そばつゆのなんちゃって物語

てきとーすぎる連続post
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@sobatoyou

【1】ピアノが大好きな女の子がいました。名前をシズといいます。まだ上手に弾く事は出来ませんでしたが、暇を見つけては小さなピアノの前にちょこんと座り、楽しそうに鍵盤で遊んでいました。そんなシズの家にはもう一台、パパが絶対に触ってはいけないよと言う不思議なピアノがありました。

2010-04-19 11:45:11
@sobatoyou

【2】シズはそのピアノを弾いてみたくて溜まりません。なにしろ自分のピアノの何倍も大きくて、表面は鏡の様にピカピカだったのですから、それは綺麗な音がするに違いないのです。けれども言い付けを破る訳にはいきません。怒ったパパはまるで物語に出てくる鬼と同じくらいに怖いのです。

2010-04-19 11:47:22
@sobatoyou

【3】不思議なピアノはパパの部屋にありました。留守番をしている時にこっそり覗きに行きましたが、部屋にはしっかりと鍵が掛かっているので入る事は出来ません。シズは仲良しのクマのぬいぐるみに相談しました。どうしたらパパはピアノを弾かせてくれるかしら。クマは困った顔を浮かべるばかりです。

2010-04-19 11:51:57
@sobatoyou

【4】「まっさんはいつもダンマリね」まっさんとはぬいぐるみの名前です。そんな事を言われてもと思ったのでしょう。まっさんはやっぱり困った顔をしていました。その時です、困った困ったと声が聞こえて来ました。廊下に出てみると、まっさんより困った顔のパパが走り回っているじゃありませんか。

2010-04-19 12:02:38
@sobatoyou

【5】パパは小さな袋を持ってウロウロと廊下を行ったり来たりしています。「パパどうしたの?」「シズや、大変なんだ。お得意様から修理を頼まれていた品物を、別の袋と間違えて渡してしまったんだよ。」それは大変です。パパは楽器のお医者様をしているのです。今頃お得意様も困っているでしょう。

2010-04-19 23:24:48
@sobatoyou

【6】「パパ、早くその袋を届けてあげなければいけないわ」シズはパパが落ち着く様に、ゆっくりはっきりと言いました。「そうだ!そうだね。早く届けなくては。シズや、クマ君と留守番を頼むよっ」パパは一息にそう言うと、玄関から飛び出して行きました。その速い事といったら、つむじ風の様でした。

2010-04-20 19:02:27
@sobatoyou

【7】「まあ!パパったら靴も履かずに行ってしまったわ」パパは優秀なお医者様でしたが、そそっかしいのが玉に傷なのです。パパを見送ったシズは部屋に戻ろうとして驚きました。なんとパパの部屋が開いているのです。きっと慌てていて忘れてしまったのでしょう。今ならピアノに触る事が出来るのです。

2010-04-20 21:51:01
@sobatoyou

【8】おそるおそる部屋を覗いてみると、窓際にあのピアノがあるのが見えました。ピアノは赤い色のシーツにすっぽり覆われていました。シーツには丸や三角を組み合わせた不思議な模様が沢山書かれていて、見ている間にくるくるとその形を変えていきます。シズはそれがまるで万華鏡みたいだと思いました

2010-04-21 13:58:44
@sobatoyou

【9】「お嬢ちゃん、そんな所に立っていないでこっちへおいでよ」突然話しかけられたシズはびっくり仰天。ペタンと尻餅をついてしまいました。見回してみても誰も居ません。声の主はそんなシズが可笑しかったのでしょう。ケタケタ笑い出すものですから、シズは恥ずかしくて顔を真っ赤にするのでした。

2010-04-25 15:14:53
@sobatoyou

【10】笑い声に耳を傾けると、声は知らない男の人の声で、ピアノの方から聞こえてくるのが分かりました。ピアノの影に誰か隠れているのでしょうか?パパから知らない人を家に上げてはいけませんと言われているのに、これは困りました。「でも、最初から上がられていたらどうすれば良いのかしら?」

2010-04-25 16:17:26
@sobatoyou

【11】ともかく予定に無いお客様の姿を見てみない事には始まりません。シズは勇気を出してピアノに近づいて行きました。まっさんがいれば心強いのにと思いました。「いらっしゃいお嬢ちゃん。こんなに笑ったのは久しぶりだ」「その挨拶は私の物よ、知らないお客様。それに隠れてお話なんて失礼だわ」

2010-04-26 14:29:24
@sobatoyou

【12】「別に隠れているつもりはないんだがね。俺はお嬢ちゃんの前にこうして立っているじゃないか。このシーツにしたって掛けたのはお嬢ちゃんの父上様さ」声の主はおかしな事を言いました。まるで自分が目の前のピアノであるかの様な口振りじゃありませんか。「もしかして貴方はこのピアノなの?」

