『博士と弟子』（第１３集）

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「よーし、完成した」「本当ですか、博士」「ああ、『踊る人形薬』！　これで少女は美しい暗号になるのだ！」「博士。それなら『二銭銅貨薬』でも――って、そうじゃなくて、少女という謎をより難解にしてどうするんですか！」パリン！「この薬は廃棄する」「やれやれですね」

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#twnovel 「完成だ！　『ポーズ薬』！　これで少女はカンペキなポージングを実現するのだ！」「博士。少女はポーズなんてとらなくていいんじゃないかな。何が相手に訴えるかわかんないし、無理なポーズは少女を壊さないでしょうか」パリン！「この薬は廃棄する」「はい、博士」

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#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『辞書薬』！　これで少女は膨大な語彙から編まれた告白によってどんな相手も落とすことができる！」「博士。告白に上手下手があると思いますか。言葉より思いが大切なのだと私は信じたい」パリン！「この薬は廃棄する」「はい、博士」

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#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『人形遊び薬』！　少女よ！　これで君はもうひとりじゃない！」「博士。少女はひとりだよ。それから目をそらすな。けどね、博士。私も人形は大好きでしたよ」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

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#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『目薬薬』！　これで少女はいつでも泣くことができる！」「博士。嘘から出た涙でも、それは少女を悲しい気分にさせるのではないでしょうか。そして、涙を流し続ける少女なんて私は涙なしには見られないよ！」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

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#twnovel ｢ははははは！　完成したぞ！　『巻頭カラー薬』！　これで少女はアンケートだって絶好調！｣｢博士。巻頭カラーをとれば人気爆発？　違います。それに巻頭カラーは目標にこそなれ、目的にはならないでしょう？　勘違いしないで｣パリン！｢この薬は廃棄する｣｢博士！｣

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#twnovel 「ははははは！　『人形劇薬』！　これで少女はもつれ合う人間関係の糸を見、それを解くことが出来る！」「博士。それはあまりにも傲慢なんじゃないかな。人の縁を操作しようだなんて、たとえ神聖な少女といえど、許されることではないはず」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

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#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『ガールズサイド薬』！　これで少女は様々なタイプの男の子を攻略可能！　その上男の子には好きな名前で呼んでもらえるのだ！」「博士！　それで本当に好きな男の子が『攻略不可能』になったらどうするの！」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

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#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『バッドエンド薬』！　これで少女は悲しみの結末に辿り着くのだ！」「博士。悲しみに終わりはないと私は思います。けれど、それでも、終わらない悲しみを生きていく力が少女にはあると、私は信じたいのです」パリン！「この薬は廃棄する」「博士！」

Shimada Yuichi @chimada

「『博士と弟子』はこれで終わる。よって、次回からアナザー・ストーリーとして『人形殺しを決行する』が始まる。読みたければ読むといいさ。さて、『博士と弟子』を長々と読んでいただき、感謝する」「博士。どうしてそんな嘘をつくんですか。もう少し続きますからね」「本当か？」 #twnovel

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 私が部屋に入った時、博士は紙に向かって何かを書いていた。「博士、それは？」「つくり話」――少年は人形を探すことにした。魔法使いに手伝ってもらって、少女のために作った人形を。そして――「博士。できあがったら読ませてくださいね」「さぁ、どうだろう」「素直じゃない」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「博士」「ん？」「『世界征服』についてどう思いますか」「けほっ」博士がそうして体を震わせて笑い出したので、私はなんだか恥ずかしくなってしまった。「もういいです」「世界征服。まあ、いいけどさ。それよりも僕は目の前のことに手をつけたい。いいかな？」「はい、博士」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士は戯れに言ったことがある。｢世界は開くものだ｣｢箱みたいに？｣｢そう、箱みたいに。けれど、開いた世界の外にはまた世界があるんだ｣｢マトリョーシカみたいに｣｢なるほど｣と博士は頷いた。｢博士｣｢うん？｣｢閉じた世界は不自然ですか？｣｢花の種子は不自然だろうか｣

