「インカのめざめ」の甘さとじゃがいもの糖化について ~あかまるさんによるじゃがいものヒミツ~

あかまるさん、なにものなんだろう。 じゃがいも専門家でよろしいのだろうか。 →いいみたいです!
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「インカのめざめ」という種類のじゃがいもをお取り寄せしてみました。
これが、甘い。予想以上に甘いのです。

ぶたやま @Butayama3

お取り寄せした「インカのめざめ」、油であげてるんだけど、これ、じゃがいもの甘さと違う。 pic.twitter.com/qyAsiVxMgn

2020-05-28 19:24:09
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あかまるさんからコメントがありました。

えっ、本当にじゃがいもと違うの?

あかまる @aka_maru_k

ジャガイモの糖化について語っておきたいが、まだ飯を食っていない

2020-05-28 20:06:07
あかまる @aka_maru_k

インカのめざめが「ジャガイモじゃないくらい甘い」のは、極端な話「インカのめざめはジャガイモじゃないから」みたいな理由に落ちていく 実際はジャガイモと同じような作物なので一括に扱うけれど、地上部も地下部も、ジャガイモとは全然似ていない

2020-05-28 20:11:25
あかまる @aka_maru_k

まあ、インカのめざめもアレコレすれば普通ジャガイモと交配できるので、全く別物ではないんだけど、いろんな特性を鑑みても、やはり別種でしょこれという印象 真のジャガイモとはなんぞやという話にもなっちゃうけれど

2020-05-28 20:20:55
あかまる @aka_maru_k

そもそもジャガイモは生殖隔離を伴わないまま種の多様性を獲得しているので(栄養繁殖だから)、同種別種という議論はあまり意味がないかも

2020-05-28 20:22:16

ごはん、召し上がったみたいですね。
語ってください!

あかまる @aka_maru_k

ジャガイモの糖化について語りましょう・・・ #あかまるくんは語りたい

2020-05-28 20:33:13
あかまる @aka_maru_k

まずジャガイモは、掘りたては全然甘くありません 掘りたてジャガイモはとてもデンプンが粉っぽく、ホクホクした食感がある一方で、味は薄く、甘みを全然感じられません 光合成によって合成されたブドウ糖が、全てデンプンに変化しているからです そしてデンプンは味がしない・・・

2020-05-28 20:36:35
あかまる @aka_maru_k

このデンプンは、ジャガイモを貯蔵している間に、じわじわショ糖やブドウ糖や果糖に変わっていきます これをジャガイモの糖化と呼びますが、特に0℃~4℃で保存した場合に助長されるので、「低温糖化 Low Temperature Sweetning」と呼ばれます

2020-05-28 20:38:26
あかまる @aka_maru_k

この温度帯では、次世代の種子としての自覚にあふれるジャガイモが「このままでは凍死してしまう」と感じて、デンプンを積極的に分解していきます 具体的には、デンプンを分解して単糖を生じることで、浸透圧を高め、凝固点降下を引き起こすことで細胞が凍結しにくいようにしていくのです

2020-05-28 20:40:08
あかまる @aka_maru_k

掘りたてのジャガイモは、-1℃位で芽の細胞が死に、発芽できなくなってしまいますが、 十分に低温糖化を誘導したジャガイモは-3℃くらいまでは耐えられるようになります 秋に掘り残したジャガイモが北海道でも越冬して、翌年の畑に野良生えするのがこれが原因です(詳細は割愛)

2020-05-28 20:42:17
あかまる @aka_maru_k

さて、この低温糖化が誘導されたとき、最終的にブドウ糖と果糖になるので、その状態でジャガイモを食べると甘みを感じられます 品種によって蓄積される糖の量は異なりますが、低温条件で保存する時間が長いほど、糖の蓄積は多くなります

2020-05-28 20:44:27
あかまる @aka_maru_k

インカのめざめは、特に糖の蓄積が多い品種の一つで、低温で十分な時間(3ヶ月位?)貯蔵すると、とてもとても甘くなります 「はるか」という白肉のジャガイモも極端に甘くなりますが、具体的な当蓄積量データは手元になく・・・

2020-05-28 20:47:20
あかまる @aka_maru_k

この低温糖化は、個人で消費するぶんには好ましい特徴ですが、加工メーカーは嫌います 例えば、ポテトサラダに使うとき、季節によってレシピを変えなければ、味が大きく変化してしまいます ポテトチップやフライドポテトにするときは、ブドウ糖や果糖が多い状態では焦げの発生に繋がります

2020-05-28 20:48:48
あかまる @aka_maru_k

なので、大手のポテトチップメーカーは、季節=貯蔵期間によって使う品種を変えています 収穫直後の秋は低温糖化していないので食味重視のトヨシロ、冬春は糖が蓄積しにくい=焦げにくさ重視のスノーデンやきたひめという品種を使っています

2020-05-28 20:50:38
あかまる @aka_maru_k

インカのめざめが特殊なのは、低温糖化は非常に激しく進む割に、ブドウ糖や果糖のような還元糖が生じない点です デンプン→ショ糖→ブドウ糖+果糖の流れが、ショ糖で止まります これは普通のジャガイモにはない特徴で、インカのめざめは低温糖化しても焦げにくいのです

2020-05-28 20:52:43
あかまる @aka_maru_k

なんでこんな違いがあるかというと、普通ジャガイモとインカのめざめは祖先種が違うのです 普通ジャガイモはSolanum stenotomumという祖先由来ですが、インカのめざめの祖先はSolanum phurejaという祖先由来で、 栽培化された地域も、利用方法も異なったようです

2020-05-28 20:54:39
あかまる @aka_maru_k

実際にインカのめざめと普通のじゃがいもを並べて栽培すると全く別物のように見えます 茎は多いし、葉はワシャワシャしているし、イモは小さいし、、、 はっきり言ってしまえば育てにくいのですが、別種だからこその特徴が活きて、今の日本までつながっているのでした

2020-05-28 20:57:01
あかまる @aka_maru_k

また、インカのめざめはそのままでは普通のジャガイモと交配できませんが、特殊な作業をアレコレすると交配できるようになります ただ、その子供は当然、普通ジャガイモの遺伝子と半々になってしまうので、焦げにくさや低温糖化の激しさは失われてしまうのです

2020-05-28 20:58:45
あかまる @aka_maru_k

このような「もともと別種だったので普通ジャガイモとは異なる特徴がある」を極端に誇張すると「インカのめざめはジャガイモじゃない」みたいな表現になるのでした

2020-05-28 21:00:22
あかまる @aka_maru_k

本当は、実際は、分類基準の改定で別種から別亜種扱いに変わっていたり、Solanum phureja由来のジャガイモの全てがインカのめざめと同じような特徴を示すわけではなかったり、色々細かいツッコミどころはあるんですけども・・・

2020-05-28 21:05:15
あかまる @aka_maru_k

最近はこの「ジャガイモの甘さ」を売りにする手法もあって、「よく寝たイモ」「雪室貯蔵」などというブランドで低温糖化をガッツリ誘導したジャガイモが販売されています デンプンが分解されているので、ホクホク感はなく、しっとり=べっちゃりした食感になっていて、たしかに甘い

2020-05-28 21:11:29
あかまる @aka_maru_k

というわけで ・ジャガイモは冷やしておくと甘くなる ・インカのめざめの独特さは祖先が違うから という話でした インカのめざめ、見かけたら食べてみて下さいね

2020-05-28 21:13:51