2010-04-26 16:57:26
@sobatoyou

【13】シズの問いかけにピアノは、もしかしてとはどういう意味かねと呆れた風に言いました。「驚いた。貴方は魔法のピアノなのね!」「そんなに驚く事かい」「それはピアノとお話するなんて初めてだもの。ええ、きっと世界中で何人もいないと思うわ」シズは嬉しくて、胸のドキドキが止まりません。

2010-04-27 08:35:35
@sobatoyou

【14】魔法のピアノはどんな音色がするのだろう。シズの想像は膨らみます。明るい曲を弾けば花壇の花達が歌い出し、静かな曲を弾けば夜空の星達が踊り出す。シズはうっとりとしました。「お嬢ちゃん、俺を弾いてみたくはないかい?」だから、魔法のピアノの誘いをシズは断る事が出来ませんでした。

2010-04-27 14:53:52
@sobatoyou

【15】「うん、とっても弾いてみたいわ」「それじゃあ、まずはこの邪魔くさい布きれを外しておくれ」布きれとはピアノに掛かった赤いシーツの事でしょう。話すピアノも不思議ですが、このシーツも不思議な品です。近くで見ると、部屋に舞う小さな埃が布地の表面に波紋が生むのが分かりました。

2010-04-29 11:01:50
@sobatoyou

【16】シズは万華鏡みたいな模様に見張られている様な気がしましたが、魔法のピアノの言うままにシーツを手に取りました。途端シーツに大きな波紋が広がって、不思議な模様は一つ残らず消えてしまいました。シズはシーツを振ってみたり叩いてみたりしましたが、もう模様も波紋も浮かびませんでした。

2010-04-30 19:41:55
@sobatoyou

【17】シズは何だか怖くなってきました。この事をパパが知ったらどんなに怒る事でしょう。シズの瞳にみるみる涙が滲み始めました。「心配いらないよ、お嬢ちゃん。シーツの模様は後で直してあげるから」魔法のピアノが優しく声を掛けました。「本当⁉」「勿論。さあさ、俺を弾いて奏でてごらん!」

2010-05-03 22:30:13
@sobatoyou

【18】不思議な事にピアノにそう言われると、お腹に溜まった冷たい水がホッと温まった様に感じられ、シズの不安は何処かに消えてしまいました。「さあ、早く早く!」ピアノは待ちきれないと急かします。シズがピアノの蓋をゆっくりと持ち上げると、そこには見た事もない美しい鍵盤が並んでいました。

2010-05-07 12:37:44
@sobatoyou

【19】鍵盤はどれも艶やかで、シズの目を奪いました。なにしろ白鍵は真珠で、黒鍵は黒真珠で出来ているのです。シズは震える指でドの音を鳴らしてみました。“ポーン”まるで硝子で出来た様な澄んだ音がします。嬉しくなったシズが、今度は沢山の鍵盤を同時に鳴らしてみようとしたその時です!

2010-05-08 00:58:26
@sobatoyou

【20】「お待ち下さい、お嬢様!」それからの事は瞬きの間の出来事でした。突然上がった制止の声に振り向けば、そこには又しても誰もいません。制止は間に合わず、シズの指が鍵盤を叩くと、魔法のピアノから物凄い音の竜巻が巻き起こったのです。竜巻は家の天井を突き破り、まさに天に昇る竜でした。

2010-05-15 12:03:36
@sobatoyou

【21】竜はシズもシズの家も巻き込んで、どんどん大きくなってゆきました。竜の中は音の嵐です。そこでは千の鳥が歌い、一万の花が開き、一億の雷が落ちています。竜は空に届くと空を硝子の様に砕き、世界中に硝子の雨を降らせました。そうして竜は66億の叫びを巻き込むと、消えてしまうのでした。

2010-05-15 12:49:12
@sobatoyou

【22】シズが目を覚ますと、そこは深い霧の中でした。あまりに霧が濃いので、周りはおろか自分の手足さえ見えません。確かに自分の手足の感覚はあるのに、見えなくなっただけで自分が消えてしまった様に感じられます。もしかして、パパの言いつけを破った罰が当たったのでしょうか。

2010-06-01 00:49:23
@sobatoyou

【23】シズは泣きながら霧の中を歩いて回りました。しかし涙というものは、1人で流しているとすぐに枯れてしまいます。そして涙が枯れてしまうと人は泣いている時よりもっと苦しくなるのです。シズは苦しくて苦しくて、もう立っている事も出来なくなって、その場にうずくまってしまいました。

2010-06-13 10:59:22