フランソワ・ドゥラランド『クセナキスは語る:いつも移民として生きてきた』(青土社)について

クセナキスの邦訳本についての備忘録まとめ。
3
青土社 Official info @seidosha

【新刊】F・ドゥラランド『クセナキスは語る』柿市如訳 音楽家として、数学者として、建築家として、レジスタンス活動家として、移民として生きたヤニス・クセナキス。その思想の核心が、数式を使わず平易な言葉ではじめて語られる。クセナキス自身によるクセナキス入門。 seidosha.co.jp/book/index.php… pic.twitter.com/zibyjcVBcG

2019-03-31 15:17:59
拡大
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

クセナキスの本が去年、今年と沢山でている。いいことだと思う。今頃きっとどこかで定番伝記マトシアンと最新伝記・娘マキの書いた伝記も、誰かが訳していることだろう。 seidosha.co.jp/book/index.php…

2019-03-18 02:27:38
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

クセナキスのインタビュー本としては他にヴァルガとセルーがあって、引用数はたぶんドゥラランドよりもヴァルガの方がかなり多いと思うけれど、このドゥラランドのインタビュー本には他にない面白い特徴が二つある。

2019-03-18 02:27:56
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

一つ目は、章ごとに関連文献を長めに(時に数ページに渡って)引用してくれていること。その中には、本人の書いた代表的な文章もあれば、研究者の論文もあって、ざっくばらんに語るインタビューとはトーンの異なる様々な関連文献の引用を読むことができる。

2019-03-18 02:28:17
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

もう一つは、巻末付録として、曲のリストや索引の他に、曲名の翻訳とそのちょっとした解説が載っているところ。これが面白い。クセナキスの曲名の大部分はギリシャ語で、しかも意図的に謎めいた使い方がしてある(エスカルが『対位法:音楽と文学』でそのことを指摘している)。

2019-03-18 02:28:37
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

それについて、訳や解説が載っているのだ。また、ギリシャ語だけじゃなくてドイツ語や英語、略語などを用いた曲名についても、謎解きできた範囲で解説している。「不十分ではあるが」と但書きがあるものの、これは、面白い試みだと思う。

2019-03-18 02:29:05
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

人物名(悲劇やプラトンの対話篇に出てくるような)や、ギリシャ語の方言も、わかるものはそう書いてある。現代ギリシャ語(ズィモティキ)もそう書いてくれている。まあ、調べればわかることだろうけど、現代希語に精通している研究者はそう多くはないだろうし、けっこうありがたい。

2019-03-18 02:29:31
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

あわよくば「この曲名についてはクセナキスがここでそう言っている」とか、書誌情報を付してくれればいうことはないが(冒頭にごく簡単な出典についての説明あり)、それは今後の研究者が引き継ぐ役割だと思う。

2019-03-18 02:29:48
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

私はこの解説を読むまで《keren》がヘブライ語の「ホルン」であることを知らなかった(単にちゃんと調べていなかっただけだだが)。これは訳出するとなると、まあまあ苦労しそうだが……(2つの西洋語間の翻訳とは違って、日本語にはギリシャ語のειμιやフランス語のêtreに完全に対応する単語はないし)

2019-03-18 02:30:04
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

青土社から出たクセナキスのドゥラランド本 @seidosha 、パラっと見た限り作品名解説と関連文献の二つ、どちらともちゃんと翻訳が収録されていた。 pic.twitter.com/s56nIxaPyw

2019-03-27 01:01:29
拡大
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

@seidosha しかも作品名解説は、邦訳でさらに情報を追加してくれている。ありがたい。《エオンタ》は原書だと単に「ギリシャ語でのêtres」としか書いてないが、邦訳だと補足情報として〔パルメニデスへのオマージュ〕とある(実際は単にêtresじゃなくてeimiの現在能動分詞男性対格/中性複数主格か対格)。

2019-03-27 08:30:12
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

たぶんでもこの形はアッティカ方言じゃないな…?ドーリアかイオニアの形か。アッティカ方言だとontaになるのかな…?ontaは名詞でもけっこう使いから、むしろこっちの非アッティカ方言ということになるか。

2019-03-27 08:30:35
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

クセナキスのドゥラランド本の表紙写真、「94年パリの自宅にて」とあるが、同じ写真家が、たぶん同じ時に撮ったであろう写真、カナック英語版では「90年頃」とあるが、この4年の誤差は…?「頃」が「4年」てことだろうか。まあでも、良い写真。顔左側の影は暗室で焼いたのかな。 pic.twitter.com/jn3cUKSPrj

2019-03-30 09:35:46
拡大
拡大
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

クセナキス関連本としてはまず、やはり伝記定本のマトシアン、娘さんの書いた最新の伝記。この二冊は邦訳出たら嬉しい。後は、ブワヴァン『メシアンの授業』。これは資料的な価値もあるし、教師としてのメシアンの教育と作曲の前衛の最前線が交差する濃密な本。日本語の読者にも歓迎されるはず。

2019-09-12 21:22:57
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

また、権利上の問題かもしれないが、ドゥラランドが邦訳されるなら、ヴァルガも日本語になっていいと思う。研究者にとっても有益だし、内容もこちらの方が濃い。マトシアンとヴァルガは、研究者で参照しない人のない、最重要文献だからだ。でも堅苦しくないし、読み物として面白い。

2019-09-12 21:24:41
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

妻フランソワーズの小説にも、ヤニスの記憶が濃密に刻印されている。『私、海が好きじゃない』『私を待って』『見て、私たちの道が閉ざされた』など。どの作品も「ヤニへ」の献呈が。フランソワーズがクセナキスをこう呼んでいたということの証し。

2019-09-12 21:26:23
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

クセナキス作品全体を概括する便覧的なものとしては、ハーレイの『クセナキスの音楽と人生』もいいかも(ただハーレイはパッとみた限り誤植が散見)。

2019-09-12 21:26:44
MIKAMI, Ryota / 三上良太 @Ryota_MIKAMI

[メモ]ポラン・デグルによる書評がCanadian University Music Reviewの19-1号に掲載。 twitter.com/seidosha/statu…

2021-01-25 13:03:35