Funabiki先生によるファイザーの新型コロナウイルスワクチンにまつわる逆転のストーリー

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Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

米ファイザーと独BioNTechの新型コロナウイルスに対する革命的なmRNAワクチンの接種が明日から始まるが、このワクチン開発にいたるまでの経緯が実に感慨深いので紹介してみる。まさに、大逆転ストーリー。1/22

2020-12-14 08:15:49
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

まずは、なぜこのmRNAワクチンが革命的であるかについて。 一つは凄い効果。 2万2千人のワクチン接種者と、同数の偽薬(プラシーボ)接種者で二回目の接種からの感染者数を比較すると、偽薬接種者では162名が感染したのに対し、ワクチン接種者では8名。実に95%の予防効果! nejm.org/doi/pdf/10.105… 2/

2020-12-14 08:15:50
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

二つ目の理由がスピード。新型コロナウイルスの遺伝子情報が公開されたのが今年1月10日。4月29日に治験が開始して、僅か7ヶ月後の12月11日に認可された。3月の時点では早くて1年と言われていたので驚異的なスピード。3/ clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04…

2020-12-14 08:15:50
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

効果と安全性がこれ程早く検証できたのは、感染による致死率が高かったことにより、数万人規模の被験者の獲得が容易だったことと、感染抑制に失敗した国では(偽薬投与)被験者での感染が短期間で十分に認められたこと。感染が蔓延していないと、短時間ではなかなか効果を確認できない。4/

2020-12-14 08:15:51
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

そして、革新的な技術が高い効果と開発スピードを可能にした。しかし、この新技術の有用性が認められるまでの道程には、一時は挫折の崖っぷちまで追い込まれた女性研究者の存在があった。当時、ペンシルバニア大学の教授であったKatalin Karikóさんだ。5/ businessinsider.com/mrna-vaccine-p…

2020-12-14 08:15:51
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

旧来のワクチンは、弱毒化した生ワクチンや、不活性化ワクチンが主流だった。弱毒化や不活性化には、ウイルス固有のノウハウの蓄積・検証が必要。ウイルスの扱い・操作もリスクがある。6/

2020-12-14 08:15:52
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

ウイルス感染防御に効果的な中和抗体は、主にウイルス表面のタンパク質(コロナの場合、スパイクタンパク質)を標的としている。抗体がスパイクタンパク質に結合してブロックすると、ウイルスは細胞に感染できなくなる。7/

2020-12-14 08:15:52
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

抗体ができるためには、抗原提示細胞が「異物」を取り込み、その一部を細胞表面に提示して、免疫細胞を活性化する必要がある。コロナウイルス全体でなく、スパイクタンパク質だけ異物として細胞に取り込ませることができれば、感染せずともスパイクタンパク質への抗体をつくることが可能となる。8/

2020-12-14 08:15:52
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

しかし、新しいウイルスタンパク質だけを大量生産して効果的なワクチンをつくるのは技術的に難しかった。タンパク質の性質は配列によって大きく変化するので、実験してみなければ分からない部分が大きい。Karikóさんが注目したのは、タンパク質を作る情報の鋳型であるmRNAだ。9/

2020-12-14 08:15:53
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

あるタンパク質の配列情報をコードするmRNAを細胞に取り込ませることができれば、細胞内のタンパク質合成装置であるリボソームがmRNAの情報を読み取り、目的のタンパク質を作らせることが可能だ。そのタンパク質は「異物」として免疫細胞に認識され、それに対する抗体が作られる。10/

2020-12-14 08:15:53
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

ところが、このアイディアは長い間研究者たちには不可能と考えられ、Karikóさんは研究費申請でことごとく失敗した。研究費を獲得できなったKarikóさんは、常勤から非常勤教授へと格下げとなった。11/

