kawaitoshio archive 2016

川井俊夫 @toshiokawai1122

こいつは気分のいい仕事だ。俺に向いている。他にも同時進行で、カシューや透明な漆を塗りながら乾かし、磨き、また塗っては磨きしている、いくつかの木工品もある。更に錫器や銅器の手入れ。こいつは偽物造りと紙一重だが、べつに新物を仕入れて細工をしているわけじゃない。

川井俊夫 @toshiokawai1122

木工や金工類は磨きの他に、傷や凹みや破れがあれば簡単な補修をして、木工なら柿渋やベンガラ、カシューや漆を塗って磨き、金工なら補修して、必要なら磨いて平らにした後、酸を使う。主になる金属によって若干使う酸の種類に違いはあるが、作業の工程は同じだ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

そうしてタダ同然で仕入れたボロ道具の見栄えを整えてから、それなりの値で売る。偽物造りとは少し違う。べつに時代を偽っているわけでも、補修を隠しているわけでもない。本当にボロボロのゴミみたいな古道具を欲しがる人間なんてのは骨董屋だけだ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

一仕事終えて、外に出る。いい季節だ。俺は上着は玄関に掛けておくから、そいつを羽織るとき、いつも冷たい。外へ出て、その冷たい上着のポケットに手を突っ込んだとき、銅やアルミやニッケルでできた小銭が指に張り付く冷たい感覚が好きだ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

今夜は大気も澄んで、月もきれいだ。 俺は寒さや空腹に強い。他人が驚くほど薄着で、ものを食わずに冬を越せる。いったいどういう仕組みなのか知らないが、昔からそうだ。きっと先祖はアムール川よりずっと北の方で、鮭でも獲って暮らしていた民族だったんだろう。

川井俊夫 @toshiokawai1122

我が家周辺の街灯が、みんな、目が痛いくらいに真っ白なLEDの灯りに変わっている。市の仕事らしいが、もう少しなんとかならなかったものか。ガス灯にしろとは言わないが、色味だとか、雰囲気だとか、景観に配慮した工夫や面白味みたいなものがあってもよろしかろう。

川井俊夫 @toshiokawai1122

静かな夜だ。久しぶりにスコッチをストレートでゆっくりと飲む。強い酒をそのまま飲むのが今の俺にはあまりよくないのは分かっている。もちろん内臓のこともあるが、やはりスピリッツはスピリッツなんだ。過去にアルコールにどっぷりと浸かった身体や脳は元には戻らない。

川井俊夫 @toshiokawai1122

飲み始めるとブレーキが効かない。一人でスピリッツを飲むとき、もう「嗜む」ことはできない。発狂するか気絶するまで飲んでしまう。だが今は身体の方が先に根を上げてぶっ倒れてしまうから、昔のようにはならない。ただ寿命が少しばかり縮むだけだ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

スピリッツはアンプだ。少々命を削ってでも、必要な場面はある。例えば周囲の雑音や自分の本来持っている弱さ、未熟さのせいで精神が濁り、混乱して、次々に間違えた選択肢を選び、ドツボに嵌って魂を失いそうになったりしたときなんかに。清浄で強力なスピリッツの純粋な力が必要だ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

あらゆる肥溜めのクソを遠ざけ、その底に沈んだ、針の先ほどに小さな、本物の魂に意識を集中して、そいつを増幅し、クソを一気に吹き飛ばす。ちっぽけな魂の欠片もスピリッツで洗い、磨けば、力になる。一番重要なことだ。ぼんやりしていると虚無に飲み込まれる。気づかないうちに。あっという間に。

川井俊夫 @toshiokawai1122

俗っぽい話題だが案外気になっていたのは、ミュージシャンというのかバンドマンというのかアーティストというのか知らないが、とにかく現実に音楽をやっている有名人が酒や薬や不倫やその他諸々の違法行為で、謝罪やらなんやらというのは全くバカげてるのは事実だが、一応筋の通った説明もある。

川井俊夫 @toshiokawai1122

すなわち彼らはレコード会社と契約している時点で、既に会社員であり、だたのサラリーマンであるから、集団の一部となって、集団の利益を追求し、集団の繁栄と生き残りの為に最善の選択をし続けねばならない、ということだ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

べつに音楽家に限らず、画家であっても作家であっても彫刻家であっても同じだろう。自己のpatronに違法行為を嫌う向きが強い、或いは多数の遵法主義者がいるが故にその顔色をオウカガイシテ、自己の生活の安定を図る。群れに生きるは表現者も同じ。人とは業の深い動物の最たるものである。

