あるところに白兎がおりました。この白兎、実はお父さんがおらずお母さんとふたりぼっちで暮らしてきたのですが、その生活は楽しく、白兎にとってとても幸せなものでした。
2021-01-03 21:04:31されど不運!白兎のお母さんは病に侵され、ぴくりとも動かなくなってしまったのです。まだ小さかった白兎だものですから、泣く泣く彼女は自らの巣穴を飛び出す他ありませんでした。
2021-01-03 21:06:06そうして辿り着いた先はなんとも沢山のご飯を持っている巣穴と家族。白兎は新しい居場所を見つけたました。
2021-01-03 21:07:04なんせその家族ったら、白兎にはとても冷たく当たり、ちっとも優しくしてくれなかったのです。 白兎は毎晩泣いたことでしょう。 「おかあさん、おかあさん」 しくしく、じくしぐ、泣いたことでしょう。
2021-01-03 21:09:02するとどうでしょう、その気持ちが届いたというのでしょうか。またしても彼女は幸運をものにしたのです。 その家族に不満を持っていた大人の兎が1羽。彼女に家族の行ってきた悪事を伝え、どうしたいかを問うてきたものだから白兎は小さな声で鳴きました。 「わたしをたすけて、ここから連れ出して」
2021-01-03 21:10:07ある日ドアノブは作られました。それは音楽室の真っ赤なドアに銀色の材料で作られました。 とても綺麗な装飾も鍵穴も一緒です。なんせ腕に自慢のある職人が作ったのですから。
2021-01-03 21:16:11職人はドアノブに言います。 「君はすごいんだ!何がすごいかだって?兎にも角にも君は魔法が使えるのさ」 ドアノブだって彼の言う事が分かったわけじゃないけれど、だけども自分は『魔法』が使えるのだと嬉しくなりました。
2021-01-03 21:17:16と言うのも、ドアノブは(いつからかは今ではもう忘れてしまったのですが)毎日のように魔法の国に行っていたからです。 事実としてドアノブは手足がありませんから魔法の国になんて行けるはずもありませんが、それでも頭の中は夢で溢れていました。
2021-01-03 21:18:40すると職人は言って聞かせるのです。 「鍵でカチリと音を立てるだけで開けたり閉めたりできるのさ。君は魔法使いなんだ。綺麗な音はあの音楽室での演奏にだって負けていないさ、君は笑顔の魔法が使えるんだ」
2021-01-03 21:20:02だからドアノブは確信しました。私は魔法が使えて、夢で見た魔法の国の住人はドアノブ一人だけではありましたが、それでもあの国のちゃんとした住人にドアノブはなれていたのです。
2021-01-03 21:21:03それからドアノブはトビラをくぐる人に言って聞かせました。 「私は魔法使いなんだ。兎にも角にも魔法が使えるんだ!」
2021-01-03 21:22:01だけれども不思議なことにドアノブの言葉を聞くと皆口を揃えてこう言います。 「いいや、いいや。君はただのドアノブで、魔法なんか使えやしない。それに魔法使いなんて見た事がないよ」 そう、冷たく突き放すのです。
2021-01-03 21:23:04ドアノブは職人にとても優しく褒められて日々を過ごしてきたものですから、その度にとても傷付いてしまいましたが、それにも負けないくらい職人はドアノブに向かって言います。 いつもの言葉を、優しく愛おしそうに言うのです。
2021-01-03 21:24:10「ま、このドアノブは職人に洗脳されていたもので、本当は魔法なんて使えないただのドアノブで間違いなかったんだけどね!あーあ、可哀想なドアノブ!」
2021-01-03 21:25:31