「長くなりすぎちゃって本当にすみません！」虚淵玄先生のラストオリジン二次創作SS第三話！ #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

すぐさま身を起こした私たちは、オリジンダストに強化された動体視力で、分厚い砂埃の向こう側についに敵の姿を認めた。アンジェンの爆弾槽より投下された一人の少女。パラシュートも使わず優雅にコロシアムへと舞い降りる、機動型バイオロイド。 #LO_DENSETSU

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そして轟き渡るソニックブームの爆音の残響に、晴れ晴れと唄い上げる声がする。 「みんな！約束して下さい！悪には屈しないと！」 そのとき会場の熱狂はまさに頂点に達した。 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

『ご紹介いたしまァす！本日の挑戦者、魔法少女マジカルモモ！対するは連戦連勝のチャンピオン“疾走するアタランテ”率いる“アルカディアの乙女たち”だ！』 『さあ、血で血を洗う饗宴の果てに！コロシアムを制するのは誰なのか！？』 #LO_DENSETSU

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「円陣、構え！」機動型バイオロイドとの対戦セオリーに則って、アタランテが号令を発する。敵は自在に宙を舞いこちらを翻弄しながら一撃離脱戦法を仕掛けてくるはずだ。ならば我々は鉄壁の防御の陣形で迎え撃ち、刹那のカウンターに勝機を見いだすのみ。 #LO_DENSETSU

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だが、コロシアムにおいては不敗を誇ったアルカディアの乙女たちも、映像部門とのコラボレーションマッチは初体験だった。剣闘士の常識の通用しない未知の襲来は、私たちの判断を誤らせた。「まーじーかーるーッ」 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

「るちのーい・ぷらちばたんかびー・ぐらなたみょーと！」モモのロシア語詠唱とともに、愛らしいステッキの先端から擲弾が射出される。ロケットモーターの炎とともに迫り来る弾体が成形炸裂弾ではなく、破片榴弾だと見て取った私は戦慄に背筋が凍る。 #LO_DENSETSU

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「散開！」切迫したアタランテの指令に私たちもまた即応する。だが初手の陣形を誤った負債は高くついた。加えて私たちの日頃の訓練は格闘戦ばかりで、爆発物を絡めた戦術など想定外だ。 結局、逃げ遅れた3人の乙女がモモの初弾で刈り取られた。 #LO_DENSETSU

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『おおっとぉ！？次回予告に登場したモモちゃんの新兵器が一足先にこのコロシアムでお披露目だ！これぞマジカルRPGステッキ！細部まで忠実に再現したレプリカは伝説プレミアムオンラインで本時刻より予約受付開始！このチャンスを逃す手はありませんよ！』 #LO_DENSETSU

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「おのれ、ただの猪ではない…魔性の獣か！」かつてない敵手に驚愕しつつも、それで怯むアタランテではない。「敵は単独だ。包囲して動きを止めろ！」 だがそんなアタランテの勇猛を嘲笑うかのように、今になって挑戦者ゲートのシャッターが開き始めた。 #LO_DENSETSU

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『さあ、本日のスペシャルサプライズ第二弾！モモちゃんの窮地に気を揉む貴方のために！当会場で用意した武装AGSの遠隔操縦パスを特別価格で発行いたします！ご自宅に操縦コンソールをお持ちの方ならどなたでも参加可能！』 #LO_DENSETSU

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「そんな…」司会者の告知に耳を疑う暇もなく、シャッターの奥からフォールン型AGSが先を争うかのようにコロシアムへと雪崩れ込んできた。『完売！操縦パス、一秒を待たず完売です！さあ、今夜の魔法少女を救うマジックジェントルマンは誰なのか！？』 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

10機、20機…続々と出現するフォールンの軍団に私は言葉を失う。今夜の試合は視聴者参加型…マジカルモモが単身でチーム戦リーグに現れたのは、こういう趣向が用意されていたからなのだ。 #LO_DENSETSU

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「みんな！ありがとう！モモはきっと負けないよ！」天真爛漫の笑顔でフォールンの群れを労うモモ。観客席の興奮は沸点を超え、モモコール一色に染まる。 #LO_DENSETSU

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やはり試合前の予感は間違っていなかった。ディレクターはこの試合でアルカディアの乙女たちを使い潰す気だ。魔法少女マジカルモモの来期シーズンに向けたプロモーションとして。それが映像部門、剣闘士部門を総括する伝説興行社の総意なのだ。 #LO_DENSETSU

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絶望のあまり乙女の一人が膝から崩れそうになる。私は咄嗟にその腕を掴み、肩を支えた。だがそんな私の下肢も震えていた。もはやコロシアムは闘争の場ではなく、私たちを噛み砕き、磨り潰すための処理装置でしかなかった。 #LO_DENSETSU

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そのときだ。アタランテが声を上げて笑い出したのは。 #LO_DENSETSU

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「ああ、なんたる難敵！なんたる逆境！神々の期待が、興奮が、いまどれほど昂っていることか！」仲間たちの誰もが蒼然となる中、彼女はまるで祭り囃子を聴いた子供のように喜色を露わにしていた。 #LO_DENSETSU

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「いま私たちの命はここに意味を得た。さあ、栄光を掴もう。この戦いはきっと永久に語り継がれる輝きとなる！」 是非もなかった。女王がそう仰せなら。彼女のその言葉でアルカディアの乙女たちは恐怖を捨てた。 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

彼女は虚構。創造者の戯れで血肉を与えられただけの虚構。だがそれでも、殺されるためだけに産み落とされた私たちにとって、それは羨望に値する。死を観念し、戦う意味を唱い上げることができるなど、なんと眩しく尊い在り方だろうか。 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

私たちが信じるに足るもの、仰ぐに足るものがあるとするならば、それは戦場を駆ける俊足の勇者の姿のみ。 #LO_DENSETSU

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「総員、アタランテの援護に回れ！AGSを女王に近付かせるな！」私は仲間たちにそう呼びかけると、先陣を切ってフォールンの群の直中に躍り込んだ。雄叫びを上げて他の乙女たちが続く。 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

かつて私たちは軍用AGS3機との変則試合を組まれたことがある。あのときは5人の仲間が犠牲になりながらも辛勝した。私たちが携える剣と槍は軍用機の装甲を貫くにはあまりに脆く、そして薄布を巻いただけの裸身は30㎜重機関砲の擦過だけでも容易に爆ぜる。 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

あの死闘を生き延びた乙女であれば、鋼の殺戮兵器の脅威は身に染みている。30機を越える大群に突撃するなど自殺行為と分かっている。だが今の私たちに唯一の活路があるとしたら、戦況を乱戦状態に持ち込んで少しでも敵を消耗させるしかない。 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

そして、無策無謀の突貫は、期せずして功を奏した。かつて私たちを苦戦せしめたAI制御のAGSと違い、素人同然の視聴者たちが遠隔操作するフォールンはまるで連携が取れておらず、むしろ数が災いして互いの足を引っ張り合う有様だった。 #LO_DENSETSU

虚淵玄 @Butch_Gen

加えてフォールンの大軍はモモの攻撃を封じる盾にもなった。おそらくモモはグッズ販促のためマジカルRPGを優先的に使用するよう指示を受けていたのだろう。だが大枚を叩いて参加権を得た視聴者のフォールンを誤射するわけにもいかない。榴弾ともなれば尚更だ。 #LO_DENSETSU