いずむつすれ違い転生パロ

あなたここで私を待っていたの
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めいや @tsugitoma

転生パロだけどタイムラグがあって、40歳差とかついちゃって、あなたここで私を待っていたの状態になるいずむつとか

2020-09-27 16:17:44
めいや @tsugitoma

10歳ごろに巣から落ちたきれいな小鳥を拾った少年むつ、直感で「和泉守」って分かって大事に育てるし、鳥もむつが小学校に行くのにも飛んでついて行ってそばを片時も離れなかったんだけど、ある日むつがカラスに襲われたのに割り入って命を落としてしまう

2020-09-27 16:25:57
めいや @tsugitoma

16歳ごろ、ひらりと部屋に舞い込んできた蝶が和泉守だって分かったむつ、短命さを知ってるから高校を休んで十日ほど一緒に過ごして、十日めに命の枯れた体を撫でて泣いて埋めてあげる

2020-09-27 16:28:46
めいや @tsugitoma

ペットは飼ってないのにペット可のアパートに住んでいた21歳ごろ、バイトの帰り道に少し痩せた大人の黒猫が駆け寄って脚に擦り寄ってきたから、抱き上げて、抱き締めて泣くむつ その後十年一緒に暮らして、三十路でまた死に別れて一生分ほど泣いて、今度はもっと賢くない生き物になって欲しいって願う

2020-09-27 16:36:22
めいや @tsugitoma

けれどそのまま季節が過ぎ、十年、二十年過ぎても出会うことはなくて、自分があんなことを思ってしまったからもう生まれ変わってくれなくなったんだろうかと思うむつ 五十歳を迎える冬の終わり、昨晩のうちに雪が積もった近所を歩く 休日の夜明けは人気もなく、咲き始めた梅から雪が落ちるばかり

2020-09-27 16:47:00
めいや @tsugitoma

初めて、いつを「初めて」と言えばいいのか分からないけれど、恋をした和泉守に初めて出会ったのもこんな日だったなと思い出す 顕現の光と共に、冬なのに桜吹雪が舞って、でもその華やかな色よりも、引き締まるように凛とした大気の方が印象に残っている 大きな声、澄んだ目、広い背を忘れられない

2020-09-27 16:50:32
めいや @tsugitoma

さく、さく雪を踏みながら梅につられて歩いていると不意に横っ面を殴打されてよろける 手で押さえたらぱらぱらと雪が落ちて、殴られたわけではなくて雪玉を投げられたのだと気付く 見渡せば木々の向こう、雪の深いところに足を取られたのかうずくまる小学生、が、こちらを見ていた

2020-09-27 16:55:16
めいや @tsugitoma

駆け寄って助けてやればいいのに動けなくて、ただ見詰める身体は動かない そうしているうちにようやく足が抜けたのか、長靴をずぼ、ずぼと雪に何度も埋めながら、よろよろと小学生は寄ってくる 寒さのせいか鼻の頭を赤くさせ、白い息を吐いて、泣きそうな顔で見上げて、「むつのかみ」と唇を震わせる

2020-09-27 16:58:17
めいや @tsugitoma

幼い顔は、遠い遠い遥か昔に見た、あの脇差の彼を思い起こして、けれどやはり違った。瞳の色まで似ていた筈なのに何が違うのだろうか。魂の色だろうか。 手を伸ばしかけて、己の皺の入りかかる肌と、小さくやわらかなそれが同時に視界に入り、思わず退いてしまった。

2020-09-27 17:02:14
めいや @tsugitoma

まだ祖父には見えないと信じたいが、父と見るには些か離れている。先程名を呼んだ声だって記憶とは違うもので、それもその筈だ、まだ声変わりもしていない。落とした視線の先には黄色の長靴があった。 吸って、吐く、言葉を探す時間の分だけ白く吐息が立ち上る。 「むつのかみ、むつ」 高い声が呼ぶ。

2020-09-27 17:09:03
めいや @tsugitoma

「今、オレは十歳だ。お前が百歳のときも、たぶん、五十歳くらいだ」 白く零れた息が立ち上り、冬の大気に溶ける。冬はいつだって和泉守の記憶を連れてくる。 「今度こそ、もう、一人にさせなくて済む」 手は昔より温かかった。それとも、昔から温かかったのかもしれない。どちらだったのだろう。

2020-09-27 17:21:13
めいや @tsugitoma

「冷えてんなぁ」 小さな手で包んで息をかけながら、猫のときを思い出す、と和泉守は小さく呟いた。 「あ! LINE、交換するぞ」 「ええ……今時の子供はもう持ちゆうが。つか、わしのが家じゃ」 「んだよおっさんだなぁ」 柔らかな頰に当て、唇に当て、わざとかと思う仕草で和泉守は体温を分ける。

2020-09-27 17:28:00
めいや @tsugitoma

「ま、いっか。家教えろ家」 「大丈夫か、誘拐犯にされんかえ」 「証言してやるから安心しろって。こちとら普段は品行方正な兼定くんだからな」 難しい言葉知っちょるのお、と口を滑らせれば背を叩かれる、この遣り取りが懐かしい。懐かしいがきっと、それだけではない。それだけではいけない。

2020-09-27 17:32:51
めいや @tsugitoma

「何から話そうかの……」 何と言っても、人間五十年目にして初めて、語る言葉を得た和泉守に出会った。話しかけたいことだけではない、訊きたいことも山のようにある。これまでの生、過去の記憶。けれど何より。 風が通り、雪が舞う。白く吹き散るそれは遥か昔の光景にどこか似ていた。

2020-09-27 17:37:32
めいや @tsugitoma

話すことなんか。 世界の中央で、和泉守は笑う。 「これからのことに決まってんだろ!」 凛と通る風が吹く。澄んだ声が春を連れてくることを、自分はずっと前からここで、知っていたのだった。

2020-09-27 17:43:21