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傷を癒すためと送られた修道院ではさすがに何もされませんでしたが、そこで私はあれを手に入れ、その修道院の闇に伝わる道具の扱いを覚えたのです。 身も心もずたずたでしたが、だからこそ見えたものもあった。復讐です。 人を踏みにじる喜びを知っているならふみにじられる痛みを知るはず、と。
2021-01-19 22:27:48「ちなみに、唯一良かったことがあるとすれば正気を失う前に私を売った勇者が魔物の餌になる瞬間をきちんと目撃できたことですね。最初から生きる道などなかったわけです」
2021-01-19 23:35:44ふふ。と、また上品に笑みをこぼしてみせる。あまりに凄惨な過去を否応無く詰め込まれ、その上でなお涼やかに笑う女のなんとおぞましいことか。これがトドメになり戦士はしめやかに失禁、勇者は心折れ二度と立ち上がれなく… 「なるわけには、行かないかなぁ…」 僧侶は嬉しげに目を細めて微笑む。
2021-01-20 00:57:47自分より遥か高みにある勇者。それでも手も足も出なかったという凶悪な敵。そして叩きつけられた人間の醜さ。 どれもこれも悼ましい、若く未熟な我らが勇者には重過ぎるほどに重い現実。 だが、受け切った。 なら次は勇者の番だ。
2021-01-20 01:22:34さしもの戦士も目の前の女が受けてきた苦痛を思えばこっそり唾を飲んだが平然とした顔で腕を組みどっしりと構え勇者に任せる姿勢。きりっとした顔をするのはタダなので。
2021-01-20 01:30:18一方でまだ勇者は顔も青い。時折深く深呼吸を挟む。しかし、目が活きていた。 そして復讐者に容赦無く叩き返すのだ。 「僧侶さんはさ、なんでそんな辛いことを僕らに教えてくれたの?」 善意を。
2021-01-20 06:05:33「え…」 対して悪意の破戒僧は、悪意によって凡ゆる戒律を剥奪された僧侶だった女は、驚いた。 「それは…」 戦士も目を見開いて驚いていた。今の今までえぐい官能小説の化身をやっていた女がたった一言で目に見えて狼狽し始めるなど。
2021-01-20 06:33:11「それは…あなた方を信用したからです」 「本当に?」 「…一ヶ月にも満たない時間で何を、とお思いでしょう」 「あんな酷い目に遭わされて、魔法使いならともかく男の僕らまで信用してくれたの?」 「愚かな女と笑ってくださいませ」
2021-01-20 13:37:06「復讐が理由ならその特記武装を見せてもっと高位の勇者パーティに混ざることだってできたはずだ」 「…っ」 「僕の将来性なんてたかが知れてる。それでも一緒に来てくれたのはなんで?」 「……」 「本当に復讐が理由なの?」 「…あっ…あなた、たちとなら…」
2021-01-20 13:43:10気がつけば。 得体の知れない苛虐主義者は、ひたすら背を丸め目を逸らし、ぼそぼそと何かを主張しようとするただの女となっていた。 勇者は一つの質問につき一つの返答を待つ。 迫るように待つ。
2021-01-20 13:47:47「あなたたちとなら…生きていける気がしたのです」 「どうかな。戦士や魔法使いはともかく僕は明確に足手まといだけど」 「それでも、優しいではありませんか。善良ではありませんか。まだ私を見捨てずにいてくれるではありませんか」 「弱みにつけ込んでやろうとしてるのかも」
2021-01-20 14:32:31「あなたたちはそんな人ではありません」 「僕らじゃなくてもいいんじゃない?」 「いいえ!私は…あなたたちとならきっとこの復讐を忘れて生きられるとさえ思ったのです!」 「本当に?あれだけ惨たらしいことをしておいて?」
2021-01-20 14:43:11「傷ついた私の甘い幻想かも知れません…でも、トーチャー・グリップだって本当は使うつもりはなかった!」 「一緒に行きたいって言ってくれるのは嬉しいよ。でも僕の力じゃせいぜいこの森で働いて、適当なところで賞金もらって田舎へ帰ることになると思う。その時僧侶さんは復讐を、忘れられる?」
2021-01-20 14:47:25「…他のパーティへまた潜り込んで、同じように魔物を痛めつけて悦ぶかもしれません。人間も、私が覚えている限り陰ながら狙い続けるでしょう」 「そうだろうね。僧侶さんはそれだけ酷いことをされた。これは正当な復讐だと思う。でも僧侶さんはいずれ本命の四天王へ復讐したくなるよ。
2021-01-20 14:56:04「……復讐を、この胸の内にある炎を押し留めるのは難しい。一度燃え上がれば止めようがないほどに。 でも。…それでも。 私はあなたたちと共に生きたいと思います。どれだけ痛んでも、あなたたちのくれる温もりできっと復讐を忘れられると思うから……だから、連れて行ってください。どこまでも」
2021-01-20 15:02:42「ふっ、はっはっはっはっは!!僧侶よ、見込みを違えたな。勇者はこの通り、出会ってひと月も経たない女のためにマジギレする男だ!はっはっはっは!!おふっ。やめろ勇者、脇腹をつつくな」 「殴ったんだよこのノーダメ筋肉!…そういうわけだから。
2021-01-20 15:07:52僧侶さんが僕らと来るって言うんならそのトラウマの元凶ともう一度向き合ってもらうことになる。今度はかなり戦力も低下してるけど、だからって笑うなって戦士!いいところなんだから!」 「自分で言ってはおしまいであろう」
2021-01-20 15:09:26男たちはそのままわちゃわちゃじゃれあい始めるのを、女は呆然と見つめていた。 ああ、確かに見誤っていたと。 こちらの抱えた事情をある程度察して仲間である前に女である魔法使いをわざと起こさず自分で受け止めてくれた勇者。
2021-01-20 15:13:03揺らぎを顔に出さず、勇者の善性を全肯定してみせた戦士。 そして、とっくに目を覚まし近くの物陰で逃げも怒鳴り込みもせず全ての話を聞いていてくれた魔法使い。 なんて、眩しい。
2021-01-20 15:35:21今はまだ、視界にこびりつく怨嗟の煤が少し流れる程度の涙でしかないけれど。 我らが勇者はまず一人、女の心を救ってみせたのだった。
2021-01-20 15:39:12さて、そういうわけで少しばかり冒険の指針が変わった。 目指すは魔王討伐…という大看板を掲げて小金を稼ぎ田舎へ凱旋する、から魔王軍幹部、通称四天王の一角をおファックしてやる方向へ。ついでにおいたをする魔物や人間も道すがら「おしおき」する。
2021-01-20 16:14:15