【鏡の中の私】

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#源色トマト 鏡の中の私～ﾌﾟﾛﾛｰｸﾞ 〈星野先生お電話です。東北の病院からです〉 『はい電話変わりました星野で…なんだお前か。それで…うん27週だな。分かった。後詳しくは送ってくれ。受け入れの手配しておく』 何かおかしい いつもの星野先生ではない様な… 〈妊婦さんの受け入れですか？〉

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#源色トマト 鏡の中の私1 私は今 東北の自然豊かな町の病院で 産婦人科医をしている だがもうすぐでここでの勤務も 終了する 所属する大学の医局からの 異動の指示 逆らうわけいはいかない 逆らうには医局を出る覚悟が必要だ そんな覚悟…か… かつての私の様に 思い立ったら後先考えずに動く

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#源色トマト 鏡の中の私2 そんな自分だったから 今のスキルを手に入れた代わりに 失ってから気づくものの大きさ… 今日も 外来の診察 気になる妊婦さんがいる 妊娠中期 ハイリスクだが 夫の仕事の都合で この春に都会へ引っ越す そのための長い時間の移動は さらにリスクを高める

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#源色トマト 鏡の中の私3 〈先生、私向こうに行ったらペルソナ総合病院の産科にかかりたいんです。調べてみたら引っ越し先からも近いしそこならNICUもあるみたいだし…先生はどう思いますか？〉 ペルソナ…!! 確か一緒に働いていた 星野くんと綾野くんのいる病院… 星野先生… 私の忘れるはずのない…

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#源色トマト 鏡の中の私4 佐藤… 忘れるはずもない いくらありふれた苗字でも 彼女の声を忘れることは無い 彼女が留学して海外へ行った後 お互いに忙しく お互いに色々とあって 離れたばかりの頃 メールで色々とやり取りをしていた 好きだとか 愛してるだとか そんな言葉もあったかもしれない

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#源色トマト 鏡の中の私5 そのうち俺の 言い訳や愚痴が多くなり そんな自分に嫌気がさし メールを送る回数が減っていき 同じように 彼女からのメールの数も 減っていった… 連絡を取らなくなって それでも俺は 向こうも頑張ってるんだろうと 勝手な思いを抱いていた そして俺らは疎遠になってしまった

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#源色トマト 鏡の中の私6 あれから6年… 彼女が日本に戻って来た事は 風の噂で聞いていた しかし どうしても 知り合いのツテを頼っても 連絡のすべがなかった… それが こうして妊婦を紹介されるなんて… そこからこうして また並んで仕事をする日が来るなんて…

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#源色トマト 鏡の中の私7 ［佐藤、お前来週からペルソナで研修して来い！その後でこの地区の周産期医療センターの立ち上げを任せたいんだがどうだ？センター長のポスト、いい話だろ］ 久しぶりに研修医時代にお世話になった教授に会ったと思ったら… 出世欲のない私に 荷が重過ぎだよ… でもそれよりも

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#源色トマト 鏡の中の私8 ペルソナでの研修の方が 興味をひかれる そこには 好きなのに離れていった人… 追いかけられなかった自分… あの人は今幸せなのだろうか 幸せなら邪魔をする気は毛頭ない 今では私の事どう思っているのか そんな事に 興味を持つ私はおかしいのだろうか これが未練ってヤツ？

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#源色トマト 鏡の中の私9 ちょうど来週 気になる妊婦さんを ペルソナに送りながら挨拶に行こう その後の周産期センターの話は それから返事でもいいだろう 私の経験したことない事を 見に行くのは楽しみ… 「星野先生？ご無沙汰しております。佐藤です。分かりますか？今回ご紹介したい妊婦さんが…」

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#源色トマト 鏡の中の私10 『分かった。妊婦は受ける。それと、お前はこっちには来ないのか？』 「近いうちにうかがいます。綾野先生にも会いたいしね」 『後で連絡する…』 「分かった」 久しぶりの会話… …とても夫婦の会話とは思えない… 〈今の、佐藤先生？〉 『ああ、27週の妊婦の紹介だ』

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#源色トマト 鏡の中の私11 〈星野、来週から南東北医大から一人研修の先生が来るんだ。周産期医療センターの立ち上げのためだそうだけど産科医だから手伝ってくれるって…〉 『研修医の手伝いって…足でまといだろ』 〈それが…来るの佐藤先生らしいんだ〉 『はぁ？…近いうちにってそういう事か…』

