【シェイプ・オブ・ニンジャ・トゥ・カム】 #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「多勢に無勢、そのように申し開きをするもよかろう、カリュドーンの獣よ」男は言った。ニンジャスレイヤーの音は次第に大きくなる。それは、呼吸だ。ジゴクのフイゴのような。「……スウーッ……フウーッ……」「しかしそれでもなお、己の至らずを省みるべし」「……スウーッ……フウーッ」 0

2021-01-22 21:02:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「この程度のはからいならば、儀式を穢す事にもなるまいて……」男は懐から笹の包みを取り、足元に置いた。バチバチとネオン看板「不如帰」が明滅すると、男の姿はなかった。「……スウーッ……フウーッ……」ニンジャスレイヤーの左手が大地を掻いた。右手が持ち上がった。右手が心臓を殴りつけた。 0

2021-01-22 21:04:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ピイー……。ピイイー……。笛の音が遠ざかった。ニンジャスレイヤーは再び、己の心臓を殴りつけた。再び。再び。KRAAAASH……KRAAAAASH……KRAAAASH。小規模局地地震じみた震動が三度。ニンジャスレイヤーは、身を起こした。 0

2021-01-22 21:04:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

立ち上がったニンジャスレイヤーは炎の雫を滴らせ、「不如帰」のネオン看板を見た。……KRAAAASH!看板は燃えながら溶け、吹き飛んだ。看板を破壊したニンジャスレイヤーは笹の包みを掴み取った。笹の中身はバッテラのスシである。ニンジャスレイヤーは叩きつけるように口中へ押し込み、咀嚼した。 1

2021-01-22 21:07:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スウーッ……フウーッ」彼の足元で水溜りは煮えたぎり、やがて蒸発して消え去った。「スウーッ……フウーッ……」ニンジャスレイヤーはうつむいたまま、肩を揺らし、ジゴクの炉めいた呼吸を続けた。不意に彼は頭を上げ、首を巡らせ、一方向を凝視した。レーザーポインターじみた眼光が闇に滲んだ。 2

2021-01-22 21:11:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

悲鳴じみて、地面に散らばった看板が最後の火花を発し、路地裏が明滅すると、既にニンジャスレイヤーの姿はない。彼が睨んだ方角へ向けて、アスファルトにはちろちろと燃える火の跡が残されている。 3

2021-01-22 21:13:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ザ・シェイプ・オブ・ニンジャ・トゥ・カム】#3 pic.twitter.com/p6UeNpmLhQ

2021-01-22 21:13:58
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キイイン。キイイイン。コンヴァージは耳鳴りに顔をしかめた。現世にオヒガンの影が微かに重なり、交差点を行き交う人々の輪郭がぼやけた。彼の頭上の曇天にひととき、キンカク・テンプルが顔を見せた。『かくして獣は狩りの印を宿した』荘厳な声が反響し、明滅するオヒガンの地平に巨大な七つの影。 4

2021-01-22 21:18:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

うちひとつが、コンヴァージの忌々しき主、ボロブドゥール帝国のシャン・ロア……リアルニンジャとしてムカデ・ニンジャの名を持つ。ムカデ・ニンジャを思考に乗せるだけで、彼の掌の「ロウ・ワン」の印は熱を持つ。『星辰が最初の挑戦者を決める。狩人達よ。時を待て。カリュドーンの掟は絶対也』 5

2021-01-22 21:22:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

七人のリアルニンジャに選ばれた狩人達はオヒガンの糸に結ばれている。リアルニンジャ達の気まぐれめいて、時折このように「通信」が繋がる。だが彼らの声が届くことは稀だ。儀式を司るセトの戦士たるブラックティアーズが、リーダーじみて指令を伝えてくる。 6

2021-01-22 21:26:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いつだ。いつ、それが決まる?」コンヴァージは問うた。『そう遠くはない。星辰が巡り、定まりし日、最初の狩人は狩りの印の方角を知る権利を得る』まわりくどい真似を。コンヴァージはボキボキと首を鳴らした。ムカデの他のリアルニンジャも皆、古錆びて、儀式だの魔術だの、カンにさわる連中だ。 7

2021-01-22 21:31:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コンヴァージはもとはリロン・ケミカルの企業戦士である。そののち、ボロブドゥール帝国のシャン・ロアのヘッドハンティングを受けた。リロン社はボロブドゥールとの提携を進めている。海運上の安全確保やオセアニア覇権の為に協力関係を築こうとしているのだ。 8

2021-01-22 21:34:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

これはシャン・ロアにとっても軽視はできない同盟だった。支配領域を維持するために、彼は文明社会との一定の折り合いを必要としている。血塗られた呪術の支配は全体としては徐々に後退しつつあった。カリュドーンに勝利する事で、一気にダークカラテエンパイアの頂点に立ち、ジリ貧を覆すつもりか。 9

