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時間も空いたし少し寝るか、そう仮眠室のドアを開けた瞬間飛び込んできた人物は。「これはこれは笹塚刑事!」実に胡散臭い笑みを浮かべていた。「ん?あんたは…「魔界777ツ能力…」「えっ」次の瞬間、鈍い音と後頭部をしたたかに打ち付けた感覚と共に、俺の意識は無くなった。
2011-07-20 01:01:19(…頭痛い)ぼんやりと目を開ける。(ここ、どこだっけ)頭をさすりながら上半身を起こす。そのまま辺りを見渡すと、懐かしい見慣れた小さな部屋の中に居るようだった。「…あ、」俺、大学生の時ここに住んでいたんだっけ。
2011-07-20 01:15:14(…おいおい、どういう事だ?!)既に引き払ったはずの場所。それなのに生活感に溢れている。外に飛び出してみるも、前といささかも変わらない懐かしい風景に胸打たれただけだった。ここは間違いなく前の俺の部屋だ。(…夢か?いや、リアルだ…訳がわからない)
2011-07-20 02:41:56まずは落ち着かなくては、と深呼吸をすると冷静さが戻ってきた。極めて冷静に、近くにあった電子時計を見る。「……やはりそうか」(今俺が居る時間は、丁度11年前の今日、七月二十日なのか)そのまま風呂場に向かい、自分の姿を確認した。若い。「タイムスリップした経験は初めてだな…」
2011-07-20 02:46:27(11年前っていうと…石垣は中学生、等々力は小学生、ヒグチも小学生か。…弥子ちゃん、は幼稚園?)タイムスリップする前の弥子ちゃんは今の真守と年齢が近かったよな、と何気なく呟くと、何かが頭の片隅に引っ掛かっているのに気付いた。「真守…父さん、母さん?」
2011-07-20 03:02:37タイムスリップする前の俺の家族が、どう暮らしているのか思い出せない。(あ、記憶喪失…)どうやら俺は部分的に記憶喪失になってしまったようだ。(まあ…そのうち思い出すだろう)それより、どうやって元の時間に戻るかが問題だ。(あいつらが、今日は時間作っとけって言ってたしな)
2011-07-20 03:06:22しばらく元の時間軸に戻る方法を考えていたが、思いつくはずも無く。気が付いたら俺は布団の上で眠っていたようだった。珍しく寝覚めがいいなと思ったら、時刻は正午を回っていた。「あー…」久しぶりによく寝たわ。で、今の俺って大学生だったっけ?
2011-07-20 03:33:01(今日中に戻りたいし、あんまり色々行動しない方がいい気がするけど…)そう考えながらも大学へ行く支度をする。正直な所、若い笛吹や筑紫にも会ってみたいというのが本音だ。学校に遅れてきた、って笛吹には色々言われるだろうけど。(あいつら今だとどうなってるんだろうな…)
2011-07-20 04:00:22「遅いぞ笹塚ァ!昼過ぎに登校とはいいご身分だな!」「…やっぱり」案の定、授業を終えた笛吹に怒られた。若い。その背後の筑紫が笛吹をなだめる。こっちも、若い。そして、怒鳴っているはずの笛吹はどこか表情が明るい。筑紫の表情にも、どこか嬉しそうな雰囲気すら感じる。(…なんなんだ?)
2011-07-20 04:31:33そうは思いつつも、若い二人に会えたことが嬉しく、何かこそばゆい感覚さえ覚えてしまい、それからことある度に気付かれないよう観察してしまった。すると、「今日のおまえ、様子が違うぞ」「普段より落ち着きすぎじゃありませんか」「老成したものすら感じるな」好き勝手な事を言われてしまった。
2011-07-20 05:01:51こちらを向いて話しながら、後ろ向きに歩いている笛吹。俺の斜め前の筑紫がそれを追う。懐かしくて胸に込み上げてくるものがあった。こんな感情がまだ残っていただなんて。今日の俺は確かにいつもと違うかもしれない。そう思っていた矢先、笛吹が足をもつれさせ、転倒した。「うわあっ?!」
2011-07-20 05:32:06「!」筑紫が急いで駆け寄る。「おい、大丈夫か」見れば、鞄の中身が盛大にぶちまけられていた。「うわ…今日荷物詰めすぎだおまえ」言いながらノートや雑貨を拾ってやる。「大丈夫ですか笛吹さん あと、あれは…」「とっさに庇ったが…心配だ 確認するぞ!」
2011-07-20 06:02:20全ての持ち物を拾い上げたので、二人がなにやらこそこそやっているのを覗いてみる。「あっ、馬鹿、見るな!」「さ、笹塚さん」「…酒?」二人が慌てて隠そうとしたものは酒の瓶だった。「おまえら、大学に酒持って来たの?」若いな、と思わず思ってしまった。
2011-07-20 06:32:49「馬鹿者!そ、それは…」「笛吹さん、もう言ってしまいましょう」「ぐ、ぐぐ…」笛吹はしばらく唸っていたが、ついに首を縦に振った。それを確認し、筑紫が顔を上げた。「笹塚さん 誕生日おめでとうございます」久しぶりに見た、筑紫の柔らかな表情。っていうか、誕生日…?
