林淑丹(LIN Shutan)『小泉八雲・澁澤龍彦と『夜窓鬼譚』 交響する幻想空間』(翰林書房)を+Mさんが読むスレッド

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+M laboratory @freakscafe

林淑丹(LIN Shutan)『小泉八雲・澁澤龍彦と『夜窓鬼譚』 交響する幻想空間』(翰林書房)。 石川鴻斎による漢文体の怪異奇奇談集『夜窓鬼譚』。この書自体、『聊斎志異』からその素材を借りているが、さらに八雲、澁澤の創作に素材を提供している。各々の作者によってどんな換骨奪胎がなされているか。 pic.twitter.com/8qUBMynM0t

2019-11-10 15:19:33
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+M laboratory @freakscafe

例えば澁澤『ねむり姫』所収「ぼろんじ」「画美人」。これは澁澤自身が明かしているように『夜窓奇談』所収「茨城智雄」「画美人」に取材して書かれている。 私は澁澤の『ねむり姫』が殊の外好きで、そのソースとなった書物を漁ったことがある。勿論『夜窓鬼談』も手に入れて読み比べてみた。

2019-11-10 15:33:28
+M laboratory @freakscafe

著者は、石川、澁澤の二作、その異同を丁寧に読み比べ、そこに露わになる澁澤の特徴を浮き彫りにしていくのだが、ここでは「画美人」の描写中、澁澤の特徴を最も強く照射すると思われる箇所について引く。 ≪澁澤版の美人像が原典のものと大きく異なる点は、美人に臍がないということである。

2019-11-10 15:36:34
+M laboratory @freakscafe

臍のこの不在は美人像を読み解く鍵のひとつとなっている。澁澤は原典の美人の名前「小麗」を「翠翠」に改名した。松山俊太郎氏は、この改名から美人の正体は翡翠か青い鳥だと述べている。「翠翠」という名前および、臍がないという卵生的な性質から、美人の正体は青い鳥である可能性を暗示している。≫

2019-11-10 15:41:38
+M laboratory @freakscafe

澁澤のエロスは、じつのところ、オブジェのエロスである。 澁澤にとって、「女」はオブジェの器であり、「女」に宿ることができるオブジェとは、またイデアの器であるとも言える。 「女」はいつもそれ自体ではなく、その「正体」は、鳥のイデア、フローラのイデア、魚のイデアなのである。

2019-11-10 15:48:30
+M laboratory @freakscafe

逆に、イデアを愛玩するとき、イデアは半ば女であり、つまり澁澤はイデアと交わるようにして戯れている。 エロスは、それ自体としての男女の交合ではなく、言わばイデアの容れ物どうし、空っぽな器同士の「行為」であり、「行為」といって、だからそこには肉のリアリティなどどこを探してもない。

2019-11-10 15:52:19
+M laboratory @freakscafe

澁澤の紡ぐ物語において、エロスの成就とは、性行為ではない、メタモルフォーゼであろう。鶴女房のように、「女」が「正体」を露わにする、或いは、「臍がない」という形で、ほとんどスティグマのような兆候的な奇形性が描出される。

2019-11-10 15:58:48