2020-12-14 08:15:53
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

外部から導入された「異物としてのmRNA」は不安定ですぐ壊れてしまい、目的のタンパク質を生産できない。さらに、細胞は、ウイルスなどの外部から進入してきたRNAを認識し、感染防御する自然免疫のシステムが働いて炎症反応をおこしてしまう。12/

2020-12-14 08:15:54
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

実際、人工的に作ったmRNAを細胞に導入すると自然免疫システムが発動してしまう。しかし、一方、細胞内に元々ある自分自身のRNAは自然免疫を発動しない。何故か?ここでKarikóは、細胞内のRNAは様々な化学修飾を受けていることに注目した。13/

2020-12-14 08:15:54
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

人工的に作ったmRNAに化学修飾を施しておくと、mRNAを細胞内に導入しても自然免疫システムを発動しないことが分かった。この発見は2005年に発表されたが、当初それほど注目されていなかった。14/ pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16111635/

2020-12-14 08:15:55
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

KarikóとWeissmanは特許を取り、会社を立ち上げたが大学は2010年にライセンスを売ってしまった。しかし、この発見を見逃さなかった研究者たちいた。現在mRNAワクチン開発をリードするBioNTechの創設者Ugur SahinとÖzlem Türeci、Modernaの設立に係わったDerrick Rossiだ。15/ statnews.com/2020/11/10/the…

2020-12-14 08:15:56
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

報道では、有名製薬会社ファイザーの名前に隠れがちになるが、mRNAワクチンの技術的基礎を作ったのはドイツのBioNTechだ。創設者のUgur SahinとÖzlem Türeciの夫妻は、二人とも幼少時にトルコからドイツに移民してきた。彼らは、元々mRNAワクチンによる、癌の免疫治療に注目して研究をしていた。16/

2020-12-14 08:15:56
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

二人は企業家でもあるが研究者であり、インパクトのある研究論文を連発していた。しかし、mRNAワクチンの実用化はなかなか軌道に乗っていなかった。新技術に対する副作用などの警戒に加え、mRNAの不安定性ゆえの超低温での保存などがネックになっていたことは想像に難くない。17/

2020-12-14 08:15:57
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

2013年、BioNTechは、それまで大学からの支援を得られず、mRNAワクチン開発競争の蚊帳の外におかれたKarikóさんを、にsenior vice presidentとして迎え入れる。ペンシルバニア大学の同僚に、BioNTechのウェブサイトがまだ無いことを知って笑われたという。18/

2020-12-14 08:15:58
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

そこへ到来してのが新型コロナのパンデミック。BioNTechは蓄積していた技術と、すでにインフルエンザワクチン開発で提携したファイザーと組むことにより、この新技術の安全性チェックのための大規模治験を短期間でクリアしてしまった。19/

2020-12-14 08:15:58
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

今後、実際のワクチン製造、運搬、保管などの技術的問題、数百万、数千万単位でのワクチン接種でどのような副作用が出るか注視する必要があるが、新型コロナウイルスによる致死率とワクチンの高い防御効果を天秤にかけると、高リスク層からの積極的接種には大いに期待できる。20/

2020-12-14 08:15:58
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

このmRNAワクチンが画期的なのは、他の病原体や癌治療、遺伝子治療など広い応用が可能な点だ。今回のmRNAワクチンで十分な安全性が確認されたならば、コロナ禍があったからこそ、人類は新しい医療技術を手に入れたということが言えることになるかもしれない。21/

2020-12-14 08:15:59
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

周囲から先駆的研究の価値を認められずとも、先駆的な論文を出し、人類の医療に多大な貢献をし、しかもオリンピック金メダリストの娘さんを育てられたKarikóさんもハンガリーからの移民。こういう人がいると、少々の障壁でへこんでる場合でないと思った次第である。22/END

2020-12-14 08:15:59
Hironori Funabiki @HironoriFunabi1

Mitosis Researcher @RockefellerUniv, New York, NY. Former backstroker. Choir part: bass. Brined turkey & りゅうひ巻き係。funabikilab.com

rockefeller.edu/our-scientists…