ハイヌ-ン・ニンジャ・ノーマッド #2

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
0
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【今回のエピソード】 ・「ニンジャスレイヤーPLUS」に掲載の「サムライニンジャスレイヤー」の1エピソード ・時系列は戦国時代のどこか ・ニンジャスレイヤーはネオサイタマだけでなく、過去にもさまざまな時代、さまざまな場所に存在した ・更新6〜7回分で終わる中編

2020-10-16 19:50:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サムライニンジャスレイヤー【ハイヌーン・ニンジャ・ノーマッド】 #2

2020-10-16 20:03:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

落武者は鎧も脱がず、死んだように丸二日眠り続けた。そして三日目の夜に目覚めた。頭と片目には木綿包帯が巻かれていた。ユフコが微笑みかけて名乗ると、落武者はキルジマと名乗った。 1

2020-10-16 20:06:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だがそれ以上は、何も語ろうとはしなかった。そして、鎧を脱ごうともしなかった。キルジマのための食事を支度した後、ユフコは囲炉裏を挟み、向かい合って座った。しばしの沈黙の後、ユフコが問うた。「傷が癒えたのは、ようございました。ですが、なぜ鎧を脱がないのです?」 2

2020-10-16 20:09:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……拙者が何者かを、奴らに知らしめるために候」キルジマは静かに、しかし確たる口調で云った。その瞳の奥底には、狂気の炎が見え隠れした。奴ら、とは何を指すのか。問うまでもない、追っ手のことであろうと考え、ユフコはそれ以上何も訊かなかった。 3

2020-10-16 20:12:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キルジマは茶を飲み、酢のきいた保存スシを食いながら、この宿場町のことを、そしてユフコのことをいくつか問うた。何個目かの質問の後、突然、キルジマの目つきが変わり、懐から血塗れの巻物を取り出して、そこに書かれた文字に目を走らせた。 4

2020-10-16 20:15:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おそらく、銀山は二度とひらかれぬ」キルジマは云った。「またケシは、一部領国では既に御禁制に候。純度高き粉薬となれば、末端価格にて小判一枚、あるいは本鮪一本にも匹敵し候。ニンジャと結んだ代官は、偽りの希望を示してこの宿場街を孤立させ、領民を永遠にケシ栽培に縛り付ける魂胆に候…」5

2020-10-16 20:18:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ケシについては解りませぬ。しかし銀山のことは、薄々訝しんでいた者たちもおります。もう、この世にはおりませぬが……」ユフコは御仏壇を一瞥し、視線を下げた。キルジマは巻物を読み進め、問うた。「代官の伝令として、ツネオ・クロシという侍が来るな?」 6

2020-10-16 20:21:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「はい、左様です。ツネオ=サンは、月の初めに大勢の足軽隊を率いて税の取り立てに現れ、庄屋の家で芸者の限りを尽くし、米俵とケシを大八車に満載にしてゆきます」ユフコは暦を思い出した。明日が、月の初めである。「其奴は、邪悪なるニンジャに候」とキルジマは云った。 7

2020-10-16 20:24:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユフコは目を見開いた。ニンジャ。三日前の記憶が瞼の裏に蘇った。何故忘れていたのだろう。スリケンも、何もかも、ありえないものだと、ユフコは意識の外に置いていた。キルジマは続けた。「そして拙者は、ニンジャを殺す者に候」「ニンジャを……殺す?」 8

2020-10-16 20:27:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「奴めらに、妻子と使用人を皆殺され、国を追われ候」キルジマは奥歯を食いしばり、云った。その言葉は、刀のように鋭くユフコの心臓を抉った。彼女はようやく理解した。この落武者は、狂っているのだと。妻子を失い、国を追われ落武者となり、鎧も旗印も捨てずに野を歩むとは、正気の沙汰ではない。9

