調査隊は3人ずつ、3グループに分かれて行動を再開した。エルヴィナたちА班は、周囲を警戒しつつ建物最下層、サーバールームへ向かう。予想された障害は全く無い。せいぜい、鍵のかかったドアを破壊するのに、爆薬を設置する時間がかかったぐらいだった。23
2021-01-23 22:06:00《こちらБ班。爆薬を3ヶ所に設置しました》《Е班、定時連絡。資材エリアに到達。これより探索を開始する》他のチームも順調に進んでいるようだ。「本当に何もないね」「そうですね」「どうして深海棲艦はここを守っていたんだろうね?」エルヴィナの問いかけに、傍らの隊員は少し考えた。24
2021-01-23 22:09:00「戦略的価値があったからでしょうか」「無いね。主要な輸送ルートからは外れている」「上陸戦のための橋頭堡?」「それも無いね。3年以上占拠されていたけど、ここから深海棲艦が攻め込んでくることはなかった」「……住みやすいから?」「もっといい場所があるさ。ここの港は小さい」25
2021-01-23 22:12:00「何かがあるはずなんだ。多分、それはこの先に」エルヴィナたちはサーバールームに繋がる廊下の前まで来ていた。「こちらА班。サーバールーム前に到達」《こちらБ班。爆薬を設置。あと2ヶ所ですね》《Е班、定時連絡。……すまない。どう説明すればいいかわからない》「どうした?」26
2021-01-23 22:15:01《ここは資材エリアではないようだ。鉄格子付きの牢屋が並んでいる》「ああ。実験体を閉じ込めていたのかな?」《いや、それにしても妙だ》「え?」《牢屋は無数にあるが、全て空で……だが、1部屋だけ、無数の骨が積み上がっている。人の骨が、山になっている》27
2021-01-23 22:18:01《おい、そりゃああれだ、気をつけろよマカール。近くにロクでもない奴がいる証拠だ》Б班の班長が言った。《多分、アンブレラの人食いの怪物だよ。背後とかダクトに気をつけろよ?そういう所から襲いかかってくるって、相場が決まってんだ》《いや……うむ、そうだな。警戒する》28
2021-01-23 22:21:00「念のためだ。Е班は合流地点に戻れ。何かが潜んでいるなら、退路は確保しておきたい」《了解》「Б班も爆薬を設置し終えたらすぐに撤収。僕たちも、サーバーからデータを回収したら戻る」《了解しました。気をつけてくださいよ、隊長》29
2021-01-23 22:24:00通信を切って、エルヴィナたちは廊下を歩き出した。既に建物の奥深くまで潜ってきている。外の光は一切無い。丸いライトの明かりが3つ、行く先を照らす。その1つが、不意にブレた。「どうしたの?」「いえ、今の、顔?」ライトが不審げに行く先を照らす。あるのはドアだった。30
2021-01-23 22:27:00「もう着いたんだ」エルヴィナはドアに手をかける。開かない。「また鍵か。ブリーチングを」「わかりました」隊員がプラスチック爆薬を取り出し、ドアに近付く。すると、エルヴィナたちの視界が白に包まれた。「ッ!?」目が眩んだ、と認識するまでに一瞬時間がかかった。31
2021-01-23 22:30:02エルヴィナが目を開くと、今まで歩いてきた廊下が白いLEDの光で照らされていた。施設の電源が入った。そう認識した瞬間、光が赤色に変わった。《不法侵入の形跡を確認。警備レベルをКрасныйに引き上げます》無機質な電子音声が廊下に響き、ブザーが鳴り響いた。32
2021-01-23 22:33:00《侵入者発見。資材エリアに3名、重要研究エリアに3名、情報エリアに3名。プログラムに基づき、全員の排除を開始します》電源と共に施設の警備システムが復活したようだ。「撤退しろ!走れ!」エルヴィナは叫び、走り出す。隊員2人も我に返り、後に続く。33
2021-01-23 22:36:023人の行く手を遮るように、壁から一条のレーザーが放たれた。「ッ!」エルヴィナはとっさにスライディングし、レーザーの下を潜った。爆薬を持った隊員も身を屈めたが、もう1人は間に合わず、レーザーに首を斬られた。「ロドノフ!クソッ!」「前を見ろ、前だ!」34
2021-01-23 22:39:00次のレーザーが迫る。足元、そして縦。エルヴィナと隊員はレーザーを飛び越え、更に壁に張り付いて避ける。何度かレーザーを避け、2人はドアに辿り着いた。「開かない!」ドアはロックされていた。「ネズ、爆薬を!」隊員が爆薬をドアに張り付ける。35
2021-01-23 22:42:00後ろからレーザーが迫る。2本。十字と×字。「避けろ!」エルヴィナは十字レーザーを屈んで避け、×字レーザーを飛び越える。だが、爆薬を貼り付けていた隊員は動きが遅れた。十字を避けた先の×字レーザーに胴を斬られ、上半身と下半身が別々に床に叩きつけられる。36
2021-01-23 22:45:00「ネズ!」「隊長……ッ!」それでも彼は最後の力を振り絞って起爆スイッチを押した。爆薬がドアと、そして隊員の死体を吹き飛ばす。出口が開いた。しかし出口は、レーザーの網によって塞がれた。避ける隙間も無い死の網がエルヴィナに押し付けられる。《お疲れさまでした》37
2021-01-23 22:48:00