四文転結の乱一回戦 文字数ランキング 10/14 9時更新

小竹田 夏 shinoda natsu @shinodana2

#四文転結の乱一回戦 『愛』 愛は二十七歳の時に、 とてもとても他人様には口にするのも憚られるような恋をいたしまして、 口を通って腸の下、 自らの子宮に宿りました命を、 「女手一つで上等」と 自分が今ここで、 息をしている世界に生み落としたのでございます。

小竹田 夏 shinoda natsu @shinodana2

愛から生まれた息子は、 愛の愛を三千グラムほどの身の時から一身に受けて育ちましたが、 一歳を過ぎても、 一向に歩き始めようとする気配がございませんで、 頭の中で黒い不安の雲立を見た愛が、 おそるおそる息子を病院に連れて行きますと、

小竹田 夏 shinoda natsu @shinodana2

運命を司る裁判官の医師は、 「徐々に進行して衰弱する難病ですので、二十歳まで持つかどうか」と 愛の背中を震わせる乾いた声で 宣告したのでございます。

小竹田 夏 shinoda natsu @shinodana2

愛は病院から家に帰りますと、 湯舟いっぱいに涙を流した後で、 下っ腹にきゅっと力こぶを作って鼻から息をふんと吐き出しまして、 「短くても最高の人生を」と、

小竹田 夏 shinoda natsu @shinodana2

そのときに愛に出来たこと、 十八の時から修行してまいりまして、 今では、さる国の大統領の舌もうならせた料理を 毎日、息子に振る舞うと心に決めまして、

小竹田 夏 shinoda natsu @shinodana2

糸目をつけず世界中から取り寄せた食材でもって、 膨らんだ風船と同じく、 愛しい息子が突然に事切れる末路を迎えるまでの 十年間、一日もかかさず、 愛情料理を息子に振る舞ったのでございます。

小竹田 夏 shinoda natsu @shinodana2

十一歳、息子の死亡時の体重は、二百キログラム超。

電子出版TAPIRUS／渋谷獏 @ShaTapirus

#四文転結の乱一回戦 ｢笑人形」渋谷獏 数カ月前からあたしの家族⋯⋯いや、隣の奥さんも、パート先の店員も、そこへ訪れる客も、町行く人々も⋯⋯要するに、自分以外の世の中の全員が藁人形に変わってしまった。

電子出版TAPIRUS／渋谷獏 @ShaTapirus

藁人形に変わった理由は何となく分かっていたので、あたしはこの状況を受け入れ、異常な日々をやり過ごしていたのだが、いい加減まともな外見をした人間と話がしてみたかった。

電子出版TAPIRUS／渋谷獏 @ShaTapirus

そんなある日、前をゆく一人の人間の女を見つけたので、あたしは嬉しくなり「待ってください！」と女に声をかけた。

電子出版TAPIRUS／渋谷獏 @ShaTapirus

ゲラゲラと笑いながら振り返るその女の顔は、あたしが藁人形で呪い殺したはずの姑の顔をしていた──。（了）

海野久実（うんのくみ） @marinegumi

#四文転結の乱一回戦 『無慈悲な男』 俺は腹が減るとイライラして些細な事で頭に血がのぼる性格だから、一分でも時間に遅れる事は許せなかった。

海野久実（うんのくみ） @marinegumi

高層ホテルの窓からは、青空を背景に遠くダイヤモンドヘッドがかすんでいて、そのまま視線を降ろすと、ホテルの玄関へのアプローチを走って来る、男の姿が小さく見えた。 「やっと来たか」と、俺はソファーに深く座り直し、男が息を切らして部屋に入って来るのを想像しながら拳銃を構えた。

海野久実（うんのくみ） @marinegumi

「買って来たよ、ハンバーガー」パパのおでこに、おもちゃの弾丸が命中した。

電子出版TAPIRUS／渋谷獏 @ShaTapirus

#四文転結の乱一回戦 ｢衝突の夢」 少し前から、何かに衝突する夢を見るようになった。 あまりに頻繁に見るようになったので医師に相談すると、｢あなたの家系は、遺伝的に予知能力を持っているので、予知夢の可能性が高いですね」とロボットの医師はやさしい声で応えた。

電子出版TAPIRUS／渋谷獏 @ShaTapirus

あたしはその日から外出するのをやめ、事故に遭う可能性をなくすようにしたが、それでも悪夢は毎晩のようにつづいた。 ある日、何の前触れもなく「ガチャン」と音がすると、地球が宇宙の「壁」に衝突した──。（了）

草野理恵子 @riekopi158

『人類絶滅の日』　　　　　　　　　　　　　 　 最後に腕を抱えて逃げていたから、あなたは私の腕を大事に思っていたのでしょうね。 あなたは見知らぬ土地に住み、見知らぬ人に目立たぬ挨拶をし、見知らぬ土地の片隅に私の腕を植えました。 #四文転結の乱一回戦

草野理恵子 @riekopi158

人類絶滅の日、私の腕たちは一斉に声を上げ、青白い汗を滴らせ次の世界のための種を落としました。 その美しい姿を見るものはなく、腕たちは腕に腕を巻き付け、祈るようにあなたの名をいつまでも呼んでいました。 #四文転結の乱一回戦