この椅子も20年は使っている。 一度座面を張り替えている。 もしこの上で妊婦が出産したら、今は20歳の成人が座っていることになる。 仕事する時はどいてもらう。
2020-06-01 21:04:00中二だな。 多分師匠に出会った歳だ。 私はその日までエレキベースが何の役割をしているのか分からなかった。何故かわかるか?
2020-06-01 21:24:52当時の庶民のラジオやTVやレコードプレイヤーから低音なんか出ない。 ゆえに、ベースの音なんか聞こえない。 小5で参加した大人のバンドにもベースは居なかった。
2020-06-01 21:29:27それで、師匠のバンドの前座で私の中2バンド(ベース居ない)が出た。 特にベースが居ないことは気にしていなかった。(私が)(無知が涼しい顔でベースレス)。
2020-06-01 21:34:11まあ、ベースが無くても中2なので会場は沸いたけど。中2だから。 そして師匠のバンドが登場した。 ベースの腹にくる重低音を聞いて体の震えが止まらなかった。 スゲー、何これ!(ベースです)
2020-06-01 21:39:02駄目でしょう。ベース無いバンドなんて駄目でしょう。と自分を打ち据えながら恥ずかしさでみるみる小さくなり鍵穴から逃げ出した(嘘だけど)。 ベースを知る衝撃と恥ずかしさの混在した中2の頬は赤い。
2020-06-01 21:43:19ああ、ベースを入れなきゃ。 ああ、ベース入れなきゃ夜が明けない…。 そう思いながらうなだれて帰るクリスマスの夜の中2のステルス。
2020-06-01 21:48:13古いご贔屓衆には周知の話だ。 会場を出て行く時、ギターケースを持った中2は注目を浴びたが、うなだれていたよ。 いくら中2だからといってベースも知らないギタリスとをそんな肯定的な目で見ないで欲しい、まったく。と、ブツブツ下を向いて言いながら出て行った寒空だよまったく。
2020-06-01 21:55:20そして一週間後に「いちはるちゃん」が来るよ。亀有の家にな。 これも古いご贔屓衆には周知の話だ。 いちはるちゃんはこう言ったよ。 「中村さんがキミを探して連れて来いっていうので、来たんだよ。やっと探し当てた」
2020-06-01 21:59:47中村さんは、あの日のバンドのバンマスでギタリストだよ。 中2のクソガキを見ていじってやろうと思ったんだろうな。 「うそ!あの人?え?うそでしょ…え?…え?」 鳥肌の立つ中2。
2020-06-01 22:04:27いちはるちゃんに連れられて辿り着いたのは亀有から一駅、綾瀬の駅から程遠い昭和の一戸建て。一回は牛乳屋さんだ。
2020-06-02 21:00:00昭和の一戸建ての二階にはどこから搬入したのか不明のピアノがでーんと置かれており、その部屋に中村さんは鎮座していた。 すげー、この人だ。本物。 色、白っ。激ハンサム。 続いて恥ずかしさがこみ上げる。 ベースの無いバンドをいけしゃあしゃあと披露した無知の己知らずの恥ずかしさ。
2020-06-02 21:04:52そこに座れと言われてピアノ椅子に座らされる。こわ。叱られる…。 あの時やった曲弾け。と言ってモズライトを渡された。ビビル。大卒初任給3万円の時代に30万円したモズライト(後に偽ものと分かる)。 まじすか。自分、生きた心地しないす。 「え、一人で弾くんですか?」
2020-06-02 21:12:26じゃあ、レコードかけるからそれに合わせて弾け。この間やってた曲な。途中この間の通りオマエのソロ入れろ。 あの時はほとんどカヴァー曲だった。 帰りたい。もう帰りたい。怖い。 師匠の色素の薄い目が怖い。
2020-06-02 21:17:19初公開。これは古いご贔屓衆も知らない。 その時、弾けと言われたのはこの曲。 youtube.com/watch?v=AhYTb5…
2020-06-02 21:21:26バッキングは簡単だが、自作のソロを入れろというのが怖い。 しかし、今思えば、怖いのは驕っていたからだ。かたが中2のクソガキがいっちょ前のギター弾きに見てもらおうとするふざけた了見があるからだ。 すみませんでした、師匠。すみませんでした、世界。
2020-06-02 21:25:55驕れるクソガキがガチガチの演奏を終えると、中村さんは拍手をしてくれた。 やや大きめで肉厚の手の拍手の音が思い出される。 驕れるクソガキ、いまに泣きそう。
2020-06-02 21:31:25「おまえは子供だが、へたな大人のXXXXXXXXより上だ。自信持て。たまに遊びに来い」 と褒めちぎられた。 だが、中村さんがクソガキを誉めるのはそれが最初で最後。 その後はイジメるイジメる。
2020-06-02 21:36:39苺牛乳のエピソードはそれから6年後だ。 さて、その後しばしば中村さんの家には遊びに行った。 その時のステルスの音楽状況を軽く説明すると「片足を突っ込んでいる程度」だ。つまり、中2のくせに「Them」のコピーをやっているがそれ以上の深さはなかったということだ。
2020-06-02 21:45:15中村さんは、そんなことはお見通しだ。 二度目の訪問の時、中村さんは言った。 「おまえ、普段どんな音楽聴いてるんだ?」 答える間もなく 「こんなんだろう?」 と言ってピアノを弾き始めた。 うわー、ズボシだぁ。ダメかぁ。それダメかぁ、ダメだよなぁ、でも他のメンバーがなあ、ダメかぁ…・
2020-06-02 21:51:16