- kankancank28207
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本編
広島在住・小説家。 『悪役令嬢、セシリア・シルビィは……』とか『妻を殺しても……』とかを書いてます。 仕事履歴などは、リンクにあるブログへ。 新規のお仕事やスケジュール確認は、下記の連絡フォームからお願いします。 桃とメロンとスイカが好き❤ 連絡フォーム⇒bit.ly/2FNZRML
【毎朝、奥さんを殺そうとする話】① 「0.061%」 僕の朝はいつも眼鏡型のPCを起動して、ある未来予測をチェックするところから始まる。 「まぁ、当たり前か」 ここのところ、この数字が1%以上になったところを僕は見ていない。 『妻を殺してもバレない確率』 僕が設定した未来予測の条件だ
2021-02-25 11:35:16条件を入力すれば自宅のパソコンで簡単な未来予測が出来るようになったのはもう15年も前の話。様々な用途で使用されるソレを僕も例外もなく使わせてもらっていた。 妻とは所謂、政略結婚だった。僕の祖父が経営する会社に資金援助することを条件に妻の父、今の義父に当たる人が僕に政略結婚を
2021-02-25 11:35:16迫った。見た目も普通、何か特別出来ることがあるわけでもない僕を望んだのは、ひとえに彼女が会った事もない写真の僕を気に入ったからだった。 「貴女を愛せるとは思えませんが、それでも良ければ」 そう彼女に言ってのけたのが10年前だ。そして僕らは結婚した。
2021-02-25 11:35:16別に恋人がいたわけじゃない。彼女の見た目だって悪い方じゃない。祖父の会社は潰れるのを免れて、僕は義父の会社の次期社長だ。何もかも万々歳。世間的には、一般論的にはそうだろう。だけど僕はそうは思えなかった。 金で買われたという思いが強いからか、僕は彼女をそっと恨んだぐらいだ。
2021-02-25 11:35:17嫌なら首を横に振ればよかったのだろうが、状況的にはそうも言ってられなかった。祖父の会社はあと幾日も持たないだろうというところまで来ていたし、もし倒産なんて事になった場合、頑固一徹で責任感ばかり強い祖父が自らの命をお金に換える選択をしないわけがないとどこか確信していた。
2021-02-25 11:35:17命と莫大な借金が僕の身一つで救えるのだと言われたのだから、僕はそれを許容するしかなかったのだ。 「君を殺して僕が君の受け継ぐ莫大なお金を独り占めするかもしれない。それでもいいかい?」 結婚したての頃、何気なく彼女に言った言葉だ。
2021-02-25 11:35:18彼女は一瞬驚いた顔をして、そして微笑みながら首肯した。 「いいわ。それまでに私が貴方を陥落させればいいだけの話でしょ?」 挑戦的に言ってのける彼女がどこか勇ましい戦士のように見えて、一瞬目を見張った。そして、その日のうちに『妻を殺してもバレない確率』とメガネ型PCに入力した。
2021-02-25 11:35:18簡単な質問に答えた後、ウェアラブル端末が状況を的確に把握して、確率を出す。最初に出た数字が『38.235%』だった。意外にも高い数字にびっくりして固まる。4割近く出るなんて! と思ったが、明日から確か妻は旅行だと思い出した。それも一人っきりの旅行だ。
2021-02-25 11:35:19旅行に行ったと見せかけて殺すなんてのはアリかもしれない。 「旅行に行くと見せかけて、君を殺そうか? 4割ぐらいは成功するらしい」 「そう、頑張って。お土産は何が良いかしら?」 飄々と言ってのける彼女が面白くて、「殺せないと思ってる?」と聞くと、
2021-02-25 11:35:19「いいえ、もし殺されたらそれは私の努力が足りなかった所為だわ」と凛とした瞳で返された。 彼女を見送って、僕はまた一つの未来予測をした。 『半年後、妻の事を愛している確率』 『0.001%』 そうだろうな、と一人納得した。
2021-02-25 11:35:19面白い女だとは思っても、彼女に対してあまりいい感情を持ってないことは事実だ。半年ぐらいでそれが変わるとも思えない。 数日後、旅行から帰ってきた彼女にそのことを告げた。少し反応が楽しみで、期待していると、「そう」と返しただけだった。正直拍子抜けした。
