白御影の階段

寺生まれの毛利さんシリーズ5話目です。二部構成のお話の前編。  ※オリジネタ プロフ絵変更に失敗して2種類絵が出てます。
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種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null それは白石作りの思いの外しっかりとした階段で、一段一段の高さがやけに高い。踏み飛ばしたりするのは難しいだろう。先の方は木々に隠されてしまって見えないが、おそらく毛利はここを上ったはずだ。そう確信して、俺は足を階段にかけた。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:02:01
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「……!?」その瞬間、夏だというのに全身に冷水をぶつけられたような気分に陥った。涼しいなんてもんじゃない。寒い。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:03:34
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null バッと階段から足を外すとその感覚は露と消える。バクバクと心臓が激しく脈打ち、ドッと冷や汗が噴き出た。なんだ、今のは。心臓の音と共に、蝉の声がやけに耳につく。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:04:55
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「何をしておる。早く来い」急に聞こえた毛利の声にバッと顔を上げるが、姿は見えない。だが、間違いなく階段の上の方から聞こえた。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:05:58
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 頼りないながらも明かりのある道路と違って、階段の上の方には光が届いていない。このまま上っていいものかと一瞬迷ったが、ここに残っていてもしょうがないだろうと意を決してもう一度足を踏み出した。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:06:53
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 寒い。だが、堪えられないほどではない。さっきは不意を突かれたために感じる事も出来なかったが、その寒さはけして嫌なものではなく、むしろ雪の振った冬の朝のように清らかだった。階段を見上げる。先は闇に沈んでいたが、不安は感じない。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:07:49
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 一段、また一段と踏み締めるように足を進める。寒さにはすぐ慣れた。いや、始めから精神的なものだったんだろう。吐く息の色は変わらないし、滲んだ汗がひどく冷たく感じる事もない。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:08:45
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null (八、九)気持ちに余裕が出てくると、今度はなんとなく上った段数を数えてみる事にした。初めはとてつもなく高く感じたが、慣れてしまえばなんという段差ではなく、トントンと軽快に上がる。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:09:20
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null (十二、十三)十三段目を踏みしめた所で階段は途切れた。少し平らな道が続いているようだ。もう下の方の明かりはほとんど届かず、木々の間から漏れる月明かりでうっすら白く浮き出る道を見分ける。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:10:09
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 少し行けばすぐ次の階段が始まり、今度は一段目から数えてみた。(一、二、三……十三)また十三段目で階段が途切れた。ピタッと足を止める。ただの偶然だろうか。いや、この階段は明らかに人為的に作ったものだった。ならば、この数に意味がないわけがない。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:11:02
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 治まっていた心拍数がまた上がり出し、呼吸も荒くなる。歯が鳴りそうになるのを食いしばって耐えた。この先に何があるのかはわからない。だが、この先に行かねばならないのだという確信だけが頭を支配している。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:12:03
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 震えながらも足は動き出す。森が深くなっているのか、所々暗くて何も見えない所があるが、真っ直ぐな道なので迷いようはない。カツンと靴の先端が何かに当たる。階段だ。深呼吸をして、足を振り上げた。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:12:57
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null (一、二、三……)さきほどまでよりずっと遅いペースだが、それでも確実に段を踏み越していく。(六、七、八……十二)十二の所で足を止めた。月が隠れでもしたのか、先はもうほとんど見えない。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:13:55
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null (大丈夫だ、何も起こりゃあしねぇ。目も熱くならねぇし、前みたいに殺気が飛んでくるわけでもないんだ、ビビるんじゃねぇ)自分自身を叱咤して気合を入れ直す。まだ何かが出てきたわけでもない。こんな所で立ち止まっていられるか。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:14:48
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null (十三……!)ダンッ!と足に力を入れて最後の段を上がった。やはり、何も起こらない。考えすぎだったんだと思うと笑えてきさえする。そうだ、十三なんて普通にある数の一つじゃねぇか。何をビビる必要がある。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:15:53
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null そう考えると身体が一気に軽くなった。目が暗闇にも慣れてきたためか、光なしでもぼんやりと白い道が見える。元々何も出てきそうもないくらい澄んだ空間なんだ。気に病むだけ無駄というものだと勇んで歩き出す。毛利はもう少し先に居るのか、近くに気配はない。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:17:09
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null つま先が新たな段差に触れるが、もう怖気づく事はない。トントンと軽快に足を運ぶ。(十、十一)残るは後二段という所で、ふとある事を思いついた。十二段目を抜かしてみたらどうだろうかというものだ。そうしたら、少なくとも俺は十二までしか踏まない事になる。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:18:11
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 確かに段差は高いが、俺の体格なら無理というほどではない。急に思いついたにしては名案な気がして、思わずニヤリと笑う。この階段を作った奴を出し抜いてやろうというわけだ。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:19:23
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 大きく足を上げて膝より少し高い位置を探る。少し離れた所に平らな所を見付けてそこに足を乗せ、もう片方の足で地面を蹴る。筋肉を駆使し、一気に一番上の段に身体を乗せた。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:20:28
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null (十、二っと!)何故だか強い達成感を覚え、ニヤニヤと上がる口端を止められない。しかし、四つの十三階段だなんて凄まじく嫌な数だ。これで終わりなんだろうかと意識を張り巡らせると、何かの気配を感じた。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:21:33
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「何をしておった。あまりに遅いので夜が明けるかと思うたわ」なんて事はない。先にたどり着いていた毛利だ。その瞬間雲が晴れたのか、サァと毛利の姿が闇に浮かび上がる。まだ、少し距離があるようだ。足元は木の影が落ち、依然見えない。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:23:05
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「テメェが道案内もせずスタスタ歩くか……っ!?」すぐに近寄って文句を言ってやろうと思い足を踏み出すと、固い何かに躓いた。幸い反射神経は悪くないので慌てて体勢を取り直したお陰で、コケるのは避けられた。いったい何に躓いたのだと振り返って、硬直する。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:24:14
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null ザァ……と強い風が吹き、木々を揺らした。それが今まで足元を隠していた影を剥がし、上ってきていた階段の全貌を露にする。白い石の階段は、下から見た時と同じように段差が高くて下までは伺えない。そして今さっき俺が躓いたものの正体は―― #kaidan_bsr

2011-08-07 00:25:41
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 階段、だった。俺は、避けたはずの十三段目の上に立っていた。四つの、十三階段。それを全てしっかりと、踏み締めてきた。 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:27:05
種 一@刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@null 「………ようこそ、霊界へ」無機質な毛利の声が頭の中で反響する。いつの間にか、蝉の鳴き声は聞こえなくなっていた。 〈了〉 #kaidan_bsr

2011-08-07 00:28:55