氷原公魚著【破竹のナイトメア】～竹の子社員を不幸に堕とす～ まとめの壱☆

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p 【破竹のナイトメア／社員番号一番　神沼三平太様】#tknm

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@ts_p 竹の子書房社員番号一番。この番号を背負うのは、神沼三平太という怪談作家だった。自己紹介によれは「身長五メートルを超える怪人」と書かれているが、これは仮想空間でのお遊びというものだろう。しかし実際の本人については、大男だという複数の証言がある。#tknm

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@ts_p 集合無意識の中で生きるエンジョイメントにとって、神沼三平太の姿は巨人であるという設定を反映して、やはり身長五メートルを超えていた。その巨人がパソコンの前に座り、怪談原稿を書き、たまに気晴らしなのか珈琲豆を焙煎している。#tknm

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@ts_p 社員名簿には神沼本人を模したと思われるイラストが使用されていた。エンジョイメントはあることに気がつく……それは、ハゲだ。本人が実際にハゲているのかは彼女にはわからない。もしかしたら、お寺の住職よろしく剃髪しているのかも知れない。#tknm

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@ts_p だが、エンジョイメントは知っている。「普通、生まれながらのハゲはいない！」年齢と共に髪が失われていく場合もあるが、それとて大抵は経年劣化して髪がうすーぅくなっていくものなのだ。いや、うすーぅくなっていくからこそ、残された髪はとても愛しいものだ。#tknm

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@ts_p 夢魔であるエンジョイメントの姿は神沼三平太には見えないし、そもそも神沼は忙しいのか、パソコンの前に座って一心不乱に原稿を書いている。感付かれる心配はない。エンジョイメントは台所に行き、神沼が珈琲を焙煎するときに使用しているらしいフライパンを念入りに炙る。#tknm

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@ts_p 加熱されたフライパンからは、空のままでも珈琲のよい香りが漂った。エンジョイメントはフライパンを重そうに持ち、背後から神沼三平太の頭に載せた。ジュウという音と共に、なにかが焦げる匂いがした。神沼が悲鳴を上げる。#tknm

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@ts_p 驚愕して立ち上がった神沼三平太の足が、何かを踏みつけた。それはエンバーメントの魔道具、因果のビール瓶だ。この赤い星のマークがついた瓶は、全ての因果を悪い方に転化するのだ。そして瓶に躓いた彼は、作業中のパソコンのコンセントにひっかかった。#tknm

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@ts_p ぶちん！　と、作業中だったパソコンの電源が突然落ちる。神沼三平太の絶望に満ちた叫びが室内に轟く。慌ててパソコンに駆け寄ろうとしたが、パソコンのモニターに何かが突き刺さった。真っ赤に燃えたフライパンである。神沼三平太は声にならない悲鳴を上げた。#tknm

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@ts_p 【破竹のナイトメア／社員番号一番　神沼三平太様のお支払い】 ・頭皮の毛根細胞の大部分。・パソコン一台全損、データ修復不能。#tknm

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@ts_p 【破竹のナイトメア／社員番号二番　サデスパー堀野様】#tknm

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@ts_p 「多芸な人ねー」エンジョイメントは、社員名簿に印刷された次の犠牲者の経歴をそう評した。サデスパー堀野。その「サデスパー」とは何だろう？　調べてみると昔の特撮ドラマ「イナズマンフラッシュ」に登場する、悪の組織デスパー軍団の大幹部の名前だとわかった。#tknm

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@ts_p 「悪人なら子供たちの敵よねー」エンジョイメントは語尾がちょっと間延びする可愛い話し方で呟く。彼女は今回のお支払い方法についての方針を固めつつあった。夢魔の仕事には事前のリサーチが欠かせない。情報収集こそ勝利の第一歩だ。#tknm

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@ts_p 色々調べれば調べるほど、この男が何をしている人間なのかわからなくなってくる。アニメや特撮・ゲーム関連中心のフリーライターで、TVチャンピオン「悪役怪獣・怪人王選手権」 三位、同「食玩王選手権」四位というよくわからない経歴の持ち主らしい。#tknm

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@ts_p だが膨大な状況の中から、エンジョイメントは遂に目的の情報を見つけた。サデスパー堀野は昔懐かしい「ビックリマンシール」の蒐集に至っては、日本でも指折りの人物らしい。こういうものを集める人物は知っているはずだ。その価値が失われる悲しみを――。#tknm

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@ts_p 「…もがぁ!」サデスパー堀野は助けを呼ぼうとしたが、言葉にならなかった。何故なら彼の口にはギャグボールが押し込まれ、鼻フックをつけられ、パンツ一丁にされ、何処かの幼稚園のジャングルジムに麻縄で縛りつけられていたからである。何故、こんなことになっているのだ？#tknm

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@ts_p そこへバニースーツを着た小柄な少女が、転びそうになりながらやってきて言った。「さあ、よいこのみんなー。このお兄さんは悪いひとだなんだよー！　みんなに渡したシールをお兄さんに貼り付けて、悪のデスパー軍団を倒しちゃおうー！」#tknm

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@ts_p キラキラとした輝く笑顔の幼稚園児たちが、ワラワラとサデスパー堀野の前に現れた。その手には明らかに、彼のコレクションである「ビックリマンシール」が握られている。泥に汚れた手で！　粘着面をぐちゃぐちゃに剥がされて！　サデスパー堀野が豚のような悲鳴を上げる。#tknm

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@ts_p ギャグボールから、唾液が滴り落ちていた。大事なコレクションが今、とても無残な状態になったのだ。ぐったりとしたサデスパー堀野。だが、そんな彼に少女は情け容赦なくトドメを刺した。「次はシールを剥がそうー！」この日、粘着力によって彼は陰部以外の全てを失った。#tknm

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@ts_p 【破竹のナイトメア／社員番号二番　サデスパー堀野様のお支払い】#tknm ・ビックリマンシールコレクション壊滅。 ・陰部以外の体毛を全て。

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@ts_p 【破竹のナイトメア／社員番号三番　加藤万夜様】#tknm

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@ts_p 因果のビール瓶で軽く叩いただけで、加藤家の玄関についていた鍵は壊れた。他人様の家だというのに躊躇なく、エンジョイメントはハイヒールを履いたまま階段を上がる。加藤家のリビングは二階だ。新築時に彼女の夢主は加藤家を訪ねているので、大体の間取りはわかっている。#tknm

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@ts_p リビングに入ると、ハーメルンが加藤万夜と一緒に遊んでいた。「なにやってるの？　ハーメルン」「あ、遅かったねぇ」ハーメルンは抱いていた万夜を開放し、たっぷりと毛並みをモフった後の快楽に身を委ねている。万夜の毛をモフモフするのは、竹の子社員にとって慰安行為だ。#tknm

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@ts_p 竹の子書房社長秘書室長・加藤万夜。竹の子書房で渉外を担当し、総務雑務全般や調整も行う才媛と言われているが、彼女は猫だった。エロ怪談…もとい、実話怪談で有名な怪談作家・加藤一と暮らす、アメリカンショートヘアmixの雌。その業務は同居人たる加藤一が代行している。#tknm

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@ts_p ハーメルンがエンジョイメントに媚びるような視線を向けた。「ねぇ、万夜室長はいいでしょう？　猫なんだし、そもそも支払いの方だってアンタはやり過ぎなのよ？　ホントは台湾バナナで転ばせるくらいで充分なのに」「いやー、私の夢主は手加減ってのがまるで出来なくてー」#tknm