病んでる青年医師とわがままで好奇心旺盛な少女の日常。

お題作成診断にて出ましたタイトルの内容をぽわぽわ考えて書いた日常の一こまついのべですよう。
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ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「どうぞ先生、お入りになって」カーテンが締め切られ、薄暗い室内で高い声で言葉が紡がれる。声の主は部屋の中央に置かれた天幕つきのベッドに横たわる少女だ。あどけない顔は白く、頬はこけている。彼女は高く積んだ枕に寄りかかるように身を起こし、部屋の扉の方へと顔を向けていた。

2011-07-21 00:09:30
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

少女の言葉に応えるかのように、扉が静かに開かれていく。廊下の明かりを背に立つのは白衣を纏った人影。その人影は手には手袋を、顔には覆面を被り、肌を覗かせる箇所は無かった。性別も年齢も定かでない人影は室内に入ると後ろ手に扉を閉めて言う。「よく僕がきたとわかったね?」

2011-07-21 00:12:09
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

外見にそぐわぬ澄んだ声での問いに少女が笑う。「だって悲鳴が聞こえたんだもの。先生ったら変な格好で来るから、メイドがいつも驚くんでしょ」からかう様な面白がるような声に青年と思われる白衣の男は溜息を付く。「誰かに肌を見られるのは耐えられぬ故、この格好だと伝えてはあるのだがね」

2011-07-21 00:14:59
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

応えを含めて笑っていた少女は、釣りあがった口元を拭って直すと両手を青年へと向けた。ここに来てと迎えるように。「さあ、先生? 治療の前にお顔を見せて」有無を言わさぬ物言いに、青年は溜息交じり、しかしどこか安堵と取れる息を漏らしながら、少女の両手の先まで歩むと覆面を脱いだ。

2011-07-21 00:19:17
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

露となったのは短く切り詰めた金髪に、無表情ともとれる顔。青年は少女のベッドの端に腰を下ろす。少女は青年の顔が手に届く位置に着てから、広げていた手で彼の顔を触る。最初は恐る恐るだった動きは、彼の顔に指先が触れるとすぐに彼の輪郭を確かめるように動き出す。

2011-07-21 00:21:48
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「今日はきちんとお髭を剃られているのね。あら、髪まで」少女に顔を好きにさせながら、青年は小さく頷いた。「君に手が痛くなると、怒られたからね」「なら、私が怒れば覆面を外してここに来てくれる?」青年の応えに、少女の試すような問いが返る。僅かな沈黙の後、青年が首を横に振る。

2011-07-21 00:26:35
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「僕がこの覆面を外すのは君が光を失っているからだよ」説く様に彼は言う。「僕は見られていては安心でき無い。君が僕を見ることができ無いから僕は安心して僕の顔を晒せる」「そう」返ってきた答えに少女は唇を尖らせ、答えはもういいと短く強い言葉が放たれた。

2011-07-21 00:30:51
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「ねえ先生」少女が青年の両耳を指でなぞりながら問う。「なんだい」「私の目は見えるようになるの?」「もちろんさ」青年が応答の前に短い言葉で区切った。「僕はその為にここにいるよ。君の瞳が再び光を得るために」「そう」先ほどと同じ少女の言葉、しかし次へ、と逸る意思が見えた。「じゃあ」

2011-07-21 00:36:06
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「見えるようになったら、先生のお顔を見せてくれる?」期待するような弾んだ声に、感情が込められていない声が返る。「それはないよ。君が光を取り戻したら僕はもうここへは来ない」青年の声に少女からのすぐの返答はない。ただ、彼を触る指に僅かな力が篭る。「私が来てとお願いしても?」

2011-07-21 00:38:36
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「うん。僕の医者としての役目は終わりで、見えるようになった君を僕は愛せないからね」青年の言葉は少女を猛らせたようで、強張った指先の爪が僅かに彼の顔に食い込んだ。平然としたままの青年が見る先、少女の頬には赤みが差している。彼女は怒ったように唇を尖らせ、そっぽを向きながら。

2011-07-21 00:41:58
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

「じゃあ、私、見えるようになんてなりたくない」機嫌を損ねた少女の棘のある声に、青年の返答は速かった。「それは困るな」何故、と少女が問う前に青年が言葉を続ける。「僕はお払い箱になってしまう。目を治せないと思われた僕はもう二度と、人々と触れ合う機会を得られなくなるかもしれない」

2011-07-21 00:45:55
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

困らせないで欲しい、そう込められた言葉に少女は押し黙る。青年はただじっと少女の事を待つように黙っていた。どれぐらい経っただろうか、少女の唇から発せられた言葉は棘が抜け落ち年相応の声に戻っていた。「ねえ先生」「なんだい」「もっとお顔を私に寄せて?」彼女の望みに青年は無言で応える。

2011-07-21 00:50:21
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

端から見れば少女に覆いかぶさり、額をつき合わすような体勢。間近に迫った青年の顔をまた少女の幼い手が這う。耳から頬、鼻を経て唇へ。形や場所、大きさを確かめるように少女の親指が彼の唇を何度もなぞった。そして彼女は笑みを浮かべて言う。「先生の味が知りたいの、いいでしょ?」顔を、寄せた。

2011-07-21 00:54:22
ヒソヒソらっこ。 @Rakko1984

というわけで、このお題で書いてみましたー。 RT @Rakko1984: Rakko1984は少女の専属医師で病んでいる青年とわがままで好奇心旺盛な少女の日常の一コマを描いて下さい。 http://shindanmaker.com/130224 考えながら帰ろうかの

2011-07-21 00:54:53