ライク・アズ・ドラゴン ＃２ 改

劉度 @arther456

ケンジたちの周りには、スーツを着た逞しい男たちが控えている。ヤクザではない。横須賀鎮守府第５８地区所属の、海軍陸戦隊だ。軍人に囲まれては、いかにヤクザ者のケンジといえども、酒を楽しめるはずがない。それに、相席する人間が彼の調子を狂わせていた。 23

劉度 @arther456

「あっはははは！おにーさーん！ジントニおかわりー！」ケンジの向かいでグラスを次々空けては、ウェイターからおかわりを貰うのは、あろうことか女子高生である。だが誰も文句は言えない。彼女は艦娘・鈴谷。今日、このクラブを貸し切りにしている横須賀第５８地区の代表者だからだ。 24

劉度 @arther456

「やーっぱ街が変わるとお酒の味も変わるよねー。おうはー！神戸のお酒おいしいー！欲しいー！」「鈴谷さん。例の件はどうなってますか」ケンジの隣に座る、白いスーツの男が眉一つ動かさず尋ねる。流石カシラだ。この異常な状況でも冷静さを失わないボスに、ケンジは安心した。 25

劉度 @arther456

「んー？ちゃーんと火熊の家に手榴弾、投げ込んだんだよ？でも誰も追いかけてこなかったわけ。武闘派ヤクザって聞いてたけど、噂よりも腑抜けなんだねー」「ベルグースは今夜、総攻撃を仕掛けるようですが」「あー、知ってる。広島から本隊が到着するんだって？まとめてやっちゃおうか」 26

劉度 @arther456

「……ベルグースを裏切る気おつもりですか」「裏切りじゃない、提督的に言うなら知略よ、知略。おじさんたちだって神戸を独り占めできるから、悪くないでしょ？」悪びれない物言い。恐らく彼女の提督は最初からベルグースを切り捨てるつもりだったのだろう。流石のケンジもこれには慄然とする。 27

劉度 @arther456

（カシラ、本当に大丈夫なんですか……？）隣の代行の顔色を伺うが、ケンジには何を考えているか分からない。海軍と組んで神戸を表と裏の両方から支配するシノギを引っ張ってきたのはカシラだが、あまりに不安定すぎる。ブラッククルスもベルグースと同じように、切り捨てられるのではないか？ 28

劉度 @arther456

しかしケンジの恐れは断ち切られた。パァン、パァン！「ザッケンナコラー！」銃声が２発、それから怒号が響く。続いてドアを蹴破って、血刀と拳銃を持った男が店内に入ってきた。男は鈴谷を見つけた瞬間、彼女に向け銃を放つ！「グワーッ！」間一髪、スーツ海兵が鈴谷の盾になる。 29

劉度 @arther456

「何だテメエは！」「ぶっ殺せ！」鈴谷の手下の陸戦隊が動く！だが乱入者の方が速い！即座に左に向け銃を三連射！「グワーッ！」陸戦隊３人射殺！「死ねやぁっ！」別の男が軍刀で斬りかかるが乱入者はこれを回避、すれ違いざまに胸に刀を突き刺す！「アバーッ！」 30

劉度 @arther456

「スッゾオラー！」スーツ兵士がサブマシンガンを構えた！乱入者は突き刺した男を盾にする！けたたましい連射音とともに銃弾が吐き出されるが、全て肉の盾が受け止める！「アババババーッ！」そして銃撃！「グワーッ！」兵士が倒れると同時、乱入者の拳銃が弾切れを告げた。 31

劉度 @arther456

「もうカンバンかいな」男が銃を投げ捨て、日本刀を死体から引き抜く。「て、てめえ！」あっけに取られていたケンジだったが、敵意を露わにした乱入者に銃を抜く。「よせ、ケンジ！」だがカシラが彼の動きを止めた。「奴の腹を見ろ」「え……げえっ！」男は腹に、ダイナマイトを巻きつけていた。 32

劉度 @arther456

「火熊のオヤジにケンカ売ってんのはテメエか、このクソガキがぁ！」乱入者の顔からは、真っ当な義憤が怒りとして吹き出していた。「なぁーにぃー、鈴谷の首殺りに来たっていうのー？」「おうよ。女子供に手ェ出すのは気に食わんが、オヤジと神戸を潰そうってんなら容赦はしねえ！」 33

劉度 @arther456

鈴谷がゆらりと立ち上がる。酒に酔っているわけではない。脱力しながらも隙のない、危険な構えだ。「鈴谷は海軍の艦娘だから、キズモノにしたら海軍がクランごと潰しちゃうよー？」「……海軍？」乱入者が床を見下ろす。死体が握りしめる銃は、海軍の支給品である。 34

劉度 @arther456

「ハ！道理でオヤジが動かんわけじゃ！だがのぉ！」男が刀を振るう。切っ先から血が飛び散った。「ワシは去年カタギに戻った身じゃ！こいつはカタギと軍の喧嘩！オヤジの組は関係ねえ！それにぃ！」腰を屈め、刀を顔の横で構える。「ここでテメエの首を殺っちまえば済むことよ」 35

劉度 @arther456

「うわっ、弱そー。そんなんでよくヤクザやってこれたね、オジサン？」溢れる殺気を身に受けても、鈴谷は平然としてる。「ほざけ。道具構えろや、クソガキ」「いらないし。オジサンなんて指一本だけで十分だしー？」グラスを握った指を立て、鈴谷が男を挑発する。 36

劉度 @arther456

「……なら、覚悟しやがれ。ぶった斬ってやる！」男が音を置いて、駆けた。叫び声がケンジの耳に届いた時、既に男は鈴谷の目の前で刀を大上段に振り上げていたのだ。「なっ……！？」驚く間もなく、刀が振り下ろされ――その前に、鈴谷の指が男の眉間に突きつけられた。 37

劉度 @arther456

「横須賀紅鶴拳・鷹爪破斬」パリンと音を立て、グラスを握った鈴谷の手が、目にも留まらぬ速さで振り下ろされた。男の刀は振り下ろされない。続いて、彼の背中が避け、そこから刀に切られたかのように血が吹き出した。前面は、ダイナマイトを巻きつけたサラシは、無傷！ 38

劉度 @arther456

「横須賀紅鶴拳か……」ケンジの隣の男が呟いた。「カシラ、ご存知で！？」「暗殺拳・葦原一〇八派の中でも上位に位置する、葦原六聖拳の一つだ。その凄まじい拳圧は衝撃波を生み出し、受けた相手は触れてもいない背中から避ける。しかし指一本とは、な。達人か」 39

劉度 @arther456

「ふふーん、どう？綺麗でしょ？返り値一つ浴びないんだよー」一撃で息絶えた男の死体を蹴り飛ばして、鈴谷が振り返る。「返り血を気にする稼業じゃないと思いますがが」「鈴谷が血を浴びるのは一人だけって決めてるんですー」「それより、どうするんですか、その死体」 40

劉度 @arther456

「んー、そうねえ……」口に指を当て、鈴谷は考える。可愛らしい素振りだが、フリだ。ケンジにもそれぐらいは分かった。腹の中ではとっくにもっと残酷なことが決まっている。「じゃあ……これもベアフィールド・ヤクザクランに送っちゃいましょうか！とびっきり残酷に、ね」 41

劉度 @arther456

【ライク・アズ・ドラゴン】＃２おわり＃３へ続く