01「うどん」
父はうどんを打つ名人で、「もしきょう俺が事故で死んだら葬式ではこいつを出してくれ」と、毎朝自分の葬式用のうどんを打っていた。2年後、わたしたちは実際にそうした。うどんをすする音と涙をすする音が混ざり合い、あまり悲しくなかった。うどんは白く、おいしかった。#マイクロノベル
2021-07-19 17:42:1802「官能庭師」
わたしはパンダ舎の官能庭師をしている。繁殖行為に及ぼうとしないパンダの住むパンダ舎を官能的にデザインし直す仕事だ。わたしはパンダの性的感覚が手に取るようにわかる、わけではない。ただいい庭を作るだけだ。しかしパンダはわたしの庭をエロく感じる。人生とはこういうものだ。 #マイクロノベル
2021-07-19 17:39:4203「阿佐ヶ谷」
お掃除ロボットの損傷が著しく、調べるとやたらと家のドアに激突していることがわかった。「外に出たいんじゃ?」と妻。まさか。しかし休日、お掃除ロボットは開け放ったドアから外に出ていった。後を追うと、どうやらJR阿佐ヶ谷駅に向かっているようだ。おもしろくなってきた。
2021-07-19 17:25:1204「ふりかけ」
かれこれ2時間、ふりかけのパックからふりかけが出続けている。こうなればもう止まらないだろう。先日3歳になった息子に、わたしの死後、ふりかけを継いでくれるかと尋ねる。死ぬ、という言葉が強烈だったのか、息子は泣き出してしまった。自由に生きさせてやりたかった。 #マイクロノベル
2021-07-19 17:21:5005「紳士のスポーツ」
人間の小腸は広げるとおよそテニスコート一面ぶんにもなり、そこに審判やラインズマン、ボールボーイなどが集まってテニスの試合が始まる。なお、公式試合においスポーツマンらしい清潔感のあるウェアの着用が求められる。#マイクロノベル
2021-07-19 17:35:4706「掃」
掃除機をかけていた妻がいきなり破水した。病院までの車中、後部座席の妻がうめきながら「名前は掃除機の掃って書いてハケルにしようね」と言う。ものすごい余裕だ。1時間後、ハケルはすんなり生まれた。ほら、これがいまのハケルの写真。いや、違う、これは例の掃除機の写真。#マイクロノベル
2021-07-19 17:31:0407「授業参観」
忍者業を営む父が授業参観に来てくれると言った。嬉しくてクラスメイトに言うと「忍者なんていないよ」とバカにされた。授業中、父の姿はどこにもなかったが、わたしは「忍んでるんだ」と思った。父が見ていると思うと緊張してしまい、算数の問題にも手を上げられなかった。#マイクロノベル
2021-07-19 17:28:3008「紅しょうが」
専務の不正経理を告発したわたしは「細切れの紅しょうがをつなぎ合わせて元のしょうがを復元する」という閑職を与えられた。明確なパワハラだ。しかし会社を辞める気はなかった。ある日のこと、つなぎ合わせた紅しょうがが拳銃の形になった。わたしはそれで専務の背中を撃った。 #マイクロノベル
2021-07-19 17:34:24