稲川淳二の『つぶやき怪談』(2019.10.28)

1
前へ 1 2 ・・ 5 次へ
稲川淳二 @Junji_Inagawa

横断歩道の傍らに、看板が立て掛けられていて、 それには、

2019-10-28 22:07:10
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「目撃された方を探しています。 平成 ○年 ○月 ○日、午後9時半頃、 この近くで、母親と幼い女の子が、轢き逃げされて亡くなりました。

2019-10-28 22:07:34
稲川淳二 @Junji_Inagawa

情報をお持ちの方は、ささいな事でも結構ですので、 ご連絡ください。ご協力お願い致します。○○警察署」 とあった。

2019-10-28 22:07:58
稲川淳二 @Junji_Inagawa

信号が変って、バスが再び走り出して、間も無く停留所で停った。

2019-10-28 22:08:20
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ドアが開いて、乗客が3~4人降りると、 車内の客は、自分とあとふたりだけになった。

2019-10-28 22:08:44
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そこに、入れ違いに、今しがた、横断歩道を渡って行った若い母親と、 幼い女の子が乗って来た。

2019-10-28 22:09:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ふたりは車内を見回してから、 幼い女の子が眠っている乗客の男に近づいていって、顔を覗き込んだ。

2019-10-28 22:09:40
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして、母子は互いに顔を見合せて、 「違う」 といったふうに首を振った。

2019-10-28 22:10:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

続いて、女の子はもうひとりの乗客の男のところへ行くと、 同じように、眠っている顔をまじまじと見詰めてから、つぶやくように、

2019-10-28 22:10:51
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「・・違う」 と言った。

2019-10-28 22:11:16
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(まずい、まずいぞ、こっちに来る・・・) 母子が自分の方に向かって来る。

2019-10-28 22:11:53
稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、視線を避けるように下を向いていると、 ふたりが自分の前に立った。

2019-10-28 22:12:17
稲川淳二 @Junji_Inagawa

女の子がこっちを指差している。

2019-10-28 22:12:31
稲川淳二 @Junji_Inagawa

やがて身体を屈めて、顔を覗き込んできたんで、 目を瞑って眠っているふりをした。

2019-10-28 22:12:55
稲川淳二 @Junji_Inagawa

顔をジーッと見詰めているらしい。

2019-10-28 22:13:18
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ハァ―ハァ―ハァ―ハァ― 頭の先で、幽かな息遣いがしている。

2019-10-28 22:13:38
稲川淳二 @Junji_Inagawa

しばらくの間があって、 「・・こいつかい?」 という母親の声がした。

2019-10-28 22:14:09
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、頷くように、 「うん・・」 と、女の子が答えた。

2019-10-28 22:14:45
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのとたん、 「轢き逃げしたのは、お前だ!」 と、叫び声がして、

2019-10-28 22:15:13
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、思わず顔を上ると、目の前に血塗れの母子が、 立っていて、凄まじい形相で、自分を睨み付けている。

2019-10-28 22:15:47
稲川淳二 @Junji_Inagawa

悲鳴を上げて、立ち上がって逃げようとするんですが、 どうした訳か立ち上がれない。

2019-10-28 22:16:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのまま、両手をべタン! と床について、

2019-10-28 22:16:45
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ううー・・・ハァ―ハァ―ハァ― うううー・・・・ペタン・・ペタン・・

2019-10-28 22:17:07
前へ 1 2 ・・ 5 次へ