開封動乱〜フレッシュ事変〜【完】

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「…それでも叛徒には変わりありませぬが」 宿「戦は別だ。今回の件と梁山泊は切り離して考えよ、趙安」 趙「…宿元景殿」 宿「どうした？」 趙「梁山泊好きなんですか？」 宿「闘う相手としてな」 趙「はあ」 宿「もう一度豹子頭の騎馬隊と相対したいものよ」 趙「…」 宿「九紋竜の遊撃隊もいい」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「調査の首尾は、公順？」 公「ただいま張開殿と徐京殿が進めているところです、趙安殿」 趙「開封府の治安を守れずして、新鮮組の意味がないからな」 公「私たちが遭遇した賊の懐に、このような印が」 趙「虎の印？」 公「何かの手がかりになるのではないかと」 趙「覚えておこうか」 公(何者かな)

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

張開「趙安殿」 趙「おう、張開」 張「…役人の首が城内に掲げられています」 趙「なんだと!?」 公「すぐに行きましょう！」 公「酷い…」 趙「天誅？」 張「替天行道ではありませぬな」 趙「この腐れ役人は我ら大虫窩に無礼を働いたので天誅を下した…」 公「なんと身勝手な」 張「ただの役人です」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「…我らで弔おうか」 公「虎の印と大虫窩…」 趙「なるほど。虎の穴か」 公「こんな非道がまかり通るなんて…」 趙「その道を正すのが我らだ、公順」 女「…」 公「…ご家族でしょうか」 趙「これ以上こんな想いをさせる民を出さぬぞ、皆！」 公「はい！」 張「…」 公「張開殿？」 張「涙が…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

公「徐京殿はどうされているのですか、張開殿？」 張「…あいつは影です」 公「影？」 徐京「後ろの正面だあれ？」 公「!?」 趙「見事な変装だ、徐京」 徐「お褒めにあずかり光栄です〜」 公「一体どこにいたのですか？」 徐「それ言うたら飯が食えなくなる」 公「…」 徐「ご報告が」 趙「分かった」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

徐「公順殿らが襲われたのは夜間やね？」 公「はい」 徐「何しに行く途中やったん？」 公「それは…」 徐「場所は色街やんな、確か」 趙「隅に置けんな、公順」 公「王煥に言ってください！」 徐「…それがあの辺り、どうも嫌な感じなんよ」 公「嫌な感じとは、徐京殿？」 徐「それがなあ〜」 公「…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

徐「勘、としか言いようがあらへん」 張「監察とはそういう仕事なのです。公順殿」 徐「男の目が、けだものみたいな宿があってん」 公「けだもの？」 徐「公順はんは、ならへんの？」 公「なりません！」 趙「分かった。引き続きよろしく頼む」 徐「合点承知！」 張「かしこまりました」 公「全く！」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「治安維持と戦の調練も並行してやらんといかんとは大変だな」 公「確かに…」 趙「何信と韓存保殿を見ろ、公順」 何「！」 韓存保「…」 公「何信殿と互角とは…」 趙「当然だ。呼延灼と並ぶほどの男だぞ、韓存保殿は」 公「八代目フレッシュマンを争ったという…」 趙「私も彼の過去は知らない」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「二刻の稽古はどうだ、公順？」 公「真剣で向かい合う稽古なのですが…」 趙「それで？」 公「どうしても、腰を抜かしてしまったり、気を絶ってしまうのです…」 趙「そうか」 公「私に何が足りないのか、未だに掴めないのですが…」 趙「掴むまでやめるなよ、公順」 公「無論です！」 趙「よし！」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

楊温「！」 趙「楊温の用兵は機を見るに敏だな」 公「彼も楊業の血を引くという…」 趙「あまり他人の過去の詮索ばかりするな」 公「…」 趙「今のお前は、韓存保殿の稽古と調練に打ち込む時だ」 公「はい！」 趙「楊温と手合わせしてこい、公順！」 公「フレッシュ！」 趙「…」 公「！」 楊「！」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「兵を率いる時は溌剌とするな、公順は」 楊「！」 公「!?」 趙「おう、楊温の急襲が」 公「！」 楊「…」 趙「なるほど」 公「凄まじい突撃ですな、楊温殿」 楊「上手くいなしたじゃねえか、公順」 趙「公順」 公「はい」 趙「死ぬのが怖いか？」 公「…それは」 楊「…俺は巡回に」 趙「…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「私には自分が死ぬのを防ぐため、兵を犠牲にする用兵に見えた」 公「…」 趙「死ぬ時は誰だろうと平等に死ぬのが戦」 公「…」 趙「将が自分の命惜しさに兵を犠牲にする用兵など言語道断」 公「…」 趙「行け、公順」 公「…ありがとうございました」 趙「…私も人のことは言えぬかもしれぬがな」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙安…剣の腕は凡庸だが、部下の掌握や視野の広さと公平さは局長に相応しい。 宿元景…実は梁山泊が好きすぎる禁軍の将。一緒に闘う夢を見たほど。 公順…自分に欠けているものを自覚し始めた。 張開…寡黙なフレッシュマン。巨漢の強面。涙もろい。 徐京…剽軽なフレッシュマン。潜入任務はお手の物。

