『バラライカ&シモネッタ』 ぷりめ文書

ブラクラ日本篇のバラライカに、通訳として米原万里先生がつく二次創作です。こういうのも二次創作っていうんでしょうか。 遺族の方か、広江礼威先生に怒られたら消すのでお早めにお読みください。
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@ぷりめ @prime46502218

米原万里がバラライカの通訳になる話すごく面白そうです。『バラライカ&シモネッタ』です。

2020-05-29 09:25:45
@ぷりめ @prime46502218

わたしはだいたいにおいて浅慮で、長期の計画というより、その場その場のアドリブで通訳の仕事も人生のトラブルもなんとしかしてきた。だからこそ計画性皆無で、アドリブ力だけ異様に発達したロシア人たちと付き合えるのかもしれない。だがそんなわたしにしても二度と御免という経験はある。

2020-05-29 09:30:29
@ぷりめ @prime46502218

ロシアンマフィアの通訳として、やくざとの抗争に巻き込まれたのである。 思えばきっかけはこれも浅慮からだった。通訳業のお得意さまから、ブーゲンビリア貿易の社長ヴラディレーナ氏がビジネスで日本を訪問する、通訳を探していると電話を受けた。ギャラもよかったし、長くても数週間とのことで、

2020-05-29 09:38:22
@ぷりめ @prime46502218

深く調べもせずにOKしてしまったのが間違いの元だった。 そのことを同業者のKくんに会ったとき話したら、彼は目を丸くした。「米原さん、それやばい所ですよ!」 驚いて調べたら、言うとおりだった。ロアナプラというタイの港町にあるこの貿易会社は、ロシアンマフィアのペーパーカンパニーだったのだ

2020-05-29 09:43:09
@ぷりめ @prime46502218

しかし今更断るのも怖い。いったん仕事を受け、前金も受け取ってしまった。クライアントは同じ女性通訳がいた方が安心だと言っていたし、わたしがいる前提で仕事の段取りを組んでいるはずだ。それに、やくざもロシア人もだいたいにおいて信義も重んずる。ロシア人のやくざならすごく重んずるだろう。

2020-05-29 09:47:24
@ぷりめ @prime46502218

最初は悩んでいたが、そのうちわたしの中で、好奇心と持ち前の楽観性が勝ってきた。ロシアと名のつくものについてはおよそ百戦錬磨のわたしだが、ロシアン・マフィアと親しく知り合ったことはない。ましてや仕事をしたことは。こうしてわたしは仕事を受けることに決めた。ああ、なんという浅慮。

2020-05-29 09:50:58
@ぷりめ @prime46502218

歌舞伎町の某クラブで、わたしはさっそく後悔していた。 この場にいるのは、ガタイがよくて顔の怖い日本のおじさんと、ガタイがよくて顔の怖いロシア人のおじさん。それに何故か日本人のヤッピーの兄ちゃんと、華僑と思しき可愛らしい娘さん。挨拶した時ガンをつけてきたので彼女もヤクザなのだろう。

2020-05-29 09:58:32
@ぷりめ @prime46502218

東京にシマを持っているのに何故か関西弁のやくざと話しているのが、わたしの雇用主、ミス・ヴラディレーナである。齢は三〇そこそこか。美しい顔、豊かな金髪、豊満なバストにきゅっとしまった腰。高級なスーツを伊達に着こなしている。女性のわたしから見ても、ねたましいくらいの美人社長である。

2020-05-29 10:03:05
@ぷりめ @prime46502218

しかし、彼女は部下から「大尉(カピターン)」と呼ばれ、部下のことは「同志軍曹」など階級をつけて呼んでいた。事前にホテルで会ったとき、でっかい肩章がついたソ連軍の将校用外套が吊るしてあった。極めつけに顔面は右半分が焼けただれていた。どうみても軍隊崩れのマフィアである。

2020-05-29 10:07:55
@ぷりめ @prime46502218

国が破れるというのは悲しいもので、ソ連が破産したときに多くの軍人やKGBがクビになった。年金もインフレで紙くずになった。空前の不景気、就職難という計画経済の時代にはありえなかった事態に、誇り高き元軍人や元スパイは食べていくためヤクザに身を落とした。終戦後のわが国に少し似ている。

2020-05-29 10:12:57
@ぷりめ @prime46502218

ミス・ブラディレーナがロシア語でしゃべり、わたしはそれを日本語に訳す。やくざ屋さんが日本語で返し、ロシア語に訳す。関東和平会とか鷲峰組とか上納金とか、物騒な言葉がぽんぽん飛び交う以外はいつもの仕事と同じである。 しかし休憩時、ミス・ブラディレーナに話しかけられたのには驚いた。

2020-05-29 10:22:31
@ぷりめ @prime46502218

別に狙ったことではない。女子トイレが込んでいたので順番待ちの列に並んだら、後ろに並んできたのである。 ミス・ヴラディレーナはロシア語で聞いた。「あなたはどこのクミなのか?」とんでもない勘違いをされている! 自分はただの通訳だと語彙を尽くして説明する間、女社長はわたしをじっと見た。

