「あの"初心"の二文字はとても重い言葉なのです」ドラマ『俺の家の話』3話を能楽師が解説

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介護×能をテーマに扱ったドラマ「俺の家の話」

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劇中の衣装・小道具について能楽師の方が解説

喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

能楽 シテ方喜多流職分 重要無形文化財総合認定 能楽協会理事 日本能楽会会員

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喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

#俺の家の話 能楽師から見た3話の解説・感想  ここはスーパーゼアミマシーンの装備と性能を語るしかないかなw まずは装備。ガウンは能装束で特徴的な二幅の袖の衣装を模していると思われます。 例えばこの白い衣装は「長絹(ちょうけん)」と言いますが袖の部分が2ブロックあります。(続く pic.twitter.com/xlZXmNHiC1

2021-02-08 22:16:45
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喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

有職故実の装束では(いわゆる本物の装束)は大概1.5幅ですが、二幅にして袖が長くなることにより「袖を返す」「袖を被く(かずく)」「袖を巻く」という表現ができるようになります。ちなみに謡に出てくる「袖を返す」という言葉には「舞う」という意味があります。(続く pic.twitter.com/BDXIZos91M

2021-02-08 22:16:48
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喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

次に能面(モドキ)ですが姿を見た寿三郎が「マンピのオモテをつけている」と発言します。漢字で書くと「萬媚の面」萬媚は面の種類、そして能楽界では「面」とかいて「オモテ」と読みます。能楽師が「おめん」という時は能面ではないもの、能面とは認められないものを指しています。(続く

2021-02-08 22:16:49
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

ちなみにドラマでは能の実演場面で使われているもの以外は「おめん」なので心配しないでください。 さて能面の種類は約200種類以上。定番のものだけなら60種類と言われています。「萬媚」は女面の部類に入ります。 さて4つ写真を入れましたがどれが萬媚でしょう。ヒントは「萬に媚びる」(続く pic.twitter.com/7pV2VWdjsM

2021-02-08 22:16:50
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喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

正解はこちら。喜多流では小面が女面の基準です。「萬に媚びる」の名前の通り萬媚は口角が上がり瞳も大きく色っぽい感じになります。また髪の毛の線(毛描き)が少しだけ乱れています。増は神気を持った女性。曲見は中年女性の役に使われます。毛描きも見比べてみてください。(続く pic.twitter.com/JLyNs5qxXS

2021-02-08 22:16:51
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喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

またこれはよく知られていますが角度で表情が変わります。上に向けるのを「テラス」下に向けるのを「クモラス」と言います。表情が曇るはここからきてるとか。無表情に見えますが人間のすべての表情が統合されているため、見るひとの気持ち次第で表情が変わって見えます。 pic.twitter.com/OejsyzXIb8

2021-02-08 22:16:53
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喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

流儀によって違いはありますが大体標準の面は小面・若女です。おめんに作られるのはその二つか般若と相場が決まっているのですが、「萬媚のおめん」があったのは衝撃(笑劇)でした。というか私はあれを遠目にみて能面に認識できません。確かに毛描きは萬媚っぽいですが…さすが人間国宝です。(続く

2021-02-08 22:16:53
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

さて最後に「初心」シャツ世阿弥の言葉「初心忘るべからず」からきているのでしょう…多分 この言葉、入学式や結婚式の祝辞で「始めの謙虚で真剣な気持ちを持ち続けていこう」という意味で使われることが多いですが世阿弥の書きようは少し違います。(続く

2021-02-08 22:16:54
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

世阿弥の著書「花鏡」に しかれば当流に 万能一徳の一句あり 初心不可忘 この句、三箇条の口伝あり 是非初心不可忘(ぜひのしょしんわするべからず) 時々初心不可忘(じじの…) 老後初心不可忘(ろうごの…) この三、よくよく口伝すべし とあります。(続く

2021-02-08 22:16:54
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

ここでの「初心」とは「初めての心」ではなく「初心者」の初心「初心=未熟さ」です。 是非の初心は若い時に最初だめでもできるようになってくると若さ故に万能感を覚える時がありますよね。その時に慢心せず、初心からできるようになった過程を忘れず、それを積み重ねてゆけと戒めています。(続く

2021-02-08 22:16:54
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

時々の初心は、青年〜壮年期に渡りその年代にあった芸を身につけた過程を忘れてはいけない。獲得したものをその場限りで捨て去らず、その時々に破った壁のことを思いだし、その都度の始まりをやり直せ。時間の矢は一方向に過ぎ去るが芸道は円環となって積み重ねなければならないと説いています(続く

2021-02-08 22:16:55
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

老後の初心は、老いて動けなくなるのだから動かないやり方をするしかない。これこそ年老いてから与えられたまさに「初心」である。今まで蓄積された芸をそのままでは使えなくなるが動かなくなった身体に向かい合って新しく解釈し経験しなおせとあります(続く

2021-02-08 22:16:55
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

この後には 「生涯を通じて初心を念頭においてゆけば芸は向上する一方で退歩しない。だから上達の限界を見せないで生涯を暮らすことが芸道の奥義として子孫を導く秘伝だが、自分が初心を忘れてしまっては子孫に伝わらないので重々初心を忘れぬように」 といった意味の文章が続きます。(続く

2021-02-08 22:16:55
喜多流 能楽師 金子敬一郎 @kita_kaneko

つまりあの「初心」の二文字はとても重い言葉なのです。なんたって世阿弥をして「万能一徳の一句」と言わしめていますから Tシャツ売ってるそうです。 あの二文字を腹に抱えて生きる。格好いいじゃないですか!是非皆さん着こなしてください! スーパーゼアミマシーンの「性能」の方はまた後日(終了

2021-02-08 22:16:56