武田綾乃『響け!ユーフォニアム』ショートストーリー

『響け!ユーフォニアム』の作者・武田綾乃先生による、ツイッター上でのショートストーリーをまとめました。随時更新。
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武田綾乃 @ayanotakeda

「みっちゃんの好きなところ?」 飴玉を口の中で転がしたような、軽やかな甘さの残る声だった。さつきは私を見て、丸い瞳を無邪気に揺らす。 「全部!」 屈託無く告げられた言葉を呑み込むまでに、ひどく長い時間が掛かった。 君の無邪気な好意が、私をますます悪者にした。 (美玲とさつき、一年の春)

2020-02-26 18:46:11
武田綾乃 @ayanotakeda

寒い夜だった。12を過ぎた時針を見ると、眠れない自分が悪い子に思える。優子は窓に手を掛け、隙間を作った。夜の空気は冷たく、少し寂しい。そこでふと、アイツへの素敵な嫌がらせを思いついた。 「今から電話してやろっと」 声を聞きたかっただけとは、絶対に言ってやらないつもりだ。 (大学生の話)

2019-12-06 00:07:03
武田綾乃 @ayanotakeda

そして、何もかもが手の中からこぼれ落ちていく。足元に散らばる無限の可能性。それを搔き集めることすら面倒で、私は布団に倒れ込んだ。枕に顔を押し付け、瞼の裏に闇を作り出す。その瞬間、私は確信した。幼い頃に夢見た未来は、この手では永遠に掴むことができないのだ、と。(田中あすか、十二歳)

2019-03-27 22:04:04
武田綾乃 @ayanotakeda

早朝の学校は静かだ。無人の運動場を見ていると世界を独り占めした気分になる。誰もいない廊下、誰もいない音楽室。朝焼け色が校舎を支配していた。世界は美しい。でも、君がここにいてくれたなら、もっと綺麗だ。 未練がましい自分の思考に溜息を吐き、私は音楽室の鍵を開けた。(ある日のみぞれ)

2019-03-18 21:19:32