理想の夫 解説

2020年後学期「イギリス文学ゼミナール」北村授業アカウント @PirateUni_Wilde

このクラスは以下の日程でツイッターを使ったテクストのみの講義を行います。それぞれの日に行う授業は後で追えるよう、決まったハッシュタグで出します。質問は引用RTではなくリプライで行ってください。学生の場合、議論は授業用フォーラムで行うことを推奨します。 pic.twitter.com/T8ATei1pAY

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本日のイントロダクションはZoomで実施しますので、授業登録者の皆さんは気をつけてください。こちらでの講義は来週からになります。

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#ワイルド入門 皆様おはようございます。これから武蔵大学英語英米文化学科「イギリス文学ゼミナール2」の授業を始めます。この授業ではオスカー・ワイルドの戯曲『理想の夫』を原文で読んで分析します。ただ、本日は教科書を使わず、ワイルドの伝記などを簡単に説明します。

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#ワイルド入門 今学期の授業は一部対面があり、こちらで行う講義の回数と実際の授業回数が一致しませんので、ハッシュタグは授業回数ではなく内容に関係するものを使用します。本日は #ワイルド入門 とします。

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#ワイルド入門 授業登録者は3Sにアップロードしたスライドの1番を見てください。

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#ワイルド入門 オスカー・フィンガル・オフラハティ・ウィルズ・ワイルド(Oscar Fingal O’Flahertie Wills Wilde)は1854年10月16日、ダブリンのアングロアイリッシュ（イングランド系アイルランド人）の家庭に生まれました。

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#ワイルド入門 このフルネームですが、一見しただけでめちゃくちゃアイルランド人っぽい名前です。「フィンガル」はアイルランド系の神話に出てくるフィン・マックールの異名として使われる名前で、O'＋なになにというのはアイルランドで超よくある姓です。O'は「～の子孫」という意味です。

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#ワイルド入門 スコットランドのヘブリディーズ諸島には「フィンガルの洞窟」という地名があります。この洞窟は18世紀に名前がついたもので、フィンガルという名前にはいろいろ「創られた伝統」的な要素があります。 commons.wikimedia.org/wiki/File:Scot… pic.twitter.com/iFrOURftEW

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#ワイルド入門 メンデルスゾーンがこれをネタに「フィンガルの洞窟」っていう曲を作っていますね。 youtube.com/watch?v=ILOzTj…

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#ワイルド入門 この「フィンガル」という名前はジェイムズ・マクファーソンの『オシァン』という18世紀の詩でフィン・マックールに基づく人物の名前として出てきているんですが、そもそも『オシァン』は偽書疑惑があります。なかなか出所のあやしい名前です。

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#ワイルド入門 しかしながら『オシァン』は大ヒットし、ヨーロッパ中で読まれ、スコットランドやアイルランドの人たちにとっては神話への興味と愛国心をかきたてる作品として読まれていました。これについては私が今年の春に出した論文をご覧下さい。 ci.nii.ac.jp/naid/400222122…

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#ワイルド入門 ワイルドの「フィンガル」っていう名前はそういうわけで『オシァン』あたりのちょっと怪しいケルト神話ソースから来ています。ワイルドにこういうコテコテケルトな名前がついている理由のひとつは、ワイルドのお母さんにあります。

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#ワイルド入門 オスカー・ワイルドのお母さんは著名な作家でアイルランドのナショナリストであるジェーン・フランセスカ・アグネス・ワイルド (Jane Francesca Agnes Wilde)、通称「スペランザ」(Speranza)です。ワイルドの名前はかなりお母さんの趣味です。

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#ワイルド入門 ワイルドは完全に「母の息子」タイプの作家で、知識人で文才があったスペランザからは強い影響を受けているし、母親のことは大事に思っていたようです。一方でお父さんのウィリアムは医者でやはり知識人だったのですが、あまり評判がよくなく、患者からセクハラで訴えられています。

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#ワイルド入門 そういうわけで、知識人の一家でナショナリストの母に育てられたワイルドですが、学業は優秀で、トリニティ・カレッジ・ダブリンで学んだ後、オクスフォード大学で勉強します。1884年にコンスタンス・メアリ・ロイドと結婚し、シリルとヴィヴィアン、2人の息子にめぐまれます。

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#ワイルド入門 ワイルドは2人の息子をかわいがっていたようで、子ども向けの本を書いたり、この2人の名前を自作に使ったりしています。しかしながらワイルドは女性より男性に惹かれることのほうが多く、妻に内緒で男性と不倫を始めます。

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#ワイルド入門 なお、この当時、英国では男性同性愛は違法です。ワイルドにはいろいろボーイフレンドがいたようですが、一番有名な恋人はスコットランドの貴族クイーンズベリ侯爵の息子で詩人であるアルフレッド・ダグラス卿、通称「ボウジー」です。こんな感じの人です。 commons.wikimedia.org/wiki/File:Lord… pic.twitter.com/4O3jbmAZRo

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#ワイルド入門 ボウジーは‘Two Loves’「ふたつの愛」という詩で、‘The love that dare not speak its name’「その名を口にできぬ愛」について語っていますが、これは広く同性愛のことだろうと解釈されています。 poets.org/poem/two-loves

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#ワイルド入門 こちらはワイルドとボウジーの写真です。 commons.wikimedia.org/wiki/File:Homo… pic.twitter.com/hHd7ArK1rK

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#ワイルド入門 ボウジーのお父さんであるクイーンズベリ侯爵は息子の素行が気に入らず、1895年、ワイルドに対して同性愛者であると名指しし、様々な侮辱を行いました。このため、名誉毀損でワイルドが侯爵を訴えました。

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#ワイルド入門 当初はあんまり証拠がなかったようなのですが、クイーンズベリ侯爵の証拠集めにより、ワイルドの多数の男性遍歴が明らかになり、ワイルドは逮捕され、裁判にかけられた後に有罪となります。ペントンヴィル監獄などで2年間服役し、1897年に出所します。

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#ワイルド入門 ワイルドは刑務所を出所後、ボウジーと復縁をしてはケンカをするなど、腐れ縁が続きますが、やはり刑務所にいたせいで体調を崩していたのか、1900年にパリで死亡します。ペール・ラシェーズ墓地に埋葬され、現在では墓が観光地になっています。

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#ワイルド入門 ワイルドの生涯はだいたいこういう感じなのですが、逮捕されて46歳で亡くなっているため、作家として長く充実したキャリアを歩むことはできませんでした。長編小説は1作だけだし、劇作家としてももっと長生きしていればたくさん書けたでしょうが、今よく上演されるのは4作くらいです。

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#ワイルド入門 最初にヒット作となったのは『ウィンダミア卿夫人の扇』 (Lady Windermere’s Fan, 1892)です。このお芝居はいわゆる「母もの」です。実母を知らずに育った若い女性レディ・ウィンダミアの夫であるウィンダミア卿のところに、悪名高い女アーリン夫人が訪ねてきます。

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#ワイルド入門 レディ・ウィンダミアはアーリン夫人が夫の愛人だと思いますが、実はアーリン夫人はレディ・ウィンダミアの実母でした。このせいでいろいろ問題が起こるのですが、レディ・ウィンダミアはちょっと成長し、一方でアーリン夫人は自分が母だと打ち明けられないままこの芝居は終わります。