タイラント・オブ・マッポーカリプス:後編 #エピローグ

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
3
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

クワドリガはグラディウスを大地に突き刺し、身を支えた。彼の赤銅色の屈強な肉体には大小の傷が無数に生じ、己の血と返り血と戦闘車両の機械油に塗れて、すさまじかった。ゼロ視界にも等しい、激しい砂塵が、風と共に晴れてゆくと、そこはもはやネザーではない。西に沈む太陽が世界を橙色に染める。 1

2020-09-11 19:05:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は立ち上がり、敵を探した。彼の周囲には鉄屑や死んだ敵味方の身体が散らばっている。そして、北。北上するUCAの戦力がかすかに見えた。彼が食い止めるべき惰弱な文明戦力が……城塞都市トオヤマへ……そして程なく、更にその先、首都ホンノウジへ向かうだろう。イクサは彼の手を離れてしまった。 2

2020-09-11 19:10:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タイクーンのニンジャアトモスフィアを感じる事ができなかった。目で見ずとも、音で聞かずとも、彼にはわかっていた。「……無念……」クワドリガは両膝をついて座った。そしてグラディウスを逆手に持ち、呼吸を整えた。「……殿。お許しあれ」彼は目を閉じ、刃を腹に突き刺した。セプクである。 3

2020-09-11 19:12:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

刃は硬い皮膚を破り、強靭な腸を押した。更にカラテを込め、横へ刳りこめば、セプクは為る。カイシャクする者はない。全力のカラテを用いねば、爆発四散にて果てる事はできぬ……「イ……」「クワドリガ=サン!」「!?」クワドリガは目を上げた。白装束を赤く染めたゲニン騎兵であった。 4

2020-09-11 19:14:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「良いところへ参った」「ま、まさか……」「カイシャクせよ。名は何と申す」「テツです。し、しかし……」「頼んだぞ、テツよ」その時だ。「クワドリガ=サン!」傷ついたゲニン騎兵が三騎、おぼつかぬ進みにて、彼らの元へ至った。「ネザーの加護が失われましてございま……」「将軍、何を!?」 5

2020-09-11 19:17:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何とは何だ……セプクを致す!」クワドリガは唸った。「タイクーンは崩御なされた。我、イクサにて死するも叶わず。ただ敗北し、ブザマにここへ留まりし有様よ」「し、しかし将軍……」「ア……ア」テツがカタナに手をかけたまま、震えた。「で……できません……クワドリガ=サンの首なんて……」 6

2020-09-11 19:19:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「惰弱!腐ってもニンジャであろう。一心に刃にカラテ込め、刎ねるべし」「違います!ダメだ!」テツはカタナを取り落し、ドゲザした。「オレ、こんなありがたいカラテにトドメは刺せません……無理です……」「愚か!ええい、では貴様だ!名は!」「ジェイコブです。将軍」涙。「おやめください」 7

2020-09-11 19:21:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「愚か!貴様は!」「テドです。無理です……!」「ヌウーッ!」クワドリガは唸った。今や、彼を囲むゲニンは、百騎ほどにまで膨れ上がっていた。荒れ果てた戦場で、クワドリガの偉丈夫の影を目印に、散っていた生き残りが集まってきたのだ。「将軍」「将軍!」「……!」クワドリガは、刃を抜いた。 8

2020-09-11 19:24:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがて彼は立ち上がった。腹の傷から溢れ出す血をカラテで止血し、ゲニン達の顔を一人ひとり見ていった。憔悴し、傷つき、しかし生き残った者たち。彼らには帰るべき場所はなく……クワドリガのカラテを必要としているのだった。「……!」クワドリガは俯いた。筋肉がビキビキと悲壮な音を立てた。 9

2020-09-11 19:27:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

SPLAAASH!運河の水が跳ね上がり、水面に生えでた手が、城の対岸を掴んだ。0101……ノイズがニンジャアーマーの表面を流れている。「ハッ……ハアーッ……ハアーッ……!」なんとか身を引き上げ、転がり倒れたパルスは、イサライトアーマーに締め上げられながら、最後のカラテを振り絞ろうとした。 11