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

何信…韓存保殿から学ぶことが多いな… 韓存保…戦歴をひた隠しにしているが、とんでもない実績を残しているとか。 楊温…普段は無愛想だが、酒を飲むと豹変して饒舌になる。

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

第四話　選ばれざるフレッシュマン #開封動乱〜フレッシュ事変〜

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

王文徳「…」 趙安「フレッシュはどうした！王文徳」 王「…フレッシュ」 趙「肚から声を出せ！」 王「フレッシュ…」 趙「声が小さい！」 公順「王文徳殿が…」 何信「フレッシュも言えぬ男がなぜ新鮮組に…」 王「…」 公「王文徳殿」 王「公順殿か…」 公「フレッシュが得意ではなさそうですね」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

王「…どうしても私は、大きな声を出すのが恥ずかしいんだ」 公「誰でも得手不得手はありますからね」 王「…」 公「王文徳殿は、なぜ新鮮組に？」 王「…なんとなくさ」 公「聞いてもいいですか？」 王「なにを？」 公「あなたはなんとなく不得手な組織に入隊するのですか？」 王「…失礼」 公「…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

王「…」 牛邦喜「おい、狗」 王「…」 牛「進捗は？」 王「…もう少し、待ってくれ」 牛「お前のもう少しと狗が千里走るのと、どちらが速いやら」 王「…」 牛「腐れ野郎嫌いの高俅様がなんと言われるかな…」 王「頼むから待ってくれ！」 牛「だから俺が哀れな狗を助けに来たんじゃねえか」 王「…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

牛「この情報を腐れ野郎どもに垂れ込め」 王「!?」 牛「何を今更驚いている？」 王「まさか、お前たちまで…」 牛「…」 王「こんなことが許されると…」 牛「これ以上言ったら、お前から消えるが？」 王「…」 牛「良い報告を待ってるぞ、親殺しの親不孝〜」 王「…」 王「母上。私はどうしたら…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

王「趙安殿。大虫窩について、私の塾生から情報が」 趙「私塾を開いていたな、王文徳は」 何「頼りになるのか？」 王「…私にとっては」 趙「続けてくれ」 王「大虫窩には、人斬り五虎将がいるそうです」 趙「…」 王「一人一人が一騎当千の豪傑らしく…」 何「お前の情報は本当に確かなのか、王文徳」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

王「…」 何「黙って聞けば、いるそうです、だの、らしく、だのあやふやな言葉ばかりではないか」 趙「どうなんだ、王文徳」 王「…その連中が入り浸っている賭場を、塾生が見つけました」 趙「…」 何「口の利き方が変わったな、王文徳」 王「…」 何「参考までに、聞かせてくれ」 王「…なんなりと」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

何「賭場はどこに？」 王「ここです」 何「知らせた塾生の名は？」 王「…牛邦喜」 何「そいつはどうやって賭場を…」 趙「何信」 何「…」 趙「疑う理由を探ることは容易い」 王「私は…」 趙「私も半分疑っているがな」 王「…」 趙「しかし、人斬り五虎将や、賭場から推測できることはあるはずだ」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙「お前の情報は参考に留めておく」 王「…はい」 趙「張開と徐京の情報と組み合わせて判断しよう」 何「この程度の情報では、それが賢明ですな」 王「…」 何「それでは私は巡回に…」 趙「一人で行くのか、何信？」 何「少し考え事をしたいのでね」 趙「油断するなよ」 何「分かってます」 王「…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

王「…」 公順「王文徳殿？」 王「！」 公「鳩、ですか？」 王「ああ…」 公「どこに飛ばしたのですか？」 王「…故郷の、母上の所さ」 公「…」 王「…」 公「他にご家族の方は？」 王「これ以上聞かないでくれ、公順殿」 公「…失礼しました」 ？「…カモが来たぜ」 ？「鳩だ。馬鹿野郎」 ？「…」

すいこばなし(北方水滸伝・楊令伝小噺集) @suikobanashi108

趙安…あいつの知謀は買っているのだが… 公順…故郷という割に、飛んで行った位置が不自然ですね… 何信…肌が合わんのだよ、あいつとはな。 王文徳…インテリフレッシュ。訳あり。 牛邦喜…高俅の部下。それだけで概ね察せられるだろう。