2021-02-25 11:35:20「君は僕の事を憎からず思ってるのだと思ってた」 結婚相手に望むぐらいだから愛してはいなくとも、いい感情は持ってるのではないかと思ってた。しかし彼女はどうでもよさそうに一言発しただけだ。泣いてくれとまでは言わないが、せめて悔しがる顔を見たかった。
2021-02-25 11:35:20「……次は私をどうやって殺す予定か聞いてもいいかしら?」 「は?」 「貴方、旅行に行く前に『旅行に行くと見せかけて、君を殺そうか?』って言っていたじゃない? 待っていたのに。来てくれたらきっといい新婚旅行になったわ」 「殺されたいのかい?」 「できれば貴方に愛されたいわ」
2021-02-25 11:35:20意味が分からない女だと思った。彼女の前でメガネ型PCのスイッチを付けてもう一度未来予測をする。 『妻を殺してもバレない確率』 『12.253%』 10回に1回はバレないのか。結構な確率だ。 夜中に部屋で二人っきりだと大体このぐらいか。そう頭に留める。
2021-02-25 11:35:21「今は12%ぐらいだからね。やめとこうかな。もし殺すなら、旅行から帰ってこなかったって事にして、死体はどこか近くの道路に置いておくよ。通り魔にでもあったと思うだろう」 「それなら、近くの公園が良いと思うわ。あそこ不審者が出るって有名だから」 「……君が何を考えてるのかわからない」
2021-02-25 11:35:21「私はあなたに愛されたくて必死なだけよ」 そんな彼女に剣呑な目を向ければ、彼女は薄く笑ってお土産だと包み箱を渡してきた。 「捨てるぞ」 「貴方にあげた物だから自由にして構わないわ」 そういう彼女に一矢報いたくて、僕は勢いよく箱をゴミ箱に放った。
2021-02-25 11:35:21そして、得意げに彼女の顔を見て、少し後悔した。悲しそうに眉を寄せてその箱を見つめる彼女。その瞳を見たくなくて、僕は慌ててあてがわれた部屋に帰った。 結婚はしていたけれど、勿論部屋は別々だった。彼女を抱く事は無いと思っていたし、
2021-02-25 11:35:22彼女もそんな僕に抱かれたいわけがないと思っていたからだ。 そんな殺伐とした生活も半年が過ぎた。僕は朝が始まると布団から出るよりまず先に『妻を殺してもバレない確率』を調べる。そして、布団から出て身支度を整えて、リビングに行くのだ。 「今朝は15%だった」
2021-02-25 11:35:22「あら、じゃぁ安心してもいいのかしら?」 「わからないぞ。もしかしたらその珈琲に僕が毒を仕込んだのかもしれない」 「私がさっき淹れたばかりなのに?」 「昨日のうちに仕込んでおけば可能だよ」 「じゃぁ、心中しましょう。はい、貴方の分」 「どうも」
2021-02-25 11:35:22勿論、毒など入っていないその珈琲を手に取って僕は席に着く。そうして彼女が作った朝食を食べるまでがいつもの流れだ。 それ以外にまともな会話をしない日もあるが、僕はそれに多少の居心地の良さを感じ始めていた。不干渉なところがいい。勝手に出てくる朝食も、夕食も魅力的だ。
2021-02-25 11:35:23だけどそれは愛とは別の感覚で、『愛しているのか?』と問われれば答えは確実にNOだった。 そしてそのまま2年が経った。夫婦としては壊れているかもしれないが、家族としては機能してきたと思えた矢先。彼女は僕とデートに行きたいと言ってきた。 「僕は行きたくない」
2021-02-25 11:39:02「私は行きたいわ。今日は水族館にしましょう!」 「僕は君を愛していない。好きでも何でもない」 「でも、私はあなたを愛しているわ」 だからどうしたと思った。どうして今更普通の夫婦のようになれると思っているのだろうか。苛立たし気に無言で彼女を見つめていると、
2021-02-25 11:48:11ゆったりとほほ笑むのが見て取れた。 「貴方いいのかしら? せっかくのチャンスをふいにするつもり?」 「何のことだ?」 「今私の誘いに乗ったら、私を殺せるかもしれないって事よ」 「僕はただ君を殺したいんじゃない。バレずに殺したいんだ。捕まったら意味がない」
2021-02-25 11:48:12