2020-05-29 10:27:05
@ぷりめ @prime46502218

「やくざや同業者の知り合いがいるのか」「なんでこんなに詳しい」とミス・ブラディレーナは聞いてきた。わたしは下調べとしてやくざ映画や原作本、組長やロシアン・マフィアの回顧録、民警のデータなどを調べたのだと説明する。彼女はなおもわたしを見つめて「いつもそんなに調べるのか」と聞いた。

2020-05-29 10:30:38
@ぷりめ @prime46502218

「国際原子力学会の通訳を頼まれたとき、原子物理学の入門書を読んだ」と正直に答えた。持ちネタなのだ。 ミス・ブラディレーナはふふ、と笑った。「日本人は勤勉だな」。そして、いちいち名を呼ぶことはない、バラライカでいい、といった。 わたしは嬉しくもあり、困ってもいた。気に入られたらしい。

2020-05-29 10:36:49
@ぷりめ @prime46502218

わたしたちはトイレから戻り、関西弁やくざと話しの続きをした。ひょっとしてバラライカさんは良い人じゃないかしら、とお気楽にも私は思っていたのだが、よく考えたらいい人はマフィアの頭目にはならない。 関西弁やくざは「おたくら、ロシアの連中のなかでも一等鉄火場に慣れてるらしいな」という。

2020-05-29 10:40:41
@ぷりめ @prime46502218

このジャーゴンだらけの言い回しを素早くロシア語に翻訳する。 バラライカは返答して、にやりと笑った。「われわれは軍隊なのですよ」 いやな笑い方だった。なんだか胸騒ぎがする。 バラライカは携帯電話を取り出し、ロシア語で命じた。「配置についているな。よろしい。万全だ。始めろ」

2020-05-29 10:44:36
@ぷりめ @prime46502218

バラライカが携帯電話を折りたたむのと、ぴったり同じタイミングで外から爆発音がした。やくざは驚いている。わたしも驚いている。ヤッピー兄ちゃんも驚いている。ロシア人たちと華僑娘は微動だにしていない。あのヤッピーはどうもわたしと同じく巻き込まれたカタギの線が濃厚である。

2020-05-29 10:47:14
@ぷりめ @prime46502218

あんたらがやったのかと問い詰めるやくざ連中に、バラライカは涼しい顔で言った。「敵の持つクラブを一軒吹き飛ばした。拳銃での威嚇などお話にならない。初陣で威力を見せつけるのです」 やくざたちは困り果てていた。若干ひいてもいた。いきなり東京の真ん中で爆弾テロをおっぱじめる、

2020-05-29 10:52:11
@ぷりめ @prime46502218

ヒズボラみたいな連中をやくざの抗争に引き込んでしまった。子供の喧嘩に親が刃物を持ちだすようなものである。抗争に勝っても負けても、たぶんろくなことにはならない。 わたしも困り果てていた。爆弾テロは、何罪なのかはよく知らないが明らかな犯罪である。その犯人を知り通報しないというのは。

2020-05-29 10:55:25
@ぷりめ @prime46502218

バラライカは用は済んだとばかりに颯爽と立ち上がり、強面のロシア人たちはそれに続いた。ヤッピーと華僑娘もついていく。華僑娘はボゥッ!と口で言って、ビビるやくざを見て楽しんでいた。ひどいやつだ。 わたしは椅子から立った。異音に困惑しているホステスたちを見る。爆弾だとは思いもしていない

2020-05-29 11:01:30
@ぷりめ @prime46502218

妙に背筋ののびたロシア人の一団が、扉の方にいる。わたしは、少し迷う。 「マリ!」と私の名が呼ばれた。呼んだのは一団の中心に立つバラライカだった。「通訳がいないと困るぞ、マリ」 いましがた十何人かは殺したとは思えない、その稚気あふれる笑顔を見て、わたしは白旗を上げた。

2020-05-29 11:07:01
@ぷりめ @prime46502218

わたしは言った。「あなたの国の指導者も、わたしをマリと呼んでくれました」 バラライカは訊いた。「酒を飲む方か、素面の方か」 「常に酔っぱらってる方です」「まだマシだ」 ああ、ロシア。広く、複雑で、矛盾しかないのに素直なロシア。足抜け困難な文化の一面を、また一つ私は知るのである。(了

2020-05-29 11:15:06
@ぷりめ @prime46502218

米原真里と『Black Lagoon』の二次創作です。こんな感じでいかがでしょう。ブラクラはアメドラを意識しているそうでキメキメですけど、米原真里なのでバラライカ姐御も女子トイレの列に並びます。

2020-05-29 11:26:09
@ぷりめ @prime46502218

米原真里なので、バラライカがウオトカぐいぐい飲みながら通訳さんにアフガン時代の壮絶な昔話したり、ボリス軍曹らがクラブの酒を一晩で全部飲み干したり、ラプチェフとバラライカが出自以上に個人的に仲が悪い理由が「クリスマスカードを贈らないで面子をつぶしたから」だったりします。

2020-05-29 11:31:10
@ぷりめ @prime46502218

米原万里×『Black Lagoon』の二次創作でした。米原真里といつも誤表記する。 バラライカ中尉が、スタンやイルヴァ―ニッチ少尉補やミーシャ少尉、変な飛行機ばかり押し付けられたマーシャ・カルチェンコ将軍らと共に、アフガン戦争を戦う話も読んでみたいです。敵はラッツとマスード王子とパンダ。

2020-05-29 13:02:24