燭へし同棲botログ：××の日、よたび

燭へし同棲bot @dousei_skhs

【××の日、よたび】 「長谷部くん、ピロートークをしよう」 「何を言っているんだ……」 あ、引いたな。一目でそうわかる表情で、長谷部くんは僕を見た。 「だからピロー、」 「ああわかった、わかったから」

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聞き分けのない子どもをいなすように、長谷部くんは手を翳して僕の言葉を遮った。はあ、と小さな溜め息のあと、自分の掛け布団をめくって「ほら」と言い、そのまま僕の身体がベッドに潜り込むのを見守ってくれる。

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ピロートークなんてこれまで何回もしてるのに、どうして長谷部くんは今怪訝な顔をしたのか。それは僕たちが今、“なにもしていない”からだった。

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本来ピロートークというのは、そういうことをしたあとのもの。だからなにもしていない、それどころか今まさに普通に寝ようとしていたところでピロートークなんて言われたら、それは長谷部くんだって（眠気も手伝って）眉間に皺を寄せるだろう。

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端的に言えば、僕は長谷部くんと一緒に寝たかっただけだ。それなのにこんな言い回しをするなんて、自分でもおかしいと思う。いつもだったら、なにもしないから一緒に寝ようなんて平気で言えるのに、なんだか今日はだめだった。……だめな日、だった。

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「光忠」 「……うん」 「……眠れそうか」 「…………」 「……ふふ。仕方ないなあ」 眠たい声で少し笑って、長谷部くんはごそごそ動いて僕の腕のなかにゆっくりおさまってきた。──ああ。長谷部くんには、今日の僕のもやもやした心のうちなんてすっかりばれているんだ。

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「特別に抱き枕になってやろう」 「…………え、いいの」 「自分から来ておいてなんだそれ」 「ごめん」 「いいよ。ピロートークは出来ないかもしれないが、聞くだけでいいなら、寝ながら、聞く……」 そう言いながら、長谷部くんは既にとろとろ夢の世界に片足を突っ込んでいるようだった。

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ピロートーク、つまり会話は出来ないけど、僕がもやもやを吐き出す場は作ってくれるということだろう。……どこまでも僕を甘やかすのが上手い人だな。 「…………あのね、長谷部くん」 「……うん」

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腕の中の体温と呼吸、香り、たまに聞こえるくぐもった声。その全てに、感情がほろほろ解れていく。 ──夜はまだまだ、これから深い。 【了】

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【管理人より】夜分に失礼いたします。もう少しで睦月も終わろうというところですが、本年最初の更新となりました。あけましておめでとうございます。本年もゆっくり歩んで参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

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(余談です。毎年この日に更新している××の日シリーズ、今年はどう頑張っても間に合わないと思ったのですが、よく見たら日付が変わるまでまだ一時間ほどありました。駆け足で更新したので普段に輪をかけて怪しい部分があるかと思いますが、ご容赦頂けますと幸いです。申し訳ありません)