川井俊夫 @toshiokawai1122

何処までも追いかけてくる。いくらこちらで余計なお世話だとお断りをしても、そうは問屋が卸さない。何故なら、視界に入るもの全ては、群れの共有財産なのだから。息をするだけで、いや、連中の道理で云えば、ただ生まれてきただけで、その瞬間から個人は群れの財産を消費する群れの一員なのである。

川井俊夫 @toshiokawai1122

連中の悪意から逃れる方法はない。従うか、罪人となるか。自分が群れの簒奪者であることを認めた場合、実際には孤立無援の存在になるわけだが、奴らの反応は違う。敵対する別の集団から送り込まれた兵士だということになる。そうしてまた、新たな狂気が生まれる。

川井俊夫 @toshiokawai1122

これは芸術の問題ではなく、生の問題であって、宗教や科学以前の問題でもある。といって動物の生態は哲学的な問題ではない。我が観察者になれない以上、人間は永久にこの問題を解決することはできず、ただ闇雲に手前勝手な秩序と安寧を目指し、集団的に個人の精神の殺戮と破壊を続ける。

川井俊夫 @toshiokawai1122

この原罪を悲しみと呼ばず何が悲しみか。守銭奴的な拝金主義者を私は非難できない。彼らは少なくとも体制と対等にやり合うために、敵対する群れを率いることを選び、その群れに責任を負い、新たな"自分の"群れを堂々と導く。 君の所属はどの集団かね？ ビジネスカードの出番だ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

さて、音楽家の話だったか。音楽家も人間だ。罪深き集団の構成員である。その生まれた病院のベッドや廊下のタイル、分娩に必要な数々の医療器具を自ら生産したわけではない。医者を養成する大学も彼が生まれる前に誰かの建てたものだ。問題はレコード会社との契約ではない。

川井俊夫 @toshiokawai1122

虚無や死は、ある日のっそりと顔を出す。健全な証拠さ。それは人間のものであって、人間のものでない。社会の簒奪者を自認しろ。集団の財産を踏み躙るがいい。人間が真にその精神の自由と魂の尊厳を守ろうとすれば、それは必然なのだ。躊躇う必要はない。連中の悪意に唾を吐き、ドアの鍵を閉めておけ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

こんなにも長いこと歯医者に通うのは人生で初めてのことだ。長い不養生と横着な性格が災いして、俺の歯は半分以上ボロボロだが、歯医者に行くと、そのボロボロさに呆れられるのと同時に、必ず異常に強い顎の力と、数少ないまだ生きている歯の健全で堅牢で癖のないことに驚かれる。

川井俊夫 @toshiokawai1122

思うに俺は完璧な肉体を持って生まれた。頑健で痛みや寒さ、飢えにも強く、筋肉質で骨太な体躯は、あらゆる運動や暴力にも向いている。だのに、俺には勇気がなかった。怠惰で、堪え性がなく、飽きっぽい。その完璧な肉体をただ四十年近く遊ばせ、腐らせ、いまやただの汚い中年の乞食だ。

川井俊夫 @toshiokawai1122

そう、強い肉体に強い精神が宿るとは限らない。運命は皮肉だ。これほどデタラメに生きても、俺にはまだ貯金があるような気がする。肉体の堅牢さというのは、ときに崇高な精神の力をも凌駕する。健康も美容も入浴も歯磨きも寝小便も野グソもファッションもポルノも関係ない。何もなくても生きている。

川井俊夫 @toshiokawai1122

そのマヌケな事実に対して、俺には何の感想もない。今さら何が言えるっていうんだ？ 世の中にはもっと悲惨な能力や環境、現実に押し潰されそうになりながら、レジスタンスみたいに身体や心を潜め、自分を惨めな存在だと信じ、怒り、生きている連中がたくさんいる。だが俺には関係ない。

川井俊夫 @toshiokawai1122

嗚呼、確かに天は彼に二物を与えはしなかった。だが彼にとっては、イチモツだけで充分だったってわけだ！ こんな不公平が許されるのか？ 不公平だって？ 彼の義父は生まれつき片脚の障害者で、虚弱で糖尿で身の丈は150cmしかない車椅子生活者だが、今でも医者だから俺の百倍も金を持っている！

川井俊夫 @toshiokawai1122

結論 何も問題ない。世界はメチャクチャだ。