大罪戦闘企画

《幕間記録》
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――とある大罪

【魔王】 @Tokimine_Seo

こつん。硬質の床を、靴音が叩く。 「ただいま」 「おかえり、ツェーリ。……どうだった」 「どうだったも、何も。とても素敵で有意義な時間を過ごさせて頂きましたわ」 椅子の背もたれにもたれていた怠惰は、ぐっと眉間の皺を深く深く刻んだ。それから、はぁ、と溜息。

2013-12-09 23:17:28
【魔王】 @Tokimine_Seo

「僕はどこまでも運がなかったって事」 「それは同情いたしますわ」 してないくせに、と悪意のこもった呟きを落として椅子を回転させる。怠惰が背を向ける。その背を、傲慢の少女はやわらかに見つめて。 「……あら?」 不意に、脇を、風が通り過ぎた。

2013-12-09 23:17:44
【魔王】 @Tokimine_Seo

なびく黒髪。対照的な白のスカート。ケープで覆った上半身。その瞳は、かたく閉じられている。 「次は、雪梅が行くのね?」 語尾こそ上がっていれど、それは問いではなく確認だった。問いは彼女の『憤怒』に触れるゆえ。

2013-12-09 23:17:58
【魔王】 @Tokimine_Seo

――その湖面に、微かなさざなみひとつたててはならない。 それは今にも崩れ落ちそうな、がらくたの山のような危ういバランスの上で成り立っている水面である。 ぎりぎりの境界線に押し留められた怒りは、ひとたび触れてしまえば堰切ったように溢れてすべてを壊すだろう。

2013-12-09 23:18:12
【魔王】 @Tokimine_Seo

そして、留められている磨き抜かれた水面は、鏡。 覗き込むかぎり、見つめているかぎり、彼女は彼女に相対する全てを映し出して、彼女であり彼女ではない存在となる。 軽いサンダルが(ここは少女の屋敷だというのに)さりと砂を踏むような音をたてて、消える。

2013-12-09 23:18:24
【魔王】 @Tokimine_Seo

静寂なる湖面の鏡は、歩みの先にいったい何を観るのだろう。

2013-12-09 23:18:30

――とある大罪

ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

カツン、カツン、とリズミカルに床を打つ。高いヒールは少しだけ歩きにくいけれど、慣れてしまえばどうということは無い。少しの失敗はあったけれど、掃除も出来た。今はとても気分が良い。 カツン、カツン。 ふと、カチャリ、という金属が触れ合う音が聞こえた気がして、立ち止まる。

2013-12-10 02:42:14
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

何処から聞こえたのだろう。首を傾げつつ、耳をすませる。カチャリとまた一つ——茶器の音だ。それも、このお城のお姫様が大事にしてるティーセットの。 ならきっと広間だろう、と再び床を打つ。カツン、カツン。広間の扉の前に立ち、静かに開けて、中へ。

2013-12-10 02:42:54
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

照明のついていない広間は、それでも月明かりで仄明るく。ぐるりと広間を見渡して、姿を探す。花瓶、油絵、間接照明……ソファの上には赤い女性。目を止め、首を傾げ、そういえば白髪のお兄さんが運んでいたと思い出した。今、この城に彼の気配は見つからないけれど、何処に行ったのだろう。

2013-12-10 02:43:14
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

不思議に思いつつも、また目を動かして。窓際、白い丸テーブルにつき、紅茶を飲む少女を見つけた。 「こんばんは〜お姫様〜」 フリルをあしらった青いふわふわのドレスに、同じくふわふわのヘッドドレス。他とは何処か違う空気感。間違いなくお姫様だと確信し、笑みを浮かべて声を掛けた。

2013-12-10 02:43:35
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「こんばんは、ジャック。何処かへ行っていたのかしら?」 「はい〜少しお掃除をしていました〜そういうお姫様はどちらへ〜?」 「私はハインリヒを探していたの。でも見つけられなかったわ」 「そうでしたか〜」 お姫様ならばもしかしたら、と淡い期待を持ったが駄目だったらしい。

