破戒僧が魔物をおしおきする話。4

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江口フクロウ@眠み @knowledge002

太陽は真上、真昼も真昼だと言うのに久方ぶりに見る町はやけに陰って見えた。 やっとの思いで帰ってきたというのに、まるで廃墟のように人気がなく。 ただ、広場に一人。 男が立っているだけ。

2021-02-19 00:36:08
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「あれは…」 「あの時の冒険者…?」 「うん、戦士をナンパしたやつだ。間違いない」 「今それを言うな」

2021-02-19 13:48:49
江口フクロウ@眠み @knowledge002

元より恵体、というほどたくましいわけではなかったが。 浮かぶ隈とやつれた佇まい。胸に本のような形をした黒い何かを抱えた男の目が一行を捉えると、不意にその動きに生気が漲る。 「やる気ね」 「疲れてるんだけどなぁ」

2021-02-19 13:56:37
江口フクロウ@眠み @knowledge002

荷を捨てるが早いか、言い切るが早いか。 男が口を開く前に勇者が既に跳んでいる。 「殲闘技、第一軌道。爆地」 身体能力に関わらず行使者を一定の高速で動かす技芸は疲労で重い身体にも関係なく敵の元へ斬撃を運ぶ。最初から加速なしで最速へ到達するこの殺戮技巧を目視していては防御すら不可能。

2021-02-19 14:08:41
江口フクロウ@眠み @knowledge002

勇者にあるまじき奪命の為だけの剣撃はしかし、人でないものに防がれることとなる。 本だ。 「うそっ…!?」 男が抱える本らしきものから突然生えた軟性の太い蔓が勇者の胴を打ち据え弾き飛ばす。

2021-02-19 14:15:30
江口フクロウ@眠み @knowledge002

『や、やっと…見つけた…』 「勇者平気!?」 「大丈夫、吹っ飛ばされただけ!…なんだ、アレ」 『ああ…やっと…お前を…お、ま…』 本から、さらに蔓が、触手が生え始めていた。男の息が荒くなるほどに触手は止めどなく溢れていく。

2021-02-19 14:21:13
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「これは、やっぱり…僧侶?」 「…ええ。わかってはいました」 『見つけたぁぁぁぁぁぁ!!!!?』

2021-02-19 14:25:58
江口フクロウ@眠み @knowledge002

男が突然いやに甲高い叫びを上げたと思うと不規則に生え続けた触手が徐々に撚り集まり、不意に、彼の胸を貫いた。 血は、零れない。 両手でかきいだく本が身体へ沈み込んでいく。貫かれた胸から浸食するのは影のようにどこまでも深い黒色。 影は形も変えていく。

2021-02-19 14:32:19
江口フクロウ@眠み @knowledge002

男の両脚は一本に纏まった後末端で枝分かれし地面へ根差すように突き刺さり。 胴から腕もそのまま癒着し黒く染まり上がって、肩口からは太い触手が四本と、少し細いものが後から幾本も繁る。 顔には牙が、頭には、血走る四ツ目が。

2021-02-19 14:39:56
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「森の、狼と同じ…!?」 「その通りです、勇者さま。私は既にあの時から捕捉されていた」 『みづげだ』 完全に異形と化した男を前に、僧侶は変わらず淡白に、淡白に、僅かに杖を持つ手を震わせながら。 「覚えがあります。黒騎士に一定の形はなく、時にあのような形で私を甚振りました」

2021-02-19 14:47:36
江口フクロウ@眠み @knowledge002

戦士が最前に立つ。体勢を立て直した勇者が並び立ち、魔法使いが口の中で詠唱を始める。 「黒騎士はその影を人の心へ滑り込ませ、犯す。あの本が呪具です」 「だろうな。…いけるか?」 「無論です。見てください、こんなにも震えている。今にも頽れそう」

2021-02-19 14:50:28
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ふっ。俺たちのノリがわかってきたな?」 「ええ、ふふ。本当に、憎たらしい」 震えは、地面へ杖を突き立てると同時に止まった。 宙空に波紋を浮かべながら現れた聖鎖が幾筋も首をもたげるように揺れる。 「本体ですらないのに屈しそうになる。身体が覚えているのです。でも、私は」

2021-02-19 14:57:36
江口フクロウ@眠み @knowledge002

『ゔぁぁぁぁぁ?』 「もう神の使徒でも、お前のものでもない。始めましょう」

2021-02-19 17:21:59
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