2021-01-22 21:37:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャン・ロアは恐るべきロウ・ワンの呪術の使い手。カラテにおいて特に優れたコンヴァージはシャン・ロアの親衛隊のニンジャを御前試合にて三人殺し、その実力をムカデの異形の目に焼き付けた。ロウ・ワンの印を与えられた彼の力は更に強まり……その代償として、神話のジゴクに生きる事となった。 10

2021-01-22 21:42:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それはコンヴァージにとって好ましいジゴクだった。殺しと闘争に彩られた世界だ。掌のロウ・ワンの印は熱を持つ。ネオサイタマにおいては戦闘可能域に単身乗り込み、思うがままに破壊した。所詮、文明の世界に、彼を止められる者など居ない。当然の事実をただ確かめる為の殺戮だった。 11

2021-01-22 21:46:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

目下、彼の敵はカリュドーンの獣ではない。他の狩人たちだ。彼の手番が訪れるまでに、他の者が獣を血祭りにあげてしまうのは興醒めといえた。主の望みを果たすには、掟を都合よく曲解し、立ち回っていく必要があるだろう。七人がかりで印を刻みつける中で、己の手の内を明かした者は少ない。 12

2021-01-22 21:52:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

自分が最初の狩人となる確率は7分の1。その場合は単にニンジャスレイヤーを殺せば済む。それが最もシンプルだ。それ以外の場合、選ばれた狩人をいかに滅ぼすかという話になる。星辰の時が満ちれば、彼のとるべき手段も定まるだろう。 13

2021-01-22 21:56:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼はスクランブル交差点を渡り始めた。雑踏は彼を避けて通った。一戦終えたばかりの彼の背中からはいまだにキリング・オーラが漂い、空気を陽炎じみて歪めている。「アイエエエエ!」急性ニンジャリアリティショックに陥って市民が転倒し、泡を噴いた。 14

2021-01-22 22:00:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「安い。安い。実際安い」上空のマグロツェッペリンは無機質な広告マイコ音声を投げる。コンヴァージは手を握り、開く。ロウ・ワンの印が熱を持つ。七対一、多勢に無勢。確かにな。コンヴァージは目を細めた。食い足りぬ相手だった。今日の交戦可能域で戦争する暗黒メガコーポは何処のカイシャか。 15

2021-01-22 22:04:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暴力と快楽の予感が彼のニューロンを駆けた。文明とは、なんと脆いものだろう。卑しきモータルの次元を超え、神話真実を知る彼は、ただ無知なる者を捕食し蹂躙する存在だ。ムカデのように。「……」静寂が彼を包んでいる。広告音声が遠く聞こえる。雑踏は消え去っている。笛の音が微かに聞こえる。 16

2021-01-22 22:08:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

然り、市民の姿はこのスクランブル交差点のどこにもない。彼らは皆、逃げ去った。「……」コンヴァージは背後に凄まじきカラテの圧を感じ、振り返った。一歩、一歩。赤黒の影がゆっくりと、彼のもとへ近づいてくる。カリュドーンの獣。「……」コンヴァージは首をボキリと鳴らした。 17

2021-01-22 22:11:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こういう場合はどう扱う、ブラックティアーズ=サン?」コンヴァージは呟いた。「殺して構わんのだろうな?手負いの獣が未練がましくやって来……」ドウ!赤黒く燃える粉塵を足元に発し、ニンジャスレイヤーはコンヴァージの眼前へ瞬時に至った!「イヤーッ!」 18

2021-01-22 22:16:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コンヴァージは目を見開き、咄嗟に防御姿勢に入った。予測を超える速さと圧力!赤黒の鉤爪がコンヴァージの肩を抉る!「ヌウーッ!」踏みとどまるコンヴァージに、ニンジャスレイヤーはさらなる打撃を繰り出す!「イヤーッ!」大振りのフックを叩きつける!「イヤーッ!」コンヴァージは殴り返す! 19

2021-01-22 22:20:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRAAAASH!コンヴァージはタタミ数枚距離を後ろへ押され、滑った。「ハァーハハハハ!」彼は呵々大笑し、カラテを構え直した。「やれるか弱敵!おもしろい!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはスリケンを投げた!「イヤーッ!」コンヴァージは足元のアスファルトに拳を突き刺した! 20

2021-01-22 22:23:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は瞬時に、地中に根を張る雑多な配管類を捉え、腸を掻き出すがごとく、上へと引きずり出した!「イヤーッ!」引きずり出された配管が波打ち、スリケンを弾き飛ばし、アスファルトを吹き飛ばしながら、鞭めいてうねり、ニンジャスレイヤーに襲いかかった! 21

2021-01-22 22:25:24