2011-07-20 07:30:29「…俺今日誕生日か」思わず間抜けな声が口から漏れる。すっかり忘れていた。むしろ気付かなかった。こちらに来てから日付も確認したはずなのに。「…その様子だとすっかり忘れていたようだな」「ある意味サプライズ成功ですね」笛吹と筑紫の方は、呆れているようなほっとしているような様子だ。
2011-07-20 08:00:48その様子を見て取ったのか、筑紫が説明する。「記念すべき二十歳の誕生日じゃないですか 妹さん達が待ってますよ」「…俺が身を挺して守ったものだからな 大事に味わうんだぞ」笛吹がこちらを見ずにぼそっと呟いた。
2011-07-20 09:01:27「おまえが遅れて来たものだから、渡すタイミングを掴みかねていたんだ!」「美味しい焼酎だそうです ご実家の親父さんお袋さんと呑んでください」(…え?家族と?)突然話に出てきた家族という言葉に戸惑う。
2011-07-20 08:31:07「アニキぃぃーー!二十歳の誕生日おめでとう!!」筑紫の話は本当だった。それより、「真守、おまえ元気か?」自分でも素っ頓狂だと思える返事を返してしまった。「ハァ?この前も会ったじゃん」当然の反応を返される。(…なんで俺そんな事聞いたんだ?)久しぶりに見る妹の姿は眩しかった。
2011-07-20 09:31:45眩しすぎて、なぜだか俺は泣きそうになった。すんでの所で堪える。おかしい。涙はもう枯れたと思っていたのに。(…?)それもおかしな話だ。そんな、涙が枯れるような出来事が今まであっただろうか。「アニキ何〜?あたしに祝われたの嬉しすぎて泣きそう?」真守に調子付かせてしまった。
2011-07-20 10:01:59「衛士ももう二十歳か…早いもんだ」父さんがしみじみと言う。「この間まであんなに小さかったのにねえ」母さんが懐かしそうに言う。俺も懐かしいよ、と声に出さずに呟く。本来の俺はそれより十一年も歳をとってしまった。家族の温かみが、ただただ懐かしい。俺の記憶はいつ戻ってくるんだろう?
2011-07-20 10:32:16「…あ、」真守が微かに呟いた。(…?「もうそろそろ時間だ」か?)見たい番組でも始まるのか?と何気なしに考えていたら、俺の体が徐々に透けていっているのに気付く。(ああ…またタイムスリップするのか?)残念だ。この時間はとても幸せなのに。結局忘れていた事を思い出せなかった。
2011-07-20 10:45:15「「「誕生日おめでとう」」」遠のいていく意識の向こうで、三人の声が聞こえた。「…ありがとう」俺はそれだけ言って意識を手放した。
2011-07-20 11:02:35「…あー…寝てた…」目を覚ましたら、横たわっていたのは仮眠室のソファだった。外を見ると、もう日が暮れていた。(…あれは夢だったのか)先ほどまで見ていたはずの光景が脳裏をよぎる。(なんていう事を忘れていたんだ…)自分でも、あの事件を忘れていただなんて信じられない。
2011-07-20 11:32:52しかし、仮に家族が惨殺されるという事実を覚えていた状態であの夢を見ていたとしたら、あれほど幸せな気持ちになれただろうか?たかが夢だとしても。あの幸福感は本物だった。(………)手を握り締め、また緩める。しばらくその動作を繰り返す。
2011-07-20 12:00:09「……ウロ……から、笹塚さんの具合が心配なんだって!」廊下から少し焦ったような声と、小走りな足音が聞こえる。誰だろうと顔を上げると、休憩室のドアが開いた。ばっちりと、金髪のショートヘアの女の子と目が合った。
2011-07-20 12:30:26