2013-12-10 02:43:55
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

先生はいったい何処へ行ってしまったのだろう。そんなにも遠いところに行ったのだろうか。 行ってしまった、と言えば。 「白髪のお兄さんはどちらへ〜?」 彼の気配が見当たらないのだった。忘れないうちに、と思って聞けば、お姫様は少しだけ目を伏せた。悲しそうだ、というのは直ぐに分かった。

2013-12-10 02:45:42
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「彼は、あの子と一緒に出て行ったわ。きっと、もう戻ってくることはないの。……色々とあってね、彼の一番信頼出来る人のところに行ったのよ。黒い髪に、金の目の女性のところにね」 「女性?恋人か何かですか〜?」 「まさか。でも、とっても大切な人よ」 「そうなんですか〜」

2013-12-10 02:47:02
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

恋人でもなんでも無い、けれど大切な人。それをなんと表現したら正しいのかは分からないけれど、無理に括る必要は無いだろう。でも少し、気になる、かも。詳しく聞こうか、聞くまいか。お姫様は教えてくれるだろうけど、人の事情を勝手に知るのは良くないことだし。でも、ちょっと気になるし。

2013-12-10 02:47:23
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

うんうん唸っていたら、くすりと笑う気配があって。お姫様を見れば、暗い表情はもう消えて、穏やかに笑っていて。 「後で、話してあげる。でも今は駄目。少し、感傷的な気分なの。話してあげられそうにないわ」 カチャリとティーカップを置いて、お姫様は立ち上がる。

2013-12-10 02:48:07
ウィリアム・ウィドー @s_akiyui

「ちょっと散歩をしてくるわ。その間、ティアをお願いね」 それから静かにそう言って、横を通り抜けて行った。広間の扉を開け、出て行こうとする背中に。 「いってらっしゃいです〜」 慌ててそう声を掛ける。お姫様は笑って手を振って、いってくるわ、と言った。

2013-12-10 02:48:29

――とある大罪

エメロード @actKrwz

――――――――――。

2013-12-10 03:16:16
エメロード @actKrwz

「いい加減、泣き止めよ……」 ぐすり、ぐすり。エメロードは目の下を赤くし、鼻をずびっと鳴らす。袖で涙を拭いながらも響の言葉を聞けば、金を揺らし、ご機嫌斜めな様子で唇を尖らせた。 「アセディったら、起こしてくれてもよかったのよ! よかったのに、」 「あーあー! わーったから、ほら」

2013-12-10 04:16:43
エメロード @actKrwz

響に差し出されたアップルパイを一口、自身の口で咀嚼しながら、目尻に浮かんだ涙を拭う。 「……おいしいわ!」 一転、ぱあっと明るい笑みを零したエメロードの頭を撫でてやりながら、響はそりゃそうだと言いたげに、にやりと笑う。 「ま、あいつのことだ、のんびり昼寝でもして帰ってくんだろ」

2013-12-10 04:17:53
エメロード @actKrwz

響の言に、エメロードも小さく頷く。 「そうね、そうよね。……アセディだって、なにもいじわるがしたくて、あたしを起こさなかったわけじゃないって、わかってるの。わかってるのよ」 「なら充分だろ、それで。おら、とりあえず喰っちまえよそれ」 指先が示すアップルパイ。ええ、と一つ頷いて。

2013-12-10 04:18:11
エメロード @actKrwz

ぶわ、り。――雀蜂が、三十程。抑えたのか、羽音も何時もより騒がしくなく。エメロードなりに、響への配慮のつもりなのだろう。 「そんでも足らねェなら、また扉にでも入ってきたらどうだ」 また美味ェもんが転がってるかもしれねェしなァ、とは響の談。そうね、と両手を打ち、少女は可憐に笑う。

2013-12-10 04:18:19
エメロード @actKrwz

「ちょっと行ってくるわ! そうね、今度はフルーツタルトを用意しておいて! アセディと食べるから! ぜったいよ!」 「へぇへぇ。――気を付けろよ」 響の言葉ははたして、届いたかどうか。少女は足取り軽く、アップルパイをすっかり平らげた雀蜂を伴って、扉の向こうへと足を、踏み出した――。

2013-12-10 04:18:25