映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』内包された緻密なストーリーを分析&解説(ネタバレ有り)
- kyobyobyo2
- 19909
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沼地の木にウインチを巻きつけてウォー・リグを脱出させることを思いついたニュークスだが、少しだけワイヤーの尺が足りない 彼は自分の手元にいつまでもつけっぱなしだった鎖に気づき、ケイパブルにボルトカッターで切断させる 作中で繰り返し描かれる、呪縛を断ち切ろうとする暗喩だ
2020-03-02 01:08:16ケイパブルの頬にキスし、鎖を「輸血袋」に放り渡して、ニュークス自身は念願のウォー・リグを運転する 事が一段落したところで、ニュークスは笑顔で言った 「こんなにキラキラ(shine)したことができるなんて思わなかった!」 輝いていたのは、ウォー・リグを運転したからだけではない
2020-03-02 01:13:27ニュークスは生まれて初めて、自分の意志で他者を助けたのだ 自分の知恵で他者を救い、輝くような女たちから感謝され頼りにされた この時点でニュークスは、宗旨を変えてしまったことだろう もはや彼は、かつてのような「モノ」で満足できるような在り方ではない
2020-03-02 01:16:27「報復」から戻ってきたマックスから、ニュークスは片足だけの靴を渡される マックスは砂嵐の中でスリットに靴を奪われ、その後目覚めたときにニュークスの靴を奪っていた 律儀すぎる「報復」に、ニュークスは驚きつつも微笑んでいる フュリオサを含め、互いをそれなりに人間として認め合った場面だ
2020-03-02 02:11:06第三幕のクライマックスに至って、ようやくスリットが再登場する 転向したニュークスを罵る言葉は、かつてニュークス自身がフュリオサに向けて放った言葉とまったく同じ「You filth! You traitored him!」だ(厳密にはスリットのほうだけが文法間違いをしている)
2020-03-02 01:29:01スリットは同乗者を射殺され、念願のドライバー昇格を果たす 運転するのはV8搭載、マックス所有のインターセプターだ 運転席の外で逆さ吊り状態のマックスを押し潰そうと突撃してくるが、フュリオサの機転でウォー・リグと人食い男爵のトレーラーに挟まれ、逆に押し潰されて死ぬ
2020-03-02 01:33:13このときスリットは「ヴァルハラ!」と叫んでいる その叫び声には元相棒ニュークスのみがわずかに反応しているだけで、ほとんど誰にも顧みられていない インターセプターという堂々たる「キャラクター」を引っ張り出しておきながら、あまりにも呆気ない退場だ
2020-03-02 01:37:39虚栄心に満ちた「欲張り」にふさわしい末路だというのは、少々冷たい言い方だろう 特異なエゴイストではあったが、スリットのような生こそが、ウォーボーイズはじめ「モノ」として虐げられた人々の標準だと見るべきだ ならば、「モノ」であることを拒否したニュークスの結末はどうか
2020-03-02 01:40:48彼もまたスリットと同じく、横転する車両の中で最後を迎える 違うのはそれこそが彼の意志による行為で、「Witness」という最後の祈りに応える者たちがいたことだ これを、自己犠牲の尊さを描いたものだという誤解をしてはならない
2020-03-02 01:45:11ニュークスは「イモータン・ジョーの呪い」から逃れられなかったというのも外れている 重要なのはニュークス自身が意志をもって誰かを守ろうとしたという、その行為に他ならない 「Witness」という言葉は、ヴァルハラの栄誉を欲したものではなく、自分を記憶しておいてほしいという愛する者への願いだ
2020-03-02 01:50:00ニュークスは物語の第三の主人公とも言うべきキャラクターだ 「半分の生(half-life)」と呼ばれるウォーボーイズとしての生き方と、あまりにも純粋な人間性とを同時に体現していた彼の輝きこそが、『マッドマックス』の世界を忘れがたく美しく彩っている
2020-03-02 01:56:32