2020-09-11 19:31:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アーマーは彼の筋肉に、関節に突き刺さり、支えていたが、それを以てしても、もはや起き上がる力なし。ヘヴンリイ。恐るべきカラテの使い手であったが……。彼は本社にIRC通信を試みる。ノイズが酷い。オムラから盗み取ったデータは無事か?生きねば……SPLAASH!運河から一人の影が這い上がった。 12

2020-09-11 19:34:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パルスは死を覚悟した。その者はパルスを見下ろし……黒いウエットスーツ装束をその場で脱ぎ捨てた。そこにはタキシードを着たニンジャが立っていた。獅子の口を模した黄金のメンポを装着した姿を、カタナのニンジャで知らぬ者はない。「ライオンハート=サン……だと」「だと、ではない。私だ」 13

2020-09-11 19:37:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ライオンハートは屈み込み、パルスに手を差し伸べた。パルスは屈辱に震えた。同僚を出し抜き、気鋭の自分こそが今回のミッションを任された、そう信じていた。「貴殿が控えていたのか。真打ちとして」「私には非接触LAN直結などという芸当は無い。ただの迎えだよ」「……」パルスは彼の手を取った。 14

2020-09-11 19:41:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ショーグネイターは自決し、タイロー・アルゴリズムを盗めませんでした」「タイローを殺したのか。それはそれは。お前は化け物だな」ライオンハートは軽く言い、パルスを立ち上がらせた。「帰還するぞ。本社裏のパブでエールを奢ってやる。あの悪趣味な"英雄の銅像"に加わりたくなければ生き残れ」15

2020-09-11 19:44:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

帯電する鉄屑を引き裂きながら、ヘヴンリイは天守望楼に着地した。彼女を追うように、モーターワコクがさらに飛び込んできた。望楼には憎むべきムーホン者、ジョウゴ親王、そしてその手勢のリキッドがいた。ヘヴンリイの片角が明滅した。「ドラ息子野郎……!オレは容赦はしねえ……!」 17

2020-09-11 19:49:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

BRRTTTTT!モーターワコクは彼女の対峙に配慮するプロトコルを持たない。機銃を浴びせにかかる。ヘヴンリイは歯を食いしばり、モーターワコクに殴りかかる。そしてさらに一機がエントリーする。ジョウゴとリキッドは近衛ゲニンを斬り伏せてゆく。ヘヴンリイはワコクの機関部を破壊し……唐突に悟る。18

2020-09-11 19:51:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

望楼を照らす夕陽は、染みるようだった。「オッサン」ヘヴンリイは呟いた。時同じく、彼女のカラテを極限までブーストしていた雷角の効力も去っていった。「クソが……」DOOM!DOOM!DOOM!城郭が激しく揺れた。ジョウゴが身構えた。ヘヴンリイは見た。ホンノウジ城壁外。UCA戦力……砲撃……! 19

2020-09-11 19:55:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キキョウ紋の意匠、「明智光秀」の名、「武勲」「大きい空手」等の文言が書かれたノボリ旗の群れはことごとく色褪せ、破れ、今このときも、ネザーの風の吹くまま、崩れて散ってゆく。砦も、茶室も、もはや見る影もなし。石の名残りが散らばるばかり。空の黄金立方体だけが、ただ不変。 20

2020-09-11 20:01:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネザーのところどころに植えられていたネザーキキョウ軍旗も全てが焼け落ちていた。オニ達の城や、ネザーのおぼつかない街道を、千変万化の磁気嵐から守っていたアケチのネザーキキョウ結界は、既に失われた。変化がネザーの領土を呑み込んだのだ。 21

2020-09-11 20:03:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

異彩の空の下、ゆっくりと進む馬上の姿あり。アケチ・ジョウゴ。徒歩にて馬の手綱を引くのは、アカゾナエの忠臣、リキッド。そしてもうひとり、アカゾナエのゲニンが続いていたが……ゲニンは遂に力尽き、うつ伏せに倒れて、砂塵に呑まれていった。ジョウゴの手には抜身のヘシキリブレードがあった。22

2020-09-11 20:07:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

刀身には、いまだ、オダとアケチのカラテが残存していた。ジョウゴはそれを鞘には収めず、確かめるように、あるいは闇照らす松明のように、掲げていた。リキッドは黙々と手綱を引いて歩いていた。黒い地平に向かって進む彼らの後ろ姿を、磁気嵐の砂塵が覆い隠した。 23

2020-09-11 20:09:26
1 ・・ 5 次へ