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#源色トマト 鏡の中の私12 全くいつも俺に連絡なしで 事を進めてしまう… まぁ、こちらからも連絡をしないのも悪いんだが… だからと言ってこっちに来るなら 俺に先に教えてくれても… そんな所は変わりない 彼女とは 話さなければいけない事が ありすぎる… これまでの事 そして… これからの事も…

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#源色トマト 鏡の中の私13 研修の挨拶も兼ねて ペルソナに妊婦を送って行く 準備をしていると スマホが音を鳴らす 「はい…」 『佐藤…』 「はい…」 『久しぶりだな』 「ご無沙汰してます。今度、お世話になります」 『今度来る時、時間とれるか？』 「私は時間の余裕は全然あるけど星野先生こそ…」

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#源色トマト 鏡の中の私14 『ああ、綾野が泊まり代わってくれた』 「じゃ綾野くんにお土産買っていくね。…その時にゆっくりと…」 『ああ、お前のことだからわかってると思うけど、お前まだ星野だから…』 「先日確認したらまだ星野でした。その事も含めての話ですね」 人は年月が経てば変わる

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#源色トマト 鏡の中の私15 当たり前の事 会わない間に 星野くんにも 私にだって 色んなことがあっただろうし… それなのに 自分勝手に海外へ留学した 妻とも呼べないような私の事を 未だに籍を抜かずにいてくれている 星野くんはそんな人… 優しくて 人が好きで つい甘えてしまう 私 強くなりたくて…

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#源色トマト 鏡の中の私16 私は星野くんよりも4歳年上で… だけど大学の医学部に入る前に 産科の看護師をしていたから 医者としては 星野くんや綾野くんよりは 後輩で… 初めて入った医局で 指導医に無理難題ばかり… 今でいうパワハラを 受けていた私 荒れる私をなだめてくれるのは 綾野くんで

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#源色トマト 鏡の中の私17 黙って手を差し伸べて 教えてくれたのは 星野くんだった 私が助けられない命に 涙した時 そっと包んでくれた 星野くんと 私は恋に落ちた… 暇さえあれば一緒に症例を 語り合い 休みがあえば 一緒に大学の図書館に行く 始めはほんとに 不器用で 交際とは呼べないものだった

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#源色トマト 鏡の中の私18 お互いに少し余裕が持てる様になり お互いの部屋で 音楽を聞いたり 映画を見たり インドアな2人が 交際するのは 自然な流れだった あの時までは… あの時私は九州で行われる学会に 一人で参加していた その途中で具合が悪くなり 倒れてしまった 緊急手術… …子宮外妊娠

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#源色トマト 鏡の中の私19 歳は俺より4つ上 の 佐藤先生 医学部に入る前までは 産科のクリニックで看護師をしていたと 言っていた 産科を経験した看護師が 助産師になる事は よく聞く話だが 医学部に入り直すバイタリティが すごいを尊敬している 俺とサクラのいる医局に入ってからも いつも明るくて

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#源色トマト 鏡の中の私20 本人には言えないけど 年齢を感じさせないくらいの 頑張りは 見習わないといけないと サクラともよく話していた そんな彼女の指導医は 彼女のやる気を利用して 力量以上の仕事を押し付け 更には 自分の手柄として 教授に報告していた… 逆に失敗した時には

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#源色トマト 鏡の中の私21 自分の説明不足を棚上げし 彼女のせいにした… それでも彼女は 自分を責め 自分をさらに追い込んでいった そんな彼女を見ていられず 守ってあげたいと思うようになった 彼女も徐々にではあったけど 必要以上に自分を追い込む事がなくなった そんな彼女に俺は… 恋していた

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#源色トマト 鏡の中の私22 そんな彼女と付き合うことになり あれから２回の後輩を迎えた頃 俺たちはさらに忙しくなっていたが その合間を縫って お互いに時間を作り 一緒のときを過ごしていた 医局で知っているのはサクラだけ 2人の時間を作るために 泊まりを変わってくれたりする 最大の協力者だ

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#源色トマト 鏡の中の私23 そんな彼女にある日プロポーズした 俺とサクラは ペルソナの医局に誘われていた そこを決める前には ちゃんとした約束をしたかった 今思うと そう思っていたのは 俺だけだったのかもしれない 彼女の回答は 「少し考えさせて」だった 九州の学会に行ってきた後に 返事をすると

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#源色トマト 鏡の中の私24 彼女は向こうで 学会の途中で強い腹痛で 病院を受診し 盲腸の診断で手術を受けた かなり酷くなっていたらしく オペ後帰ってくるまでに 1週間もかかった… それまでお預けのままの俺は 通常のの忙しさの中 看病に行ってやることも出来ず ソワソワして 帰りを待っていた