ギガベース日誌 ACT08「PHANTASMA BEING」07

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「オーメルの連中はゲロったか？」 「いいえ、まだ一人も」 「ラインアークのアホ共への聴取は？」 「ガンビアが進めている」 「長門は？」 「もう3時間になるが、変わらない」 「引き続き厳としろ。58には羊羹でもくれてやれ」　#ギガベース日誌

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「ラインアークから通達。ネクスト用格納庫を占拠していた敵方の艦娘が自爆したらしい。本来あの傭兵が乗る機体だったが潜入していた艦に先手を打たれた、といった所か……」 急を要する仕事を全て完了し、DfJは弱った身体を休めながらグラーフと不知火からの報告に耳を傾けていた。　#ギガベース日誌

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「自爆か。機体が無事ならそれでいいが……回収までまだかかるだろうし、少し寝るかな」 「大淀さんの尋問がまだですが」 「寝ると言った。妖精共が調子を取り戻したら起こし……」 DfJが思考を止め会話を拒絶する体勢に入りかけた瞬間、艦内に58の声が響いた。　#ギガベース日誌

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「たっ、えーと、哨戒潜航隊から全員に連絡！！レーダーに感あり！不明物体1、サイセターへの直撃コースでぶち上がって来るでち！！！」 「あぁ？！58俺だ！回天で膜張って止めろ！！」 「もうやってるよぉ！！突破されたけど！！！」　#ギガベース日誌

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それは帰るべき場所を目指し、深淵より浮上し続けた。 一度は引きずり込まれながら、今度はその背を蹴り押されて。 「識別はァ！！」 「IFFに友軍反応無し！！最悪深海連中の特攻だよぉ！！」　#ギガベース日誌

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海上を警戒していた天龍と神州丸が位置情報を確認し、身構える。 「どうする提督。長門かどうかすらわからないが、最悪殺しちまっていいか？」 「許可する！ヤバいと思ったら遠慮なく交戦しろ！俺も後から混ざりに行く！」 「心強い限りでありますなぁ……」　#ギガベース日誌

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DfJと共に行動していたため、シャングリラの広域認識汚染の被害から免れた天龍達。そのコンディションは万全に近いが、仮に深海棲艦化を果たした最精鋭戦力たる長門に彼女達がどれだけ通用するのかは神のみぞ知るところだった。 「海面まで間もなく……来る！！」　#ギガベース日誌

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直前で軌道を曲げ、直撃ではなく近傍に浮上したそれは、とてつもない量の海水を巻き上げた。 やがて天龍達の眼に映ったそれは、自分を取り巻く状況を理解できていないままに口を開いた。　#ギガベース日誌

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「天龍？何やってんだお前。って、ちょっと、何だ。その槍こっち向けるな」 「……コイツは」 「長門殿、に見えますなぁ」 浮上した長門らしき存在は、明瞭な発話で以て理性を証明していた。 しかし、それで警戒を解く精鋭艦ではない。　#ギガベース日誌

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「提督……艦影を確認。長門だ。会話もできる」 「堕ちてないのか？！見た目は！」 「それが……少し妙だ。会話しても？深海のクソが長門の真似してるかもしれない」 「構わん。他の艦も集めておく。で、見た目はどうなんだ！」　#ギガベース日誌

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長門の容姿は、最後に確認されたものから相当の様変わりを遂げていた。 濡れ羽色の髪には脱色したような白色のラインと栗色の部位が混じりあい、顔面の左側は深海棲艦共通の黒色物質に覆われている。 頸部に負っていた筈の損傷は、痕を残しつつも完全に回復していた。　#ギガベース日誌

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落下前に大半の艤装をパージしたにも関わらず、左腕には空母の飛行甲板を思わせる板状のユニットが癒着している。 纏っている衣装のみが正常を保っているが、天龍はそれが不気味に思えて仕方なかった。 「無視かよ！指揮官代理だぞ！あぶねーもん向けるな！」　#ギガベース日誌

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「……お前、本当に長門か？ギガベースの」 「私が何に見えているのだ。その眼帯、オシャレしたいのはわかるが視界の邪魔になるなら外したほうが良いんじゃないか」 「神州丸、鏡あるか」 「無いので写真撮りました。長門さん、パスでありまーす」　#ギガベース日誌

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神州丸が放り投げたPDAをキャッチし画面を見た長門。その視線が、無言のまま画面と天龍達を行き来した。 「……これ、マジ？」 「自覚ねえのかよ！！お前、どこまで覚えてるんだ。戦闘が終わってからこの数時間、深海で何してやがった！」　#ギガベース日誌

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「いや、えぇ……そうか、そりゃこうもなるよな……こんな見た目の女が出てきたら……天龍、私があのサラトガに噛みつかれて……そのまま甲板から落っこちてからどれぐらい経った？」 「3時間とちょっと」　#ギガベース日誌

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「その間、お前はゴーヤ達のレーダーに引っかからない程の深度にいて、今になって急に浮上してきやがったんだ。説明できるか？俺達は、最精鋭戦力が深海棲艦化したか、あるいは深海棲艦がその姿を模倣して出てきた可能性を捨てきれていない」 「陸奥ならわかると思うんだけどなぁ」　#ギガベース日誌

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「言っとくが提督も同じ意見だ。アイツは疲れてる上にオーメルの連中が辛抱強くてイラついてるだろうから、長引かせたら気まぐれで撃沈命令が出かねないぞ」 「わかった。説明めっちゃする。ただ……なんだ。かなり抽象的っていうか、朧気な記憶しか無いから、それは承知で聞けよ」　#ギガベース日誌

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気づけば、何も見えない領域にいた。 重力に抱かれた身体は、心地良い抵抗と水圧に包まれ、ただひたすらに底を目指していた。　#ギガベース日誌

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それが、実際に起きていた光景なのか、半覚醒の自我が見た幻像なのか定かではない。 しかし、確実に、艦娘長門は、オリジナルの戦艦長門の残骸とともに、太平洋の底を目指していた。　#ギガベース日誌

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見渡せば、記憶にこびりついた顔が並ぶ。インディペンデンス、ネバダ、ペンサコーラ、アンダーソン。 そして、航空母艦サラトガ。　#ギガベース日誌

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黒い海で際立つ純白の軍服を纏う艦娘としての彼女が、オリジナルの艦首に腰掛けていた。 「……酷い、油断でしたね」 「あぁ？」 「猛る余りに、サラをいたぶる事に執着したでしょう。おかげで貴方を引きずり込む事ができました」　#ギガベース日誌

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「此処は……」 「何処にいたって変わりません。底に着いたとしても、いつかはまた建造される。金型で成形される部品のように、新しいサラトガと長門が生まれる。無限回のトライの内の、1回がサラと貴方」 「もう少しわかりやすく言えってんだポエマーがよ……」　#ギガベース日誌

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「……艦娘は全て、深層情報から生まれます。船体、海域、記録、あらゆる形式で残留したそれを人格となるまで調整し、船体に与える。サラと貴方は船体が壊れたから、これから全て発散して海中に溶けていくだけ。理解できました？」 「えっ、私死んだのか」　#ギガベース日誌

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「船体の損傷が軽度なのでまだですが、これから溶けるでしょうね。幸福に思いましょう。オリジナルの側で逝ける艦娘なんて、まず存在しないのだから」 「オリジナル……」 艦の亡骸達は、長門達と共に、少しも離れることなく沈降を続けている。 まるで、子供を慈しみ寄り添うように。#ギガベース日誌