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#twnovel 博士は窓の外を眺めていた。｢ねえ、博士。いくら待っても空から少女は降ってきません。それに早くしないと焼いたクッキー、全部食べちゃいます｣すると彼はようやくこっちを向いた。｢わかった。食べてやる｣｢食べてやる？｣｢ああ、わかったよ。いただきます｣｢いただきます｣

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#twnovel 「博士、だめじゃないですか。時計を分解しちゃって」「あ、悪い。つい面白くて」「直してくださいね」「わかった」すると博士は両手を蜘蛛の足のように動かした。「できた」「あれ、ふたつ？」「うん。双子時計」「どこからふたつ分のパーツが？」「秘密」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 目覚めると、博士の背中が見えた。薄地の黒いセーター。ガラス瓶のかちゃかちゃいう音。私は自分の肩に彼の白衣がかかっているのに気づく。「博士にしては人間的なことを」と心のなかで思う。そしてもう少しだけ彼の背中を眺めることにする。「起きてるなら、手伝え」「はい、博士」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「博士」「ん？」「ちょっと私の白衣のここ、見てくれません？」「あーあー、ボタンが取れそうだな」「はい。それでですね、ボタンのつけ方、教えてくれませんか」「俺がやってもいいんだぞ」「いえ、習いたいんです」「ふうん。わかった、教えてやるよ」「ありがとうございます」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel きれいな色の液体の入ったビンを、博士は揺らしていた。まるで宝石みたい。液体は光を通してきらめいていた。私はそれに見とれてしまった。「なにしてるんだ」「すみません、博士。見とれていました」「な」「え？　あ。いえ、博士でなく」「なんだ、おどろいた」「すみません」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士が何かを作っていた。見るとそこにはカードの塔が建っていた。何枚ものカードを組み合わせて作られたそれはとても高かった。「なにしてるんですか」「つい夢中になった」すると彼は惜しげもなくその塔を指で突き崩した。「あっけない」と私は言った。「ああ」と博士は答えた。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士がちゃっちゃかかちゃかちゃと薬品をいじくりまわしているのを、私は横で見ていた。その動きは力強いけれど力任せでなく、繊細だけれど迷いがなかった。「なんだよ、僕の動きを言語化するのが君の役割なのか」「すみませんです、博士」「まあいいさ、見ていろ」「はい」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士はときどき口うるさい。きちんと食べてるのか――とか、夜きちんと眠れてるか――とか私に聞くのだ。そんな彼につい言ったことがある。「うるさいですね、博士。まるで継母みたい」「ままはは……？」「すみません。言い直します。まるで母親みたいですね」「言い直してそれか」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 博士は庭へ水やりに。私は部屋で仕事の後片付けをしていた。午後の陽が部屋の中に忍び込んでいた。開いた窓から水の音が聞こえる。まるで雨みたいだった。私はぼんやりと、とりとめのない想像をふくらませた。「おおい」と博士が私を呼んだ。私は明るい庭へと向かった。

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『時計の針薬』！　これで少女はペースを決して崩すことはない！」「ははっ。ばかだね、博士。ペースを狂わせてあわてふためいている少女が可愛いということを、お忘れですか？」パリン！「この薬は廃棄する」「了解です、博士」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『アンソロジー薬』！　これで少女は親をあらためて選ぶことができる！」「博士」「ん？」「私はとても悲しい。それは少女の親だけでなく、少女自身のことも否定することになるからです」パリン！　「この薬は廃棄する」「博士」

Shimada Yuichi @chimada

#twnovel 「ははははは！　完成したぞ！　『北風と太陽薬』！　これで少女はツンとデレの絶妙な落差によって、男心を奪い去ることができる！」「博士。北風と太陽のおはなしって、奪うのではなく与えることが大切だと教えた話じゃないのですか」パリン！「この薬は廃棄する」「はい、博士」