「元気じゃなさそうだな、ジョシュア」トレーラーハウスから顔を見せたイーサンの第一声は、それだった。そのとき自分は、さすがにムッとしたかもしれない。イーサンはもはやその時、憔悴し果てた抜け殻そのものだったからだ。「そんなワケあるか」彼は苦笑した。「俺は元気だぜ」　44

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「本当に？」「あのな、お前だろ」「……本当に？」ここで気づく。自分の身体を見下ろす。確かにズタズタだ。（な？）イーサンは眉を動かし、無言でそう伝えた。「いや、おかしいって」ジョシュアは頭を掻いた。「お前、そんな事言わなかったし、俺は……ああ。夢ね」　45

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寝返りを打つと目が覚めた。銃を向けてフィルギアを見下しているのは、迷彩服を着た見知らぬ男だった。男のこめかみを汗が流れ落ちた。「ネザーキョウの……人間か？」「そう見えるか？なワケねえだろ、泣けてくるな、ヒヒ……」フィルギアは咳き込み、見下ろす男を観察する。「で、アンタはUCAね」46

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【続く】