2020-10-16 20:30:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この落武者は、狂っているのだ。ニンジャなど居ない。ニンジャを殺す者も居ない。全ては狂った絵空事だ。ここにいるのは、一人の狂った落武者なのだ。全てが腑に落ちると、それは涙となってユフコの頬を伝った。「ニンジャなどおりませぬ」 10

2020-10-16 20:33:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「拙者もまた、禍々しきニンジャに候」キルジマは頭を垂れ、口惜しげに云った。「そして死びとに候。亡き妻子らの復讐のために大地を歩む、呪われし死びとに候」命を救ってくれたユフコに対し、再び死地に飛び込まんとするこの非礼を、詫びているようにも思えた。 11

2020-10-16 20:36:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お侍様がニンジャであろうとなかろうと、代官に刃向かうなど、狂気の沙汰に御座います。おやめください」ユフコが云った。だが思い留まらせて、どうするというのか。自分は何故この男を助けたのか。視界が歪み、また理不尽な涙となってユフコの頬を伝った。この男は狂っている。だが本気なのだ。 12

2020-10-16 20:39:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユフコは続けた。「……さりとて、落武者の身でこの宿場町に留まり続けるのもまた、危険で御座います。家々からの監視の目と澱んだ空気に毒され、お侍様のお心にも、良からぬ考えを芽生えさせます。せめて、霧深いこの夜の慈悲に隠れて、どこか遠くまでお逃げになっては」 13

2020-10-16 20:42:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「相解り候。お主に迷惑はかけとうない。だが恩がある」キルジマは懐から黒い巾着袋を取り出し、ユフコに差し出した。中には十数枚の小判が入っていた。それはキルジマの有り金の全てであった。多くは血が染み付いていた。 14

2020-10-16 20:45:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「頂けませぬ」「だがお主は、この行倒れを助け候」「薬師として、見捨てては置けなかったのです」「拙者には、この程度の礼しか出来ぬ」「使い道も有りませぬ」「この街が淀んでいると云うならば、どこかに移住すれば良かろう。そのための路銀には、およそ十分すぎる金額に候」 15

2020-10-16 20:48:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……あなたがどこか遠くへ連れて行ってくれますか、と云いかけ、ユフコは横に首を振った。「夫と子の墓が有ります故。また、薬師が不足しております故。この街から離れるつもりもありません」「……相解り候。しかし拙者には使うあても無し。また路銀の心配も無し。お納め頂きたい」 16

2020-10-16 20:51:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「では、これにて失礼致す」キルジマは小判を置いたまま、深々と、一分近くも頭を下げた。「はい」とユフコが云うと、キルジマは頭を上げ、刀を差して立ち上がろうとした。「最後に、せめて」と、ユフコは立ち上がり、落武者の頭の木綿包帯を巻き直した。せめて遠くまでお逃げくださいと祈りながら。17

2020-10-16 20:54:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

戸を開けた。廃れた銀山の峠から、侘しげな山犬の鳴き声が聞こえた。 18

2020-10-16 20:57:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

正午。ニンジャ。流れ者。オミノロシの庄屋の家の屋根に隠れていた落武者が姿を現し、三連続側転を打って大通りへと稲妻のように飛び降りて、足軽隊の行列を遮った。 19

2020-10-16 21:03:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

代官の伝令を出迎えるために土下座していた男たちは、あっと息を飲んだ。落武者だ。さらに行列の行く手を遮るなど、およそ正気の沙汰とは思えぬ。居合わせた十数名の町人らは震え上がり、家に戻り、戸を固く閉ざしてから、一寸ほどの隙間を開けた。 20

2020-10-16 21:06:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ぶるるるる、と馬が荒い鼻息を吐いた。行列は止まった。先頭にはヨツヤノクニの代官旗印を背負い、槍を持った足軽が四名。続いて馬上の侍が一人。その後ろには空の大八車を引く足軽が二人。皆、黒漆塗りの鎧に身を包んでいた。槍の穂先が正午の太陽に照らされ輝いた。 21

